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Blutvergeltung…導が示す末路

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Blutvergeltung…導が示す末路

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第6章 愛とは・・・時に闘って得るモノ

「なんか、これ以上関わっているとお邪魔そうなので、他に回りますね」
 ティアン・メイ(てぃあん・めい)は他の十天君を探そうと、寒氷陣の解除を頼む。
「董天君さん、戦いに集中するためには、その方がいいですよ♪」
 戦い好きの彼女の性格を知ってか、いったん術を解除したほうがいいとソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)が勧める。
「他のやつと戦いたいっていうなら好きにしろ」
 そう言うと董天君は寒氷陣の術を解除してやる。
「ナタさん、頑張って彼女を振り向かせてね!」
 立ち去ろうとするティアンがピタッと足を止め、李 ナタの方へ振り返り、恋を成就させてね、とエールを送る。
 彼女の思いがけない言葉に、ナタクは顔を真っ赤にし、“ぉ・・・おう!”と小さな声音で言う。
「ほら、シュウ行くわよ!」
 ティアンは高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)の方へ視線を向け、また2人の戦いの間に入らないうちに連れて行こうと、彼の肩を軽くぽんっと叩く。
「・・・まあ、僕は強い敵とやりあえれば良いので、相手は誰でも構いませんが・・・」
 他人の恋路を邪魔するのも野暮だと、玄秀はティアンと共に立ち去る。



 再び寒氷陣の中に取り込まれたナタクは、董天君だけを見据えて挑みかかる。
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)とソニアは、2人の邪魔にならないよう、遠くから見守ろうと彼らから離れる。
「寒氷陣の出入りは董天君の意思で、自由に出来るのか・・・。と、なると・・・陣が展開中でも他の十天君が来る可能性はあるか・・・」
「その心配はないと思いますよ。他の方が入り込めるような術なら、彼女が教えてくれるでしょうから」
 挑まれるのは好きでも、横槍は好まないはずです、とソニアが言う。
「そういう不意打ちを許すような方ではないでしょう?」
「なるほど・・・。それが、味方であっても・・・か。(だが・・・董天君の存在をよく思わない者も、まだ封神台の中にいるだろうな・・・)」
 どちらにせよ、陣の外に出たら襲撃されないよう、警戒しなければならないようだ。
 今は戦いの結末を見届けようと、ソニアから2人へ視線を移す。
「さっき俺の告白に対して『人前で言うな』って言ってたけど・・・。2人っきりなら好きなだけ言ってもいいのかな〜?」
 ナタクは董天君の平静を崩してやろうと、ニヤリと笑いながら言う。
「構わないぜ?ただし、耳を塞いでやるけどな」
 だが、彼女はそれを鼻で笑い飛ばす。
「な〜んで塞ぐ必要があるんだ?あれかっ、それって・・・好きってことか?」
「だっ、誰がお前なんかっ」
 キッと眉毛を吊り上げて怒り、ナタクの間接を狙って拳を繰り出す。
「誰をー・・・なんて言ってないぜ?それとお前じゃなくて、ナタクって呼ぶ約束だろ?」
 龍鱗化した腕でガードしながら、過剰とも思える反応を眺めて楽しむ。
「あれ・・・案外、俺が抱きついたりキスした時に暴力振るってたのは、照れ隠しか?」
「おい・・・・・・もう1度言ったら、そのツラぶん殴ってやるっ!」
「―・・・ナタクのヤツ。抱きつくとか・・・・・・ごほっ、まったく・・・」
 自分たちが見ていないところでいったい何をしていたのかと、グレンはナタクのセリフに眉を潜める。
「そそそれに董天君さんに・・・キ・・・キスとか、どういうことですか!?もしかして・・・く・・・・・・いえいえっ、まだそんな早すぎますよねっ」
 ソニアは顔を真っ赤にし、ナタクがどの辺にキスをしたのか想像する。
「まさかそんなことをしたら・・・」
「ですよね、殴られますよね・・・・・・」
「―・・・自分よりも弱い男は嫌いらしいからな」
「ナタクさんが勝ったら、・・・・・・っ」
 もしも彼が彼女に勝てば、それもありえるのではと、もわもわと妄想してしまう。
「全てを敵にまわしてでも・・・護りたい人だからな・・・。ここで決着がつくといいんだが・・・」
 グレンは自分にもそういう人がいるから、とナタクの想い人を死なせるものかと、彼の勝利を祈るように見守っている。



 ソニアやグレンが見守る中、ナタクはまだ1度も董天君を地に伏せさせることが、出来ていないようだ・・・。
「(やっぱ・・・強いな・・・)」
 何度も戦ったことのある仲だが、拳だけでも容赦のない攻撃に、ますます惚れたという様子で相手を見つめる。
「(だが・・・振り向かせるためには、勝たなきゃなっ)」
 後の先を読み、董天君の延髄蹴りを腕でガードし、その足をガシッと掴む。
 真っ白な雪の上へ投げ、彼女の腕に掴みかかろうとした瞬間。
「ごはっ!?」
 思い切り腹を殴られ咳き込む。
「さっさと降参しな?でないと圧し折ってやるぜ」
 ナタクの右腕を掴んだ董天君はすぐさま後ろをとり、背に肘鉄を食らわせて、雪の中に殴り伏せる。
「まだまだこれからだぜっ」
 口ではそう言ったものの、背を踏まれたあげく右腕の間接を逆に曲げられそうになっている状況で、平気なはずはない。
 細身の彼女のどこにそんな力があるのか、という感じだ。
「あぁっ、ナタクさんがピンチです!この恋を逃したらナタクさんは・・・」
 きっと付き合ったら、普段は鬼のように暴力的でツンとしていても、2人の時はきっと女の子らしい面がある・・・。
 そんなシーンが見れないなんて!と、ソニアは両手で顔を覆う。
「んのぉおお〜っ、ぜってー負けねぇええ」
 ナタクは残る体力を全て使い、左腕を雪の中に沈ませてゴロンッと転がり、その拍子に董天君は彼の下敷きになってしまう。
 無謀ともいえる荒技だが、彼女よりも先に立ち上がり、羽交い絞めにする。
「へっ、俺の勝ちだな?」
「勝手に言ってな!」
 ガッとカカトで彼の膝を蹴り、彼の腕から逃れる。
「さっさと沈みやがれっ」
 ドフッと彼の腹に拳を叩き込む。
「―・・・そ、そんな・・・」
 小さな声音で言うソニアの視線の先は・・・。
「―・・・・・・ちっ、やるじゃねぇか・・・」
「へへ・・・・・・俺の・・・」
 ナタクも董天君の腹を拳で殴り、2人同時に雪の中へ倒れこみ、気を失ってしまった。
「相打ち・・・・・・ですか?」
「こういう場合は・・・、先に目を覚ましたほうが勝ちだな」
 董天君が気絶したことで寒氷陣の解除され、グレンはナタクを背負ってやる。
「早く起きてくれるといいですね」
 ナタクが先に目を覚ましてくれたら、という意味でポツリと言う。
「董天君さんは私が運びますね」
 目覚めた彼女を暴れさせないために、ソニアは仕方なくお姫様抱っこする。
「(もし・・・2人が付き合うことになったら。こんな感じに・・・抱っこしたりするんでしょうか!?)」
 封神台の外を目指しつつ、そんな未来予想したソニアは赤面する。