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リアクション
パーティー会場の舞台の上で想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)が騎士の演武を披露する。
「騎士の守り、ファランクス!」
鎧を身に着けた瑠兎子は、盾を構えて想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)の操る使い魔の紙ドラゴンの攻撃を防ぐ。
瑠兎子は実戦のつもりで真剣に紙ドラゴンに向き合っていた。
夢悠は紙ドラゴンがすぐにやられないように注意を払いつつ、迫力を見せるため本気で攻撃を仕掛けた。
「騎士の攻め、チェインスマイト!」
瑠兎子が槍を手に続けざまに攻撃を繰り出す。
前後に激しく動きながら、瑠兎子は攻防を繰り返した。
段々と弱っていく紙ドラゴンに瑠兎子はとどめの一撃を叩き込む。
「騎士の一撃、ランスバレスト!!」
槍を低く構えた瑠兎子は勢いよく駆け出すと、紙ドラゴンの懐に入り込み、貫いた。
力尽きた紙ドラゴンがただの紙きれに戻り、騎士の演武が終了する。
まるで実際の戦いのような迫力ある演武を披露した瑠兎子に、来賓達から大量の拍手が送られた。
騎士の演武が終わった瑠兎子はドレスに、夢悠はタキシードに着替えた。
瑠兎子は会場の正面入り口付近でポミエラを見つけると、いきなり抱きついた。
「ポミエラちゃん、久しぶり! 会いたかったわー!」
「久しぶり、ポミエラ。元気だった?」
瑠兎子の頭にプレゼントした花ヘアピンを見つけてポミエラは、嬉しそうにギュッと抱きしめ返す。
「わたくしも会いたかったですわ」
仲間外れにされてしまった夢悠は、瑠兎子がポミエラを抱きしめるのを満足して離すまで呆然と立ち尽くしていた。
「そうだ。ワタシの演武どうだった?」
「すごくかっこよかったですわ」
ポミエラは拳を虚空に繰り出して、瑠兎子の真似をするように槍を突くような動作をしてみせた。
瑠兎子が感謝の意味を込めて頭を撫でると、ポミエラは恥ずかしそうに笑っていた。
そこへルカルカ・ルー(るかるか・るー)が手を振りながらやってくる。
「ポミエラちゃん、やっほー」
ポミエラとルカルカは両手でタッチを交わして再会を喜んだ。
ルカルカの後ろからダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が歩いてくる。
「夢悠達もいるな。さっきは見事な演武だったな」
「ありがとう」
「ところでポミエラちゃん達はこんな所で何やってる?」
広々とした会場の中で正面入り口付近に料理はない。口にするものといえば飲み物を配る小さなカウンターが用意されているくらいで、後は来賓の世話をする者達が通るだけだった。
それ以外にはクリスマスツリー用に用意された背の高いモミの木だけだ。
ルカルカに尋ねられたポミエラは顔を上げて、すぐ傍の天井近くまで伸びた大きなモミの木を見上げた。
「クリスマスツリーの飾りつけをしようとしたんですが、高い所が全然届かなくて困っているんですわ」
モミの木の下では笹野 朔夜(ささの・さくや)がアンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)に肩車をして高い位置に飾りつけしていた。
一方でティー・ティー(てぃー・てぃー)とイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は低い位置で届く範囲の場所しか飾りつけをすることしかできなかった。
「肩車ね。朔夜さん身長高いもんねぇ……?」
ルカルカの視線がダリルに向かう。全員の視線も朔夜からダリルへと移った。
ダリルの身長も朔夜と同じくらい高かった。
ため息を吐くダリル。
「……肩車、すればいいのか?」
「お願いしますわ!」
朔夜とダリルはポミエラ、アンネリーゼ、イコナを交互に肩車して飾りつけを手伝うことになった。
「よし、じゃあオレ達も手伝おう!」
夢悠達は段ボールに入ったクリスマスツリーの飾りをモミの木に取り付け始めた。
「結局、手の届く範囲しか飾れなかったですわ」
「でもとてもきれいです」
残念そうにしているイコナに対して、ティーは満足そうな表情をしている。
ポミエラ達は届く範囲でクリスマスツリーの飾りつけを終えた。
梯子があれば、あるいは道具やスキルを駆使すれば上の方まで飾りつけできただろう。
しかしそれは立食を楽しんでいる来賓に迷惑をかけると判断して控えることにした。
中途半端ではあったが、皆と一緒に飾りつけをできたことにポミエラは大満足だった。
「あんた達、こんな所でなにやってるのよ」
メイドの仕事などやっていられるかと廊下でサボっていたジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が会場に戻ってきた。
ジヴァは会場の正面入り口付近に集まっているポミエラ達を怪訝そうに見つめる。
