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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】魔術師達の夜宴(前編)

リアクション

   17

 協会本部の方で大きな爆発音がして、師王 アスカは息を飲んだ。
「何があったのかしら〜?」
「本当に……」
 相槌を打ったのは、月詠 司だ。彼女はパラケルスス・ボムバストゥスから受け取った本部内の映像第二弾をシオン・エヴァンジェリウスに送ろうとしていて、空を飛んでいたアスカに見咎められた。
「こ、これはですね、闇黒饗団にいるパートナーのですね」
「闇黒饗団に仲間がいるんですか!?」
「は、はい、でもそれはですね……」
 言い訳空しく、司は逮捕された。


 姫神 司(ひめがみ・つかさ)はハッと目を覚ました。確かついさっきまで、空を飛んでいたはずだった。その前は本を読んでいて、気分転換に箒で空を――。
「目が覚めましたか?」
「グレッグ? どうした?」
 見ればパートナーのグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)は、縄でぐるぐる巻きにされて転がっている。かく言う自分も、同じ状態であることに、たった今気づいた司である。
「何があった!?」
「覚えていないんですか……」
 グレッグは呆れた口調で話し始めた。
 司の記憶通り、前の晩から図書館で借りた本を読んでいた彼女は、気分転換と風に当たるためと称して、外に出た。司はこの日、街に人払いの術式が施されていることを知らなかったようで、買い物もするつもりだったらしい。
 そして何かに攻撃された。――実はミハ・マハが高月 玄秀と戦っているときに放った一発だが、それは誰も知らない。
 グレッグは司のメモを見て、慌てて追いかけた。見つけたとき、司は黒いローブの男たちに囲まれていた。
 あろうことか、イブリスの上に落ちたらしい。
「そう言えば……髭のおじ様の上に落ちたような気はする。夢だと思っていた」
 顔は見えたような見えないような。惜しいな、と司は思った。
「これから協会本部を襲撃するので、後回しにするとか何とかで、置いていかれたんですよ」
「何、協会本部を襲撃! それは一大事だ、何とか逃げ出して報告せねば!」
 司は縄を解こうを身を捩ったが、グレッグは嘆息と共にかぶりを振った。
「もう遅いです」
「何?」
 クイ、と顎をしゃくった先には、黒いローブの男たちがいた。そして顎鬚を生やしたイブリスも。
「終わって、帰ってきたところです」
「何だと……?」
「まあ、襲撃自体は失敗らしいですが……」
 協会本部と同様、饗団にも多数、負傷者が出た。彼らを治療しているのは、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)だ。町外れ、ここだろうと目星を付けた場所に闇黒饗団は集まってきていた。彼女は【命のうねり】で、怪我人の治療をさせてくれと頼み込んだ。
 最後に、結和は司たちのところへやってきた。
「そなたは、饗団の味方なのか?」
「……敵でも、どんな人でも、傷ついているのを見ているのは、嫌ですから。仲良くできれば一番いいですけど、そうできない、理由がきっと、あるのでしょう」
「そうでしょうね。『鍵』やら『古の大魔法』やら、双方、言い分があるでしょうから……」
「でも、話し合う土台だけでも、作らないと」
 結和はすっと立ち上がり、そのままイブリスとネイラの元まで行った。何をする気だと司たちは目を離せない。
 味方を治療したという点で、結和はイブリスたちにある程度は信頼されたようで、彼らもそれほど警戒もしていなかった。
「お聞きしたいことが、あります」
「何ですか?」
と、ネイラ。
「どうして、鍵が必要なのですか? 鍵を得て、成し遂げたい目的は何でしょうか?」
「……ストレートですね。悪いですけど、それにはちょっと」
「待て、ネイラ」
 イブリスが遮った。
「面白い、無垢なる魂だ」
「……『面白い娘だ』と申されています」
「魂に定められし事象があるならば、そを魂に囁け」
「『言いたいことがあるなら言え』と申されています」
 こくり、と結和の喉が動いた。
「それは、たとえば、私たち契約者の協力を得ても駄目なことですか? 『古の大魔法』がなければ、出来ないことですか?……それを知らずして、争うことはきっと無意味、です」
「出来ぬ」
 即答だった。
「異界からの勇者どもよ。世界の理を掻き乱し、満ち足りるか。そは嘘の欠片よ。この世界は我輩が深淵たる闇へ導く。総て忘却の彼方に押し流してしまえ」
「『異界の勇者たちよ。他人の世界に首突っ込んで、何をする気だ。この世界は俺が正しくする。放っておいてくれる?』と申されています」
「でも……」
 ふわり。
 イブリスの大きな掌が、結和の額に乗せられた。一瞬、――ほんの一瞬、結和はイブリスの顔を見た。
 結和を気遣うような優しげな瞳――それが瞬時に、狂気へと取って代わる。
「暗き安息へと導いてやろう」
「『眠れ』と申されています」


