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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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太古の昔に埋没した魔列車…エリザベート&静香 2

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第8章 初冬のホットコントと極寒のコント

「エリザベートちゃん、そろそろ環菜さんたちに報告したほうがよいですよ」
 お腹いっぱいになって眠りっぱなしの幼い校長を、明日香が優しく揺り起こす。
「んー…ふぁあぁ…。分かりましたぁ〜…」
 まだ眠たそうに目を擦り、状況報告しようと環菜にネット電話で連絡する。
「環菜、こちらの作業は数日中に終わりそうですよぉ」
「発掘の方は皆協力しあってる感じかしら?」
「えぇ、この私が監督していますからぁ♪」
 ただ海を眺めているだけか、食べるか…眠っているだけなのだが、えっへんと偉そうに言う。
「そちらも進行管理、ちゃんとしてくださいよぉ〜?」
「陽太たちも手伝っているから、その辺は問題ないと思うわ。じゃあ、何かあったらこっちも連絡するわね」
 そう言い終わった環菜は通話を切った。
「発掘は順調に終わりそうですけど、修理などの方は大丈夫でしょうか…」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はスケジュール表を眺め、困ったように眉を潜める。
「何か困ったことでも起こったの?」
「いえ、それが担当人数のことでちょっと…」
「少し人手が足りないわね。呼べそうな人はいないの?」
「そうですね、探してみます」
 とは言ったものの、見つけるあてなんて無に等しかった。
 しかし、妻が喜ぶ顔を見たい一心で協力してくれそうな者を探す。
「スケジュール管理も忙しそうだね、陽太さん」
「まぁ、これも妻のためですから、苦に思うこともありませんよ。ぁ…真さん、誰かお手伝いに呼べそうな人とかいませんか?」
「ちょうど陣さんを呼ぼうとしていたところだよ。アダマンタイトを溶かすことなら出来るかな、と思ってね」
「助かります!では、これで失礼しますね!」
 ぺこっと丁寧に頭を下げて礼を言うと、陽太は他の作業場の様子を見ようと離れていく。
「陽太さん、奥さんのことが本当に好きなんだね」
 妻のためならどこまでも必死になれる様子を見て、椎名 真(しいな・まこと)はお似合いの夫婦だなぁ、と眺める。
「ねー、陣にーちゃん呼ばないの?」
「えっ?あぁ、うん!呼ぶよ。―…もしもし、陣さん?」
 いつの間にやら真の手を掴み、くいくいっと引っ張っている彼方 蒼(かなた・そう)に言われ、七枷 陣(ななかせ・じん)の携帯に電話をかける。
「どーしたんや?つーかもうすぐで夕飯なんやけど」
「ヴァイシャリーの別邸に食べにおいでよ」
「えーっと……何?」
 何やら頼みごとでもあるのだろうと思い、何を依頼しようというのか、声のボリュームを下げて言う。
「あのさ、今…パラミタ内海に埋没していた魔列車を修復しよう、っていう計画があってね。それのお手伝いを頼めたらいいなー、と…」
「で、オレに何をさせようというんや?」
「アダマンタイトを溶かす作業をお願いしたいんだけどいい?」
「それくらいならかまわんけど」
「ていうか、陣くんの用途ってそれしかないよね。機械いじりとか無理っぽそうじゃん?」
「はいっ、速やかに黙りやがれーっ」
「痛たたっ!痛い、痛いってばぁあ!」
 横から口を挟んだリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が、ぎゅむーっともみあげを引っ張られる。
「じゃあ待ってるね」
 電話の向こうはいつもの光景なのだが、これも仲のよい証拠なのだろう。
「超特急で行くから待っててや!」
「いったーい!痛いよ〜、離してってばぁあ〜もぅっ」
 最後にもう1度リーズの叫び声が聞こえ、プツンッと電話が切れた。