「クリスマスツリーの飾りつけをしていたんですわ」
アンネリーゼの答えにシヴァがモミの木を見上げた。
「飾りつけって下の方しかできてないじゃないの」
「モミの木が大きすぎて届きませんの」
「あっそ……」
興味を無くしたシヴァが立ち去ろうとすると、いきなりポミエラにメイド服を掴まれた。
「シヴァさん、先ほどのやつをもう一度見せてください!」
ポミエラが目を輝かせてシヴァを見つめる。
「先ほどのってサイコメトリのこと?」
「そうですわ。そのサイトコロメモリでモミの木さんが何を考えているか教えて欲しいですわ」
「はぁ? 嫌よ、面倒。あと、サイトコロメモリじゃなくてサイコメトリよ」
ポミエラが何度か駄々をこねたが、シヴァは「面倒だから嫌」の一点張りだった。
ポミエラの目に涙がにじみ始め、シヴァは罪悪感を感じてきた。
すると、会場に緩やかな曲が流れ始める。来賓達が中央のスペースで踊り始めた。
瑠兎子が夢悠の肩を激しく叩いた。
「ねぇねぇユッチー。ポミエラちゃんと一緒に踊ってきなよ」
「え、なんで?」
「いいじゃん。ポミエラだって踊りたいでしょ?」
「はい! 踊りたいです!」
先ほどまで泣きそうだったポミエラの表情がコロッと、期待に満ちた表情に変わっていた。
「ほら、これも女性に慣れるための修行だよ」
背中を押された夢悠が一歩前に出ると、その手にポミエラが笑顔で抱きついてきた。
夢悠は諦めて、ポミエラの手を握りながら笑い返す。
夢悠がポミエラと一緒に歩き出そうとすると、瑠兎子が背後から耳元に近づいて囁いてきた。
「ポミエラちゃんに恥をかかせたらタダじゃおかないわよ?」
夢悠の背筋がゾクゾクっと……凍りついた。
「どうかしました?」
「な、なんでもないよ」
裏返った声での返事に首を傾げるポミエラ。夢悠はポミエラに手を引いてそそくさとダンスを踊りに行く。
一度だけ振り返ると、瑠兎子が満面の笑みで手を振っていた。
罪悪感を感じていたシヴァはモヤモヤして仕方ない。
「ったく、やればいいんでしょ。やればっ……」
半ば自棄になりながらシヴァはモミの木に触れて【サイコメトリ】を行う。
するとモミの木の聞いた会話が伝わってくる。
複数の人物の会話。内容は途切れ途切れで聞き取りにくい。
でも、その中ではっきりと聞こえた言葉があった。
それは「暗殺」という言葉だった。
「これは素敵なお嬢さん、花をどうぞ」
踊る人達を眺めていた来賓の女性にエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が薔薇を差し出しながら声をかけた。
エースは人のいい笑みを浮かべると、ゆっくりと頭を下げる。
「よろしければ一緒に踊ってくださいませんか?」
女性は快くエースの差し出した手に自分の手を添えた。
エースはダンスを踊りながら、女性に心開いてもらうため甘い美声で話を弾ませた。
「どうやらあなたはとても高貴なお家の出のようですね」
エースは女性をリードしながら、情報を引き出していく。
一曲踊り切ったエースは女性と別れると、手帳にメモを取る。
「……彼女はミッツさんに興味はなさそうだったな」
「エース、そっちはどうですか?」
「ああ、エオリア。こっちは順調だよ」
近づいてきたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)に笑ってエースは手帳を見せた。
手帳にはエースが自身の経験から見極めた女性達の印象が書かれていた。
相手がミッツの家の財産狙いかどうか。ミッツとのお見合いに興味があるかどうか。
ミッツが会場の中の誰かを好きになった時の参考にしてもらえればとエースは思っていた。
「エオリア、君の方はどうだい? 会場に美しい女性達に危害を加えるような危険な人物はいなかったかい?」
エースはどこからか取り出した薔薇を眺めながら尋ねる。
するとエオリアの優しい表情が少し緊張した面持ちに変わった。
「そのことなんだけど、まだはっきりとはわからないが怪しい人がいますね。警戒をしておいた方がいいかもしれません」
エースから笑みが消える。
「……わかった。この手帳のリストをミッツさんに届けにいくついでに、そのことを鉄心さんに報告しておこう」
優しさを浮かべていたようなエースの瞳が、鋭く変化する。
エースとエオリアは会場全体に目を光らせている会場警備隊長の源 鉄心(みなもと・てっしん)の元へと向かった。
「鉄心さん、ちょっといいか?」
エースが声をかけた時、鉄心はちょうどシヴァとの話を終えた所だった。
エオリアは怪しいと思った人物の容姿や、そう感じた理由をできるだけ詳しく話した。
「そうですか。……わかりました。俺も注意はしますが、お二人もその人物達を警戒していてください」
鉄心は会場全体を見渡して報告があった人物の位置を把握する。
「彼女の話も合わせると、敵が侵入しているのは間違いなさそうですね……」
鉄心は懐に入れた銃を確かめ、ティーにミッツから離れないように指示を出した。
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