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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第17章 AfterStory3

 オメガの屋敷では、テーブルにお菓子が並べられ、ハロウィンパーティーが始まっている。
 仮装用の衣装はないが、楽しく過ごせる感じにしてみようと、皆が帰ってくる前に北都が提案したのだ。
 てきばきと紅茶用のカップを人数分並べ、ホットとアイスのポットを別々に用意した。
「皆、揃ったのかしら?」
 屋敷に残りオメガを守っていた者と、封神台から戻ってきたメンバーが全員いるか、ルカルカはリビングを見回す。
「シュウ、私たちもよっていきましょう」
「そんな・・・王天君を討ち損ねてしまったのに、いいのでしょうか」
「計画を完全に破綻させたんだし、討ったも同然よ」
 ティアンはそう言うと彼の手を引っ張り、屋敷へと入る。
「あぁもう、1発も浴びさせられないなんて・・・っ」
「仕方ないわよセレン」
「こうなったら、お腹いっぱい食べてやるわ!!」
 食べ物で憂さ晴らししようと無遠慮にリビングに行く。
「なんか不機嫌ね、どうしたの?」
「いえ、気にしないでルカルカ。ほら、セレンこれでも食べていなさい」
 十天君に傷すらつけられず、膨れっ面をしているパートナーの口に、セレアナがクッキーを放り込む。
「あぁそうだ。皆、例のことは内緒にしててくれよ?」
「うん、もちろんっ」
 後で御奉行とかに怒られるかもしれんしな、という唯斗にルカルカが親指を立てて了解という仕草をする。
 彼女だけでなく、他の者も十天君を討つために止むを得なかったことを知っているため、誰かに言うようなマネはしないだろう。
 風の噂で流れても、上の者に現場を見られたわけでもないから、白を切り通せばいいことだ。
「よかった、間に合いましたね」
 説教マシーンのように何時間も魔女を叱りつけ、魔法学校へ戻るように説得した真言がやってきた。
「まだ人数が足りない気がするけどな・・・」
「まぁ・・・何かそれぞれ思うことがある人もいるんですよ、マーリン」
 病院にお見舞いや、入院中の者。
 犠牲になった者の墓へ、今回のことを報告しに行った者もいるから、何人か欠席している。
「―・・・アウラ様?あの場所がまだ紛い物かどうか、確認したいですか」
「その必要はない。おぬしが拾った枝が消えているからのぅ」
「封神台を出ると同士に消えてしまったようです・・・」
 あれは紛い物であり、やはりおぬしらの言葉は真実であったというふうに言う様子に、真奈はようやく安堵し、嬉しそうに微笑む。
「アウラネルクさん、封神台から出られたんですね」
 窓の外にいる妖精を見つけ、真言が声をかける。
「おぬしは・・・?」
「えっと・・・」
「全て記憶が再生したわけではないんです・・・」
 名前を聞かれて困り顔をしている彼女に、真奈が説明する。
「そうなんですね。私は・・・真言と言います」
 忘れられてしまったのは寂しいけれど、またこうやって会えたのだから、よしと思っておくべきか・・・と笑顔で言う。
「ほう、真言というのか」
「はい、よろしければこちらにきませんか?」
「すまぬがわらわは入れぬようじゃ」
「それはどういうことでしょう・・・?」
「おばさんたちの術の効力がしつこく残っているせいで、入れないんですよ」
 妖精や水竜といった力のある者は入れないようようだ、と・・・お手製のパンプキンシチューを運んでいるリュースが事情を説明してあげる。
「ということは、ルカもまもなく入れなくなる危険性があるということだな?」
「そういう淵もね!」
 アイスティーを飲みながら淵を軽く睨み言い返す。
