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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第4章 まだまだ残っている埋没した客車 story2

「4両目と5両目の間から外せばいいんですね?」
 テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)はネジ・リンク式連結器をライトで照らしながら、ドライバーでキュリキュリとネジを外す。
 魔鎧のデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)の方はアーマースーツとして、頭から爪の先まで1分の隙も無く、テレジアの全身を覆っている。
「あ…。今、手が滑ってしまったのですけど…大丈夫ですか?」
 工具で指を突いてしまっても、彼女のおかげで傷一つない。
「平気ですよ、テレサ」
 テレジアの身を守ることが魔鎧としての本分であり、エクスは彼女をずっと守っていくと決めている。
「フックはネジを全部取ってから外したほうがいい?」
「えぇ。その方が無理に引っ張って、破損させる心配もありませんから」
 全て取り終わってからでないと、フックを引っ張った時に折れてしまうかもしれない、と一緒に取り外し作業をしているセレンフィリティに頷く。
「これもお願いします」
「後で締め直ししやすいように、タグをつけておくわ」
 テレジアからネジを受け取ったセレアナは、番号を書いた紙つきの紐をくくりつけ、ビニール袋の中へ入れる。
「ここにある4両以外の車両はありませんよね?」
「えぇ、そうよ」
「今回の引き上げが終われば、ひと段落つくということでしょうか」
 順調に進めばこれで発掘も終わりのようだと、テレジアはほっと息をつく。
「また別の機会にってことになりますと…。車両工事を終える度に、連結器を外して新たに発掘した分を、つなげる手間も増えてしまいますね」
 そうなったらいつ終わるのやらとエクスは呟いた。
「こうして上手く流れ作業が出来ていますから、発掘の方は心配なさそうですね」
「テレサと2人がかりで行ってもらっていますし。夕方前には2両分、引き上げ出来るかもしれませんね」
「外し終わったら、テレジアたちも休憩してお昼ご飯もらいに行かない?」
「はい、休息を取ることも大切ですから」
 疲れたままではミスも部品を落としたり、ミスしてしまう可能性もあるだろうと頷いた。



 すでに発掘現場では作業が進められているのにも関わらず、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)はまだ現場に行くことが出来ない。
 なぜかというと…。
「ほ…本当にいいのか?」
 ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)が彼を現場へ行かせたくないのか、引き止めるような言葉を投げる。
「何がだ?」
 しかしアウレウスには、彼に強く引き止められる理由がまったく分からない。
 水への恐怖を克服しにいくアウレウスを心配しているのだろうか。
 いや違う。
 ベルテハイトは…。
「(くっ、アウレウスめ…!!)」
 嫉妬の炎を燃え滾らせ、彼を睨みつけている。
 それはもう、視線だけで沈めそうな感じの恐ろしい形相だ。
 アウレウスがグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)にウォータブリージングリングをはめてもらう瞬間、どす黒いオーラを放つ。
「(主から指輪を賜った…!大切に使わせていただきます!!)」
 主に手ずからはめてもらえることに感動している彼は、殺気立つベルテハイトのことすら、すでに視界に入っていないような感じだ。
「これを渡せば、水に慣れやすいかと思ってな」
 いますぐにでもアウレウスの指から、指輪を外してやりたそうな顔をしているベルテハイトにグラキエスが言う。
「あぁ…、そうだな」
「水の感触に耐えられなくなる前に上がれ。問題が起きたら呼べ」
「はい、では行って参ります!」
「引き上げの合図が来るまで、2人で待機していよう」
 グラキエスの気遣いにケチをつけるようなマネはしまいと、浜辺へ向かうアウレウスをちらりと見るが、すぐさま弟の方へ視線を戻した。
 そのロスタイムのおかげか、2匹のニャ〜ンズが食材となった現場を目撃せずに済んだ。
 なぜ現場へ向かうまで、時間がかったかというと…。
 自分が代わりに指輪をはめてもらいたいがために、ベルテハイトが引き止めようとしていたが、しつこく言われたわけではなかったから、そのせいではない。
 浜辺へ向かうための心の準備が出来るまでの時間の方が長かった…。
 指輪をはめたからといっても、水への恐怖心がすぐに消えるわけでもないようだ。 
「ここは慎重に…、1歩ずつ進むとしよう」
 ごくりと唾を飲み込み、そろり…そろりと海水に近寄っていく。
 ザザァアアアンッと波音を立てて、アウレウスの足元まで届きそうになると…。
「―…!!」
 彼は慌てるように2歩も3歩も退いてしまう。
「はっ、主が見ている!(このままではがっかりさせてしまうっ。見ていて下さい主よ!)」
 海に入る瞬間を見届けようとしているグラキエスに気づき、華厳の滝から飛び降りるのと同様の思いで、パラミタ内海へ飛び込む。
「無事に入れたようだな」
 指輪もあることだし、少しは恐怖心が和らいだのか?と彼の勇姿をしっかりと見届けた。



