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【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

リアクション公開中!

【2021ハロウィン】空京コスプレコンテスト

リアクション

「……ねえ、ちょっとこれは目立ちすぎじゃない……?」
 包帯一丁、という格好のセレアナは、一歩前を歩く、同じ様な格好のセレンフィリティに小声で話しかける。しかしセレンフィリティは全く意に介す様子はない。
「いいじゃないの、見せつけて上げましょうよ」
 うふふと妖艶な笑みを浮かべ、セレアナの腕に自らの腕を絡め出す始末だ。
 無論こんな格好でそんなことをしていれば、周囲からは好機の視線が突き刺さる。
 露出大好きなセレンフィリティは悦んでいるくらいだが、そうではないセレアナとしては非常にいたたまれない。
 早く帰りたい……と嘆いていると。
「すみませーん、蒼空学園生徒会広報担当の者です。ちょっと良いですか?」
 取材に回っていた凶司達三人が、その目立つ風貌に惹かれて寄ってきた。
 生徒会、という単語に、咄嗟に怒られる、と思ったセレアナだが、そう言う雰囲気ではない。
「今ネットで、イベントの様子を中継しているのですが、インタビューさせて頂けますか?」
 セラフが明後日の方向を映している間に、ディミーアが二人にマイクとカメラを示して許可を求める。後ろでノートパソコンを操作している凶司は何か言いたげだが、中継システムの維持がなかなか大変なようで口が出せないでいる。
「へぇ、面白そうじゃない」
「え、待ってよセレン!」
 カメラとマイクに興味津々なセレンフィリティが二つ返事でオーケーしてしまう。何処に配信されるか分かったものではないというのに、とセレアナは気を揉むが、奔放なパートナーは微塵も気にしていないようだ。
「では、こちらの方々にインタビューしてみましょう。こんにちは、すごい衣装ですね。今日は何のコスプレですか?」
「ミイラ女、ね」
 向けられたマイクに向かって、セレンフィリティは堂々と答える。
 セレアナはその隣で、カメラを見ないように出来るだけ小さくなって立っている。
「うーん、どうやら、オリジナルの衣装みたいねぇ。とってもセクシーで素敵だけど、これ流しちゃっていいのかしら」
 カメラ兼解説係のセラフが、ナレーションついでに一言突っ込んだ。
 凶司が苦い顔をしながらなにやらパソコンを操作している。
「じゃあ、得意のポーズをお願いします」
 そんなことにはお構いなしで至極真面目に番組を進行するディミーアに応え、セレンフィリティは徐にセレアナの腰を抱き寄せた。
「ちょっと、人前で何を……!」
「ほらほら、ポーズ決めて?」
 顔を赤らめるセレアナに近付くと、セレンフィリティはパートナーの胸元に巻かれた包帯をするすると緩め、指に絡める。
 羞恥で顔を真っ赤にしながら、セレアナも渋々その場でポーズを取る。そうでもしないと解放して貰えなさそうだ。……カメラの方は死んでも向けないけれど。
「はい、ありがとうございました!」
 永遠に続くかと思った一瞬の後、ディミーアのかけ声が掛かると、セレンフィリティはぱっとセレアナを解放した。思わずホッと溜息が漏れる。
 凶司達は、取材協力ありがとうございました、と改めて一礼して去っていく。
 なお、配信された映像では、凶司の手で二人の顔に黒い目線が入れられていたとか。その所為で余計イケナイ雰囲気になっていたとか。