 陣たちがくるまで客車の内装をどうするべきか、蒼と相談しようと真はテーブルの上に大きな紙を置く。
「どんな雰囲気にしたい?」
「うぅ…、デザインのことはよくわかんないっ。真にーちゃん考えて!」
「食堂車が落ち着いた雰囲気だから、ベージュ系がいいかもね。座椅子の土台は取り外してあるみたいだけど、ちゃんと修理したのもあるんだよね?」
「ううんー。使わなかったのは、修理してないみたいだよー」
「そっか…。でも、客車の到着を待っている間でも、その分の修理は出来るってことかな」
 2両分の取り外した座席の土台が、ヴァイシャリーの別邸に保管されているなら、それを先に直してもらうかと考える。
「ゆったりとした間隔が必要だから、1両分の土台を修理してもらおうか」
 魔列車は長旅を楽しむものとして考えているんだったな、と思い出した真はさっそく直してもらおうと、陽太とネット電話で連絡を取る。
「―…陽太さん、今話しても大丈夫そう?」
「真さんですね?えぇ、少しなら…」
「客車の椅子の土台って保管してあるよね?」
「はい、ラズィーヤさんが管理していますよ」
「それの1両分の修理を今からお願いしたいんだけど」
「分かりました、伝えておきますね。えっと、番号はー…」
 電話を切ると陽太は、さっそくラズィーヤに連絡する。
「もしもし、ラズィーヤさん、陽太です。あのー…真さんが座席の土台の修理をお願いしたいらしいです」
「いくついるんですの?」
「客車の中にあった1両分あればいいみたいですよ」
「分かりましたわ。少々重いので、運ぶの手伝ってくださらない?」
「はい、了解です」
「運ぶのでしたらわたくしも手伝いますわ」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)も陽太と保管場所へ向かい、彼と一緒に土台を庭へ運ぶ。
「けっこう重いですわね…」
「あわわっ」
 ラズィーヤが重たいものを一緒に持ってくれるはずもなく、足元をふらつかせてしまう。
「落とすんじゃありませんわよ!そのシートの上に、そーっと置きなさいっ」
「あれ、もう修理始めるの?」
 何やら外が騒がしくなったと、様子を見に来た小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が話しかける。
「これは、前に運んだ分ですの」
「客車はまだってことね。それ使うの?」
「えぇ、修理して使うらしいですわ」
「待ってる間暇だから、手伝うわ。ベアトリーチェもいいでしょ?」
「作業を早く進めるならそのほうがよさそうです」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)はこくりと頷き、ドライバーを取り出して手早く解体する。
「中の方に傷があるかもしれませんから、パーツごとにわけていきますね」
「ルカたちもやることある?」
 シートの上にぺたんっと座ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、解体されていく椅子の土台をちらりと見て言う。
「アダマンタイトを溶かしてもらえますか?」
「いいわよ。あっ、2人は耐熱スーツを着たほうがいいかも。特に手元が熱いかもしれないからね」
「じゃあ着替えてくるわ」
「はーい」
 別邸の個室で着替えに向かった2人に、ふりふりと片手を振るが…。
「ただいまっ」
「わっ、早いわね!」
 あっとゆう間に戻ってきた。
「バーストダッシュで部屋まで行ったからね」
「えぇ〜っ、そういうものかしら」
「ここはパラミタなんだから、細かいことは気にするなルカ」
「そこは気にするべきよ!」
 へらっと笑うカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に、ムッと眉を潜める。
「無駄話してる暇があったら、さっさと溶かすんだ」
 ぽむっとルカルカの頭にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が空っぽの炉を乗せる。
「頭にじゃなくって、ちゃんと手に渡してよね」
 むーっと頬を膨らしつつも、抽出したビリジアン・アルジーとアダマンタイトの金属を炉に入れ、銅色の取っ手をくるくると回す。
「何万度も上がるのね?どこまであがるのかしら」
 炉の後ろの方に表示されているメーターがどんどん上がっていく。
「さっきまで涼しかったのに、急に暑くなってきましたね…」
 ベアトリーチェはハンカチで頬の汗を拭き、片手でぱたぱたと扇ぐ。
「サウナっていうより、砂漠に近い気がするわ」
 まるで灼熱のサハラ砂漠のど真ん中にいるかのように、もわ〜っと熱気が漂ってくる。
 その発生源はルカルカが手にしている炉からだ。
「熱が外にまで伝わっているようだぞ、ルカ」
「ほえ?あちゃー、ごめんね〜」
 どこまで上がるのか気になり、夢中で温度を上げていたルカルカはダリルの声にハッと気づくが、3人以外はかなりの熱気に包まれている。
「初冬だし肌寒くなってきたじゃない?突如、出現したサウナってことでね♪サウナの暑さで、さ〜うなってみようかー」
 ホットエリアのはずがほんの一瞬、氷河期に突入してしまったかのように、周囲の空気が凍てついた。
「口より手を動かそうな」
 ふぅとため息をつきながらもダリルは怒る様子を見せず、無邪気な子供ように皆の反応を待つルカの頭をぽふる。
「ぁうっ、はぁ〜い」
 ルカルカは炉の取っ手を通して、中の金属へブリザードの冷気を加えながら、しょぼーんと俯く。
「どーぞ♪」
 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)が用意したコテに溶かした金属を、注ぎ口からちょこっと垂らして美羽に渡す。
「ありがとう」
 それを受け受け取ると折れた金具の断面に塗りつけ、破片をつなぎ合わせる。
 だが、そのままではつないだ部分が、ひび割れているように見えてしまう。
「もうちょっとちょうだい」
「うん、ストップっていってね」
「―…あ、それくらいでいいわ」
 跡が残らないように薄く延ばすように塗る。
「冷えるまで誰か持っててくれる?」
「んじゃ、俺が持っててやるか」
 そのままではシートに置けないからと、冷えるまでカルキノスが持ってやる。
「パーツを修復する度に持つのか、カルキノス…」
「あぁー、両手が塞がっちまうな」
「ブリザードで冷やすか?」
「ダリル、俺まで冷やされそうな気がするんだが?」
「少しくらい我慢しろ、男だろ」
「―…はぁ〜、男っていうのは損な生き物だ」
 だが本気で術を使うわけでもないから、冗談交じりにへらっと笑う。
「ルカルカさん、私にもアダマンタイトをください」
「はぁ〜い♪」
「女子との扱い差が凄いな」
 椅子の土台のパーツごと冷気を受けながら、カルキノスがルカルカを見る。
「何よ!?か弱い女の子に、ブリザードの吹雪をぶつけるとかありえないしっ」
「だ、そうだ」
「ちくしょう〜、ズルイな」
 ポジションチェンジを求めてみるが、あっさりと却下される。
 結果は分かっていたものの、“か弱い”という言葉に思わず苦笑した。