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リアクション
Dreaming Dreamers
「これが夢見の香だ。香りを嗅げばまもなく夢の世界に誘われる。
この量だと15分程度夢を見て、そのあと夢の内容にかかわらずすっきりと目が覚める」
メアベルは言って、夢を見ようというメンバーたちに小さなビンを配った。中には薄紫色の液体が少量入っている。きっちりとしたガラスの栓がされ、ごくごく小さな香水ビンのような外観だ。
朝野 未沙(あさの・みさ)は、サキュバスの格好で恥ずかしそうにしている美緒をじーっと見ながら、受け取ったビンの蓋を無意識にはずしていた。
(美緒さんの格好、夢魔っていうよりも、淫魔だよね!
瑛菜さんも似合うと思うから美緒さんと同じ格好すればいのに)
ふと気づくと、目の前に美緒と瑛菜がサキュバスの格好で並んで立っていた。
(美緒さんの胸、おっきくて揉み応えがありそうでいいなぁ。
瑛菜さんの胸は美緒さんほど大きくはないけど、手にしっくりきて揉み易そう……。
案外こういうほうが感度良かったりやなんかして。んー、いいわねぇ。
見てて興奮しちゃう。責めて虐めたぁいっ!!)
「ちょーっと待ったぁ!!!」
と、そこに突然茹蛸のようになったエヴァルトが割り込んできた。
「えー? にゃに?? 良いところだったのにー」
「俺の目の前でそういう不埒な振る舞いは許さーーーーーーーーん!!!」
未沙の視界の隅で、美緒が恥じらいと怒りをこめた目線でこちらを見ているのが目に入った。そう、妄想が夢と化していたのである。
「あ、えーと。あははは……」
未沙は笑ってごまかしたのだった。肝心のメアテネルは赤くなってうつむいたままだ。さらに水晶が硬化したように見えたのは未沙の気のせいだったのだろうか。
ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)のパートナー、イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)は美緒と瑛菜から依頼を即座に受けた。
(楽しい夢を提供、ねえ。面白そうじゃない。
ま、恨みはないけど、面白そうだからミルディで遊んじゃおう〜♪
なんたってただの夢だし、アリスの眷属を助けるためだし〜)
話を聞いてすぐにミルディに今から走ってみないかと持ちかけていたから、時間的にはちょうそろそろ公園のあたりに差し掛かるはずだ。
何も知らないミルディアは、いつもは夜行う長距離ランニングを急遽今朝に変更して走っていた。
「たまには昼間走るのもいいな。
んー、何も考えないで走ってるのはキモチイイ!」
夕べも遅い時間ランニングをしているミルディアは、普段よりもランニング・ハイとあいまって、意識が怪しくなっていた。そこへイシュタンから携帯に連絡が入る。
「ん? いしゅたん? なになに? 空京の公園で事件? 近くじゃない。
そんじゃま、いっちょ見てきますかっ!」
朦朧としたアタマで指定された公園へと向かう。入ってすぐふわりと何か甘い香りがした。ふと気づくと、なぜか先ほどまで着ていた服ではなく、妙に扇情的で露出の多いコスチュームに変わっている。
そして周囲には友人知人がいっぱいいて、目を丸くしてミルディアを見ているのだ……。
「え、ちょ、ちょっと何でこんなヒワイな服……? それにみんないるし!
ちょっと何これ〜! みんな〜見るな〜!」
ミルディアは体を抱え込むようにして、真っ赤になって座り込んでしまった。
「うーん、予想をはずさない、良いは・ん・の・う」
首尾は上々。夢見の香のビンの蓋を閉めながら、イシュタンはにんまりと笑った。
芦原 郁乃(あはら・いくの)は張り切ってメアテネルを助けたいと思ったものの、悩んでいた。
「うーん、夢かぁ。起きちゃうといつもどんなの見てるか覚えてないんだよなぁ」
蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)が、それを聞いて言った。
「面白い夢ですか?
それでしたら今朝、主の夢を見ましたけど、ちょっと面白かったですね。
主が単細胞で次々分裂して増えるるんですよ」
「……単細胞で悪かったわねっ!」
「あいえ、夢の話ですってば。
で、増えた郁乃さんは自分達をいろいろなところに売り込んでいくんです。
ある郁乃さんはヌイグルミに、またある郁乃さんは食べ物の飾りにになど……
そんな中樽に入って玩具化して人気を博すものが出るんです……」
郁乃はぼんやりとビンをいじっていて、蓋が開いたのに気づかなかった。
「わたし、郁乃。
樽に入って出られなくなっちゃったの。
そこにある剣を樽の穴に刺して、私をここから出して……お・ね・が・い」
穴の開いた樽に、首だけ出して入った郁乃。誰か大きい人が、剣を次々と樽の穴に差し込んでゆく。
「そこは違うの、そこじゃ出られないよぉ〜!
あぁ!惜しいっ!もぅ少しがんばって!!」
誰かに向かってエールを送る。と、確かな手ごたえとともに、樽から勢いよくポンっと飛び出す郁乃。
「やったぁ〜っ!! ありがとう出してくれてありがとう♪ うれし〜よぉ〜っ!
これはお礼ね!!」
誰かの頬にお礼のキッスを見舞ったところで、周囲はだいぶ高く上った日の差し込む、元の公園に変わっていた。
「ほんとに夢見ちゃった…… 夢ってこういうものなのね……」
マビノギオンがニコニコと言った。
「夢、見られましたか。良かったですねぇ」
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