 アルファは元々オメガのドッペルゲンガーだったから、すんなり入れるし、しかも出るのも自由だ。
「オメガは、これからどう・・・するのだ?」
 今までと違い、無意識に殿を付けず、淵が話しかける。
「そうですわね・・・」
 泡たちも呼び捨てで名前を呼んでくれるため、オメガは彼の変化に気づいていないようだ。
「いつまでも、ここにいるわけにもいかないだろう。アルファは別の・・・例えばイルミンの寮で住むとか色々道はある」
 屋敷の前での彼女の怯え様だと、姉妹同居は無理そうだと淵は他の手を考える。
「ねぇ・・・泡」
「うん、今言おうと思っていたところよ。―・・・あの、住む場所が決まらないなら、こういうのはどう?」
 魔法武具 天地(まじっくあーてぃふぁくと・へぶんずへる)の声に、泡は2人の魔女が住まうに相応しい場所を提案する。
「オメガはもう、外へ出られるようになったんでしょう?」
「えぇ、そうですわ」
「魔法学校に住まない?」
 十天君が与えた家なんだし、何度も襲撃されて恐怖の象徴のような場所から移り住んだほうがよい。
「いずれはどこかへ、移り住むことにはなるでしょうけども・・・」
 辛い思い出だけでもないから、新たに住まう場所はじっくりと考えてたいと、言う。
「うちの方の学校に決めたら、いつでもいってね!」
 いつでも迎え入れてあげるから連絡してね、と笑みを向ける。
「アルファは・・・やっぱりいったん、距離を置きたい?」
 近くにいては、いつオメガの魂を欲してしまうか分からず、ずっと衝動に怯えてしまうだろう。
「えぇ、出来れば・・・」
「葦原がいいんじゃない?」
「―・・・なぜ葦原なんですの?」
「そのことなんだが・・・」
 ずっと言う機会を待っていた唯斗が言う。
「アルファ、俺と一緒に来ないか?俺と契約して共に生きて欲しい」
「契約・・・?わたくしとですの?」
「すぐに答えは出さなくていい。ゆっくり考えてみてくれ」
 きっと他にも言い出したい者がいるだろうと、ひとまず彼女の返事を待つことにした。
「2人とも、安息の地が見つかるといいですね」
「そうね・・・ずっと苦しんできたんだもの」
 安心して過ごせる場所を早く見つけてあげたいですね、と言う天地に、泡はこくりと頷き、よい場所に移り住めるように提案したくなるもの当然だ。



「なぁ、アルファ。ちょっといいか?」
 紫音も彼女に言わねばならないことがあるよう様子で、別室へ呼び寄せる。
「どうしましたの?」
「アルファ、よかったら俺たちと一緒に来ないか。苦しみも悲しみもそして喜びも一緒に分かち合っていこう」
 もしかしたら何も言い出せず、先を越されてしまうかと思ったが、言い出すチャンスを見つけて呼び出した。
「アルファさん、これからは楽しいことを考えて生きましょうぇ」
「これからは前を向いていくのじゃ、そしてわらわたちと一緒に笑っていこうぞ」
「貴公がどのような道を歩もうとも、何処に居ようとも我等は貴公の友じゃ」
 首を縦に振ろうとしない様子に、パートナーの3人は契約しなくとも友であることは変わりないと、自分たちの気持ちを伝える。
 風花やアルス、アストレイアまでもが温かい言葉をもらい、アルファは悩んでしまう。
「まあ、何があっても俺たちが友達だって事には変わりがない。何かあったら呼んでくれ、助けに駆けつけてやる。」
 どちらか選ばせるのは酷なことだろうと、いつまでも友達だからな、と彼女の手を握る。
「もうしばらく・・・考えさせていただきますわ」
「あぁ、そうしてくれ。だけど、悩まなくていいからな?」
「はい・・・」
「何です、この空気!重すぎどすぇ〜。はよ席に戻りますぇ」
 風花はアルファを連れて先に席へ戻っていく。
「おかりなさい!何を話していなんですか?」