「レキ、こっちアル〜」
 チムチム・リー(ちむちむ・りー)は海面から顔を出したレキを手招きをする。
「海から出ると、さすがに寒いねっ」
 濡れた顔と髪が、冷たい風でさらに冷やされていく感じがした。
「そうだと思って、お茶も用意してきたアルよ」
「さすがチムチム!気が利くね」
 ボートに乗っている彼女の傍へ寄るとマスクを取り、温かいお茶をもらう。
「もうすぐお昼ご飯だから、先に戻っていいよ」
「タオルでも用意しておくアルよ、レキ」
 酸素タンクの交換を終えたパートナーに言い、ふかふかのタオルでも持って浜辺で待とうとオールを漕ぐ。
「今日は1人なのかな?」
 洞窟へ戻ろうとすると、浅い場所で立ち止まっているアウレウスを見つける。
「確か、この先だったと思うが…。なっ、あんなに深いところに!?」
 前回アウレウスは魔鎧として主に装着していたから、海の深さが気にならなかったのだが、今度はそうもいかず、足がまったくつかない深さまで泳がなけばならない。
 海底に沈んでしまったら浮かび上がれないと思うと、再び水への恐怖心が蘇り、ザバッと海面に顔を出した。
「あんなにも深い場所へ向かわなければならないとは…、なんと恐ろしい試練っ!翼があるといっても、途中で力尽きてしまったら俺は…。いやしかし、引き返すわけにも…っ」
 どうやって現場へ向かったらいいか考えていると、レキが傍に寄ってきた。
「顔が真っ青だよ、大丈夫?」
「平気だ…。今、現場へ向かうところだ」
「ボクと一緒に行こう」
「そうだな…、頼む。―…かなり深い場所なのだな」
「だからこそ、今まで発見されなかったんじゃないの?」
「それはそうだが…」
「ほら、ついたよ!」
「ふむ、結構作業が進んでいるようだが…。車体の下側でも担当するとしよう」
 強化光翼で洞窟へ入った彼は車体の下に潜り込み、さっそく岩場の除去を始める。
「(主から賜ったこの指輪のおかげで、溺れる心配もない!)」
 幻槍モノケロスを抉り込んだかと思うと、その刃を水平に振り、削ぎ剥ぐように破壊していく。
 カツオの削り節のように削いだそれを、掘り出しやすくするために槍の柄で砕く。
 車体の下から出るとシャベルに持ち替えて砕いた岩を袋に入れる。
「この下にあるやつを袋に詰めればいいの?」
「除去したものをまとめて外へ出したほうがよいと思ってな」
「う〜ん…コレって、陸と違って結構大変な作業だよね」
 地上で土砂を撤去するよりも、水圧と海水を含んだそれを、洞窟の外へ運んで捨てる作業の方が大変なようだ。
「そっちはどう?」
 大変な方を手伝おうかと、連結器を外しているテレジアたちに話しかける。
「思ったよりも、早く進んでる感じですね。これを…折らないように、そっと持ち上げなければ…っ。ふぅ…、連結解除、完了です」
 そう言うとテレジアは作業に戻り、5両目に近いフックを指でつまんで外し、ようやく一息つけるところまで作業を進めた。
「お疲れ様です、テレサ」
「まだ全部終わったわけじゃありませんけどね。さて、少し休憩しましょうか」
「私たちもお昼ご飯食べに行こう、セレアナ」
「そうね、適度な休息も必要だわ」
 小さく頷くとセレアナは袋の口を結び、パートナーと共に陸に戻る。