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リアクション
第一章 誰も知らない秘密喫茶
「むむう? 何故、客が一人も来ないのだ?」
全く客のいない店内で、ドクター・ハデス(どくたー・はです)……いや、マスター・ハデスは訝しげにそう呟いた。
毎度おなじみ悪の秘密結社オリュンポス。
世界征服に向けて情報収集を怠らない彼らのもとにも、当然「ネオ秋葉原プロジェクト」の噂は届いていた。
「これは、我ら秘密結社オリュンポスの活動資金を稼ぐチャンス!」
なるほど、現在進行形で開発が行われている街であれば、速やかに進出することで先行者利益を確保することも可能であろう。
……と、そこまではよかったのだが。
「メイド喫茶に執事喫茶、はてはイコン喫茶か……ならば、我らは秘密結社だけに『秘密喫茶』で対抗だっ!」
……いや、相変わらず見事な思考のバレルロールである。
ロールした結果、完全に明後日の方向に向かっているのだが、残念ながらそれを指摘できる人材は彼の側には見当たらない。
「サクヤ! ヘスティア! 早速、秘密喫茶の出店準備を行うのだ!」
「かしこまりました、ご主人様」
「ちょっと兄さん、秘密喫茶って……もう、しょうがないですね」
何の疑問も抱かず了解してしまうヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)に、惜しいところまでいきながらなぜか折れてしまう高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)。
かくして、滞りなく出店の準備が終わり、いよいよ今日の開店に至った……のだが。
「暇ですね、ご主人様……じゃなくてハデス博士……でもなくてマスター」
「というか、なんでこんな格好でお店に出ないといけないんですかっ!?」
退屈そうにしているメイド姿のヘスティアに、魔法少女姿を強要されたことになおも抗議している咲耶の二人が接客担当。
厨房はオリュンポスの大幹部でありながら料理番も務めるハデスが仕切り、店内もいかにも「悪の秘密結社」という感じのうまい装飾がなされている。
それなのに、全くお客が入らない理由はというと。
「秘密喫茶」というコンセプトなので、一切広報活動を行っていないのである。
開店のお知らせも一切していなければ、お店の場所を広報したこともない。
それどころか、実際のお店にも看板一つ出してなかったりするのである。
世の中には「秘密のアジト」とでかでかと看板を出したが故に拠点の場所がバレた悪役などもいるようだが、この場合はむしろその方が正しいというか、現状でどこにどう客が入ってくる要素があるというのだろうか。
「まあ、まだ開店直後だからな。そのうち客も入りだすだろう」
どこまでものんきなハデスであったが……その後、彼とこの店がどうなったかについてはまた後ほど語るとしよう。
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