「我らが安息の地へといったん、戻る!」
「『襲撃失敗したので帰ろう』と申されています」
「なれど、高潔なる思慮を再び練り上げようぞ。聖女の導きか、我らには大いなる味方が出来た」
「『しかし、作戦を練り直して出直すぞ。ラッキーなことに、こちらには奥の手がある』と申されています」
 崩れ落ちた結和をその場に残し、幾名かの味方と捕虜を連れて、イブリスたちは闇黒饗団の本部へと戻った。
 その中に、意識を失ったメイザースもいたことを、魔法協会の人間はまだ知らないでいる――。

(続く)

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

この度はご参加ありがとうございました。泉 楽です。「魔術師達の夜宴 前編」をお届けします。
今回の参加キャラはMC、LC合わせて百八名。私がマスターになってから、最高人数となりました。従って、いつもならなるべく他PCと絡ませるようにするのですが、今回は少なくなっています。ご了承下さい。

また、アクションは具体的なものを優先しています。漠然としたアクションやダブルアクション(或るいは近いもの)は、没になることがあります。参加人数が少なければ出来るだけ拾うのですが、さすがにこの人数だと、そうもいきません。絞って具体的にかけた方が有利です。

電気製品(パソコン等)は、第二世界に電気が通っていないため、充電が切れると使えなくなります。通信機能は、アンテナもないので使えません。ご注意ください。

「協会に情報を流す(つまりスパイ)ため、本気で闇黒饗団に協力する」というアクションをかけた方については、今回、その本気度を示すために「実は……」という部分は書いていません。次回、もう一度、どのようにされるかお書きください。なお、闇黒饗団に信用されたと思われる人には「闇黒饗団:客分」という称号がついています。この称号を持つPCは、次回、いきなり饗団の仲間として動けます。

今回のリアクション、一番苦労したのは、イブリスのセリフでした。極力出番を少なくしましたが(まあ大物は最後に出番がちょっとだけとか)、次回はそうもいかないでしょうね。どうしよう、本当に(苦笑)
それでは次回、「魔術師達の夜宴 後編」でお会いしましょう。



NPC追記
レディ・エレイン:魔法協会の会長。「レディ」は敬称。人前ではフードを目深に被っているため顔がはっきりと分かるわけではありませんが、外見上は二十代後半くらいです。魔法協会の会長ということは、現在の第二世界において最も強い魔術師である、ということになります。
封印の鍵の在り処と鍵の解放の仕方を知っている唯一の人物です。

メイザース:女性。白いローブを着た清楚な女性で、見た目は二十代前半くらいです。“エレメンタルクイーン”の異名を持つ、協会のナンバー2で会長の右腕。

キルツ:魔法協会で雑事を統括する魔術師。自分は戦闘に向いていないと思っていますが、魔力はそれなりに高いです。四十代です。

イブリス:顔はまだはっきりと分かりませんが、ヒゲが特徴的な偉そうなおっさんです。魔法に関してはレディ・エレインに匹敵するほどですが、どこか抜けており、しかも言っいてることが意味不明なため通訳が必要なほどです。
若い頃は前会長バリンの右腕でしたが、その頃とは別人のようになっています。

ネイラ:いつもイブリスの傍らにいて、通訳をします。彼を通すと、イブリスの言葉は大分フランクになってしまいます。