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学食作ろっ

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 ■■ お試しデリバリー ■■
 
 
 
「パソコンと電話に保温箱、乗り物と携帯情報端末……こんなもんかな?」
 食堂近くの一室を借りて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は必要資材を点検した。
「そんなものだろう。もし他に必要なものが出てきたらそれも資料として残しておこう」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は早速パソコンを立ち上げると、ネット注文を確認する。
 ルカルカとエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)たちは、緑ヶ丘キャンパスの学食にデリバリーサービスを導入してはどうかという意見を出していた。
 配達区域は校内はもちろんのこと、学園周辺地域まで。配達可能時間は始業から終業までとする。
 配達員はHC等の端末に行き先のデータを貰い、冷めないように保温箱に入れた料理を配達する。麺類はそのまま運ぶとのびたりこぼれたりする恐れがあるので、汁を保温ポットに入れ、配達先で注ぐようにする。
 新メニューを蒼空学園緑ヶ丘キャンパス名物として周知できること、広い校内の何処でも学食の料理を利用できること、の利点があるとルカルカは訴えたのだが、すぐに導入とはならなかった。
 配達に必要となる人員の数や料理の供給具合等の不安材料があるとされた為、まずは試験的に試食会で小規模に運営してみて、そこから必要なものを割り出し、最終判断をしようということになったのだ。
「涼司の為にも、成功させたいよね。みんなよろしくっ」
「確かに学食を別の場所で食べれるっていうのは嬉しいサービスだよな。野外でパーティとか、研究室で売店に行く余裕もない修羅場状態とかでも、ちゃんと食事が出来ると良いだろうし。忙しくてもきちんと食べた方が作業効率が上がるって分かってても、なかなか手を離して食事に行こうって気になれない時もあるんだよな」
 そんな時でもデリバリーしてくれるサービスがあれば助かる、とエースも言う。
 デリバリーサービスを考えたのはルカルカだけれど、エースもその案には賛同できるし、配達するには人手が必要だろうからと、手伝うことにしたのだった。
「お電話ありがとうございます」
 電話受付担当はエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)だ。
 名前や届け先、電話番号を聞いた後、注文の品を聞き取りながら端末に随時入力してゆく。
 今日は試し受付の為、配達員は3人しかいない。多くの注文が入れば配達が間に合わなくなる為、地域に告知のチラシは配っていない。だから電話がかかってくるのは生徒から頼まれた下宿先、そしてデリバリー実験に協力してくれる生徒たちからだ。
「はい、ハンバーガーセットがお1つ、ジンギスカンがお1つ、……」
 注文が終わると画面で値段を確認して伝えておく。
 ダリルはネット受付を担当する他、注文があった場所の地図データを配達する者に転送し、配達や容器回収の指示を出す役割だ。
 そして配達を受け持つのは、ルカルカとエース、そして……。
「あれ? カルキは?」
 配達を頼んであったのにと言うルカルカに苦笑すると、ダリルはカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に電話をかけた。
「もう注文が入っている。配達を手伝え」
 昼寝でもしていたのか、携帯の向こう側のカルキノスの声はどこか眠たげだ。
「ふぁ……配達?」
「ルカとエースだけにやらせる気か?」
「わかったわかったダリルが怒ると怖ぇからな。よいせ、っと……」
 やはり寝ていたのだろう。身を起こすような気配が携帯ごしに伝わってきた後、
「手間賃払えよ」
 カルキノスの笑み含みの声で電話は切れた。
「おっつけ来るだろう」
「だったらこの注文は俺が持っていこう」
 エースは配達を引き受けると、食堂へと向かう。
「事故にはくれぐれも気を付けて下さい、エース。僕はここで電話受付をしながらダリルさんの助手をしていますので、何かあればすぐに連絡して下さいね」
「ああ。エオリアも頑張ってくれよ」
 エースは食堂に行き、注文された料理を揃えた。それを岡持に入れると飛空艇の所へと持っていき、それを飛空艇に設置してある出前品運搬機に吊す。日本ではオートバイでの配達の際、岡持を水平に保つ為、この出前品運搬機が取り付けられている。多少の揺れは吸収してくれる優れものだ。
 配達は飛空艇が主で、入れない所だけが徒歩となる。
 注文を受け、揃え、移動して配達、代金の回収をして緑ヶ丘キャンパスへと戻る。案外時間のかかる作業の為、配達する3人が休み無く飛び回っても注文はなかなかさばけない。
「人員は多めの確保が必要だな。それと、予約制を考えた方が良いかも知れない」
 デリバリーの様子を見ながら、ダリルは実際の運用時の為に問題点を書き出していった。
 どれだけ配達しても追いつかないと思われたデリバリーも、ピークを過ぎると少しずつ落ち着いてくる。
「腹が減ったな。俺たちも鮭と秋野菜のシチューとパンでも取ろう。ああいい。近くだから注文品は俺が取ってくる。蓮見の腹も心配だからついでに様子を見てくるとしよう」
 無理をしそうだったら受注室に連行してくる、とダリルはその場をエオリアに任せ、食堂にシチューを取りに行った。
「そろそろいいかな。ちょっと行ってくるね」
「ん? ルカはどこに行くんだ?」
「配達における温度や味の変化が問題ないかの確認作業、と差し入れもねっ。涼司のところにだんごラーメンとさくらんぼ冷やしうどんを配達して、一緒に食べてくる。三倍速箒使って飛ばして行ってくるから、後はよろしくー」
 エースに答えると、ルカルカは麺を入れた丼とつゆを入れたポットを持って飛び出していった。
「じゃあこの注文は俺が持っていくか。さくらんぼ冷やしラーメン2つ、これはキャンパスの中庭だな」
 校舎内では飛空艇は使えないが中庭なら問題ない。急いでエースが持っていけば、
「あ、ホントに来た、ってエースが持ってくるとは思わなかったケド」
 手を振っていたのはクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)だった。
「なんだその一言は」
 苦笑するエースにクマラはしれっとして言う。
「丁度いいからお代はエースが払っといてヨ。エースはオイラたちのお財布だもん☆」
「俺に払わせるつもりで頼んだのか?」
 まあ払うけど、とエースは笑ってクマラにラーメンを渡した。クマラは2つのラーメンのうち1つをエースへと渡す。配達に来た人と食べるつもりで2つ頼んであったのだ。まさかそれがエースだとは予想外だったけれど。
「では、労働の対価を今ここで味わうがいいのにゃー」
「クマラ、何故お前がエラそうなんだ」
「お客様は神様とかいうじゃんか」
「支払いするのは俺だけどね」
 よく日の当たる中庭で、色づき始めた紅葉を眺めながらエースとクマラはラーメンを食べる。
「おいしー♪」
「天気がよい日はお日様の下で冷麺を食べるのもいいなぁ」
 器を返すときにそう伝えなければと思いつつ、エースは冷やしラーメンをすすった。
 
 その頃、カルキノスは。
「誰も帰って来やがらねぇー!」
「すみませんね。はい、次の配達はここです。随分たまってきましたから迅速にお願いしますね」
「手間賃、ふんだくってやらねーとワリに合わねぇぜ」
 申し訳なさそうに、けれどきっぱりとエオリアに言い渡され、カルキノスは出前の品を死にものぐるいで配達して回るのだった。