「えぇちょっと・・・」
 聞きたそうな顔をする睡蓮に、アルファはどう話していいのやら困り、言葉を濁す。
「ご注文のパンプキンプリンのタルトだよ」
 北都はナイフで切り分けて皿に盛り、オメガの方へ寄せてやる。
「美味しそうですわね、いただきます」
「チョコチップたっぷりでおいしーっ」
 ルカルカはクッキーや、ビタートリュフチョコを口にぱくつき、ほわ〜んと幸せになる。
「へぇー、リキュールも入っているのか」
 オレンジピール&リキュール入りのトリュフに、満足した様子でエースはもう1つ口に放り込む。
「よかった、ちゃんと焼けてるね」
 スコーンの焼け具合を確かめようと、北都はサクサクの胡桃入りスコーンを食べる。
「グラキエス、私が皿に取り分けてやろう!」
「いや、自分で取れる・・・」
「なんなら、食べさせてもよいのだぞ」
「騒ぎすぎだ、ベルテハイト」
 主を困らせるなとアウレウスは顔を顰める。
「ここに置いたクッキー、誰か知らない?」
 オーブンからもってきた焼きたてのクッキーが跡形もなく消えてしまい、カティヤが首を傾げる。
「それならそこの人が、持っていっちゃったよ」
 紅茶を飲みながらレキがベルテハイトへ顔を向ける。
 もちろん自分が食べるのではなく、弟のために取ってきただけなのだが、それにしても空気を読まない。
「て・・・全部!?」
「チムチムも食べたかったアル・・・」
「んもぅ、困った人ね」
「真さんたちは?」
 さきほどから姿が見えない彼らを気にかけた歌菜が言う。
「彼なら病院にいったわよ。お見舞いのほうね」
 いつもお見舞いに来てもらう側の彼が珍しく、お見舞いするほうの側にいる。
「少しお菓子を持たせてやったから、向こうで食べてるだろうな」
「そうなの?羽純くん」
 お土産を持っていった先で事故に巻き込まれないかと、そっちの方面で心配になっている。



「はっくしゅん!風邪でもひいたかな?」
 噂をされるとクシャミをするという話があるが、まさにその通りに真が病室でクシャミをした。
「おいおい、うつすなよ」
「どこも具合悪くないから、風邪じゃないはずだよ」
 自分から離れる彼を見て、酷いな兄さんと苦笑いをする。
「黒龍さん、葛葉さん。これお見舞いだよ」
「すまないな・・・」
 あれだけ抉られるようなことをされたら、魔法でもなかなか癒えきらないだろうと、念のため検査をしてもらった。
 結果、手術をすることになり、2人は数日間まともに動けないだろう。
「ちゃんとキレイどころもいるから安心してくれ」
 野郎ばっかじゃ暑苦しいし、縁や皐月がいれば目の保養にもなるだろ?と言う。
「はいは〜いキレイどころその1と、その2の皐月だよ」
「自分でキレイとかって・・・かなり苦しいような・・・」
「いいじゃない?皐月は可愛いんだしさ」
「真、ちょっと外に出ないか?」
「何で?」
「いいから、こいってっ」
「皐月、私たちは飲物でも買ってきてあげよう」
「あっ、そうだね」
 話すべきこともあるだろうと、気を利かせて2人だけにしてやる。
「―・・・葛葉、無理をしろといっても・・・あのようなことは、死ににいくのと同じことだぞっ」
 どうしてあんなマネをしたのか聞こうと、筆談の返答を待つ。
「―・・・・・・ただ、・・・守りたかっ・・・・・・た」
 今まで筆談で話していたせいか、葛葉は言葉を途切れさせながら、ゆっくりと話す。
「だからといってあれは・・・」
 ムッとした黒龍は注意という小言を言おうとし、彼の声を聞いたとたん、言葉を止める。
「葛葉・・・・・・おまえ、声が・・・・・・!!」
 彼の声を聞こうと喋るの止めて待ってみるが・・・。
 今日は、それきり1度も喋る様子もなく、葛葉は筆談すらせず黙ってしまった。