「もう、ほんと、やめてよセレン」
 人前であんなこと……と、凶司達を見送ったセレアナが溜息混じりにパートナーを振り向いた。
「何言ってるの。この完璧な肢体に注ぎ込まれる欲望まみれの視線が女を磨くのよ?」
 しかし当の本人は、反省するどころか、逆に胸を張って、周囲から浴びせられる好奇の視線を楽しんでいる始末。はぁあ、とセレアナの深い溜息が響く。
「それより、身体が熱くなってきた……今夜は眠らせないわよぉ?」
 そんなセレアナの耳元に唇を寄せてセレンフィリティが呟く。
 それはさっき密着したからでしょう、と呆れ気味の溜息がもう一つ漏れたけれど、拒否はしない。どうせそんなことになるだろう、と、この衣装というか包帯を渡された時から予想していた。
「お嬢さん達、ちょいと失礼」
 と、いちゃいちゃしている二人の間を裂くように、狐樹廊がひょこっと顔を出した。
 あまりに突然だったため、二人はきゃっと小さい悲鳴を上げて飛び退く。
「露出対策はしっかりおねがいします、と手前、受付で申し上げたはずですがねぇ」
 人当たりの良い笑顔を浮かべては居るが、その口調はどこか黒い。
 スゲー露出度のねーちゃんが居るぞー、という噂を聞きつけて飛んできたのだ。
「あら、大事な所は隠してるわよ?」
「他のお客さんが不愉快になるような衣装はご遠慮頂いておりますんで。あ、肌色レオタードなら受付で販売していますよ」
 反論しようとするセレンフィリティを、しかし狐樹廊は有無を言わさぬ笑顔で黙らせた。

 みんなも、お色気コスプレをするときは露出対策に気をつけようね!
 ……しないか。お色気コスプレ。


「たまにはこういうのも良いわねぇ」
 うふふ、と楽しそうに笑顔を浮かべながら、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は隣を歩く冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)を振り向いた。
 イベントの情報を聞いて、今日は二人でコスプレデートである。
 亜璃珠はタイトな黒いスカートにブラウス、上に白衣を合わせた女医風衣装。銀縁の伊達眼鏡も掛けて、理知的な女医の雰囲気たっぷりだ。
 連れ添う小夜子は、タイトなデザインのナース服。コスプレ用のレプリカなので、丈は色香たっぷりのミニ丈だ。(実際はこんなミニスカートでは仕事にならない。)
 大胆に露出されている太ももには、スカートの裾からチラチラ見えるレースをあしらったガーターベルトと、それが吊っている白のストッキング。
「そうですね。とっても楽しいです」
 普段だって色っぽい格好が多い亜璃珠だが、こんないかにもコスチューム、という格好はなかなかお目に掛かれない。小夜子は見慣れない亜璃珠の姿に、動悸を押さえられない。
「さ、シートを広げてしまいましょう」
 一通り公園内を歩き回ってから、二人は広い芝生の上でレジャーシートを広げた。
「お弁当は作ってきてくれたかしら?」
「はいっ、御姉様の為に一生懸命作りました」
 言うと、小夜子は荷物から立派なランチボックスを取りだして、シートの上に並べる。
 蓋を取れば、中には色とりどりのサンドイッチが詰まっていた。
「紅茶も準備してきています、お口に合いますかどうか……」
 ちょっと心配そうな小夜子を余所に、亜璃珠はすっとサンドイッチへ手を伸ばす。茹でた卵を丁寧に微塵切りにして、マヨネーズとあえたものが、白いパンに挟まって綺麗な三角形に切られている。見た目も綺麗な、愛情たっぷりのサンドイッチだ。
「うん、美味しいわ。小夜子も召し上がれ?」
「はいっ!」
 亜璃珠の打った舌鼓に小夜子は安堵の笑みを浮かべ、それから自分もサンドイッチへ手を伸ばす。それから紅茶の支度もして、二人はゆったりとランチタイムを楽しんだ。デザートは可愛らしいプチシュークリームだ。
「御姉様、口元にクリームが……」
 気付いた小夜子は身を乗り出して、亜璃珠の口元に残った生クリームをちゅっと唇ですくい取る。亜璃珠は小夜子のそんな一生懸命な姿が可愛くて、ついついイタズラ心を芽生えさせてしまう。
「ウフフ、ありがとう。ああ、お腹もいっぱいになったし、そろそろ遊びましょうか」
 そう言うと、亜璃珠はクスクスと何かを企んだような顔で笑う。
「折角こんな格好しているし……お医者さんごっこなんて如何かしら?」
「えっ……は、はい……」
 コスプレでお医者さんごっこ。……何も悪いことは言っていないはずなのに何故だろう、二つの単語が重なると、妙に響きが卑猥なのは。さらにそれが亜璃珠の口から零れてきたものとなると怪しさ三割増しだ。
――御姉様とお医者さんごっこなんて……
 あんな妄想やこんな空想が小夜子の頭を駆けめぐる。小夜子は少し戸惑いながらも、頬を染めてこくりと頷いた。
「じゃあ早速、患者を召喚しなくちゃぁね」
 言うが早いか、亜璃珠はちょいちょいっと空中で指を踊らせると、何事か口の中で呟いた。
 すると。
「え? あ、あら……お嬢様?」
 刹那空間が歪み、レジャーシートの上に、はたきを片手にお掃除の姿勢のままの、マリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)が現れた。
「どのようなご用でしょう……」
 どうせろくな用じゃないんだろうとは思いつつも、立場とマリカの性格上、言い出すことは出来ない。ただ粛々と、メイドとして頭を下げるだけだ。
「マリカ、貴方、今から患者よ」
「え、ええ? べ、別に私どこも悪いところなど……」
「ごっこ遊びですもの、座っていればいいのよ」
 命令よ、という亜璃珠に、マリカはちょっぴり涙目になりながら、はい、と頷いた。何をされるか分かったものではない、と覚悟を決める。
「えっと……じゃあ、私は何を?」
「ナースはそこで待機していて頂戴?」
 あれ患者役私じゃないんですか、と言わんばかりの小夜子が亜璃珠に問いかける。が、亜璃珠はそれが当然と言わんばかりに小夜子に待機を命じた。
「え……あ、はい……」
 患者役がやりたいです、という訳にも行かず、小夜子はただ頷いた。
 その様子を見詰める亜璃珠の瞳が、何故か些か楽しそうである。
「小夜子はナースだから付き添うだけよ。それとも、何か期待していて?」
「いっ、いえ、そんなことは……」
 ないです、と言い切れない小夜子。しかし亜璃珠はそんな小夜子の様子にクスクスと笑うだけで、すぐにマリカの方へ向き直ってしまう。
「ほら、胸を出して?」
「え、ええっ、あのその、急に患者になれと言われても、ええと身体は健康そのものですし、それに亜璃珠のお手を煩わせるわけには……確かにちょっと悪寒がないではないですが……!」
 するすると這い寄ってくる亜璃珠と、その背後から燃えたぎる氷の視線を送ってくる小夜子に挟まれて、マリカは目を回す。
 しかし亜璃珠はお構いなしで、マリカの衣服に手を掛けると、手際よくボタンを外していく。
「あ、聴診器がないわねぇ。触診で良いかしら?」
 愉しそうな笑みを浮かべながら、白い指をするりとボタンの隙間から滑り込ませる。
 ひぃ、とマリカが悲鳴を上げた。
「ふふ、胸に異常は無いみたいね?」
 さわさわとマリカの形の良い胸を良いように撫で回し、おやめくださいお嬢様ぁあ、と時代劇のような反応を見せるのを楽しみながら、ちらりと小夜子へ視線を遣る。
 顔を赤くした小夜子が、何か言いたげに亜璃珠を見詰めている。
 もう充分かしら、と顔には出さずに満足した亜璃珠は、やっとマリカを解放した。
「さ、診察はおしまいよ。でも、こっちはもっと重症みたいねぇ?」
 慌てて衣服を整えるマリカは放置で、亜璃珠は小夜子の方を漸く振り向く。
 熱に浮かされたように、少し目が潤んでいる。
「こっちは、入院して貰って検査しないと、ね?」
 そう小夜子の耳元で耳打ちすると、はい、と小さな声で返事が返ってくる。
「そうと決まれば、帰らなくっちゃ」
 ふふふ、と満足そうに笑うと、亜璃珠は小夜子の手を取って立ち上がった。
「片づけ、よろしくね」
 マリカに言いつけるのは忘れずに。