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リアクション
■ ぽかぽかお山のピクニック ■
「冬もいいけど、身体を動かすにはやっぱり暖かいのがいいねー」
「うん。でもちょっと疲れたね……」
灯世子は元気いっぱいだけれど、体力の無いアゾートの足はだんだん遅くなってゆく。
「そろそろどこかに座ってお弁当食べる?」
ヒイロドリを見つける前に疲れ切ってしまうわけにはいかないから、と灯世子が言うと、アゾートはほっとしたように頷いた。
ピクニックの楽しみと言えば、やっぱりお弁当。
あちらでもこちらでも、シートを広げるガサガサという音がする。
「はい、約束してた通り、アゾートの分のお弁当だよっ」
灯世子が意気揚々と見せたモノを、アゾートはしげしげと眺め。
「……砲丸投げ?」
「おむすびだよっ!」
真っ黒まるまるした物体がころころと並んでいる。それ以外、おかずも何も無い。
「ひよちゃんのおにぎりは真ん丸型? みゆうもおにぎり作ると俵型になっちゃうって言ってたー」
ひょいとお弁当をのぞき込んだリン・リーファ(りん・りーふぁ)がそう言って笑う。
「ほんとは三角にしたかったんだけど、なんか丸くなっちゃってー、えへっ」
「ラップを使って握ったら三角になるんだって」
リンのおにぎり豆知識に、灯世子はそうなの? と目を見開いた。
「じゃあ今度はラップを使って握ってみる。教えてくれてありがと」
「やってみてー。でもおにぎりってあつあつを手の平で握って作ったほうが美味しく感じるよね。何でだろー」
おにぎりを握る仕草をしながらリンは首を傾げる。
「うーん……直接触った方が気持ちをこめやすいから、とかあるのかな? あたしのおむすびは直接ぎゅって握ったから、見た目はともかく気持ちは入ってるはずだよっ」
「じゃ、みゆうのお弁当あげるからおむすびください!」
「リンってば……」
いつの間にやら自分のお弁当が交換材料にされてしまった関谷 未憂(せきや・みゆう)は、苦笑しながらお弁当を出した。もともと他の人と交換したり、持ってきていない人にお裾分けしたりできるように多めに持ってきているから問題は無い。
メインはバターロールを使ったサンドイッチで、具は5種類。
カレー粉で味付けして炒めたキャベツとウィンナーでミニホットドック。潰したゆで卵をマヨネーズで和えたものとキュウリ。トマトとチーズ。ポテトサラダ。とバラエティーに富んでいる。
「卵焼きと肉じゃがも持ってきましたから、おむすびと一緒に食べてみて下さいね。それからこっちはデザートです」
お菓子作りが趣味の未憂だから、デザートもイチゴジャムサンド、チョコチップクッキー、ジャムを添えたスコーンと力が入っている。
「あたしもおむすびに合うほうじ茶とサンドイッチに合う牛乳を持ってきてるよー。物々交換は世界の基本!」
紅茶は他の人にお任せだけど、と笑いながらリンも飲み物を出してきた。
「あたしのおむすびはどんどん食べていいよー。代わりにお菓子とほうじ茶もらうねっ」
灯世子は黒団子のようなおにぎりを、どうぞどうぞと皆の前に押し出した。
「ではアゾートさんはこちらをどうぞ……」
エリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)が開いたバスケットには、溢れんばかりにサンドイッチが詰まっていた。
ハム、タマゴ、ポテトサラダにBLT。
「随分たくさん作ってきたんだね」
サンドイッチの量に驚くアゾートに、エリセルは何でもないように首を傾げる。
「2人分ならこれでも足りないくらいではありません?」
そしてその言葉通りに、ぱくぱくとサンドイッチを食べ出した。見た目に寄らぬ食べっぷりだ。
物陰に隠れてエリセルを見守りながら、トカレヴァ・ピストレット(とかれう゛ぁ・ぴすとれっと)は思わず呟いた。
「エリセル……アゾートのためとはいえ……作ったサンドイッチの大半は自分用ってどうなのよ?」
今日も今日とてトカレヴァは、姿を隠してエリセルの護衛としてこっそりとピクニックに同行している。
エリセルを見ているとはらはらしてしまうけれど、やりすぎた行動や危険がない限りは、ひたすら見守る構えだ。
「アゾートさん、こっちも食べてみないか?」
エースはエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)と一緒に作ったお弁当を入れた大きなランチボックスを持ってきた。
「ちょっと日本風のお盆等にしてみたんですがいかがでしょうか」
たらこ、ツナマヨ、鮭、梅干しを具にしたおにぎり、天むす。
おかずは焼き魚や煮物、そして唐揚げは外せないとクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が主張したので、それも入れてある。
「ルカルカもお手伝いお疲れ。こっちの水筒はハーブティが入ってるからね」
ピックで刺して食べやすく詰めてきたお花見弁当を、エースはルカルカ・ルー(るかるか・るー)たちのところへも持っていった。
「お弁当ならお任せ。じゃ〜ん、今日のお弁当は私とおにいちゃんの合作なんだよ」
クレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)は涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)と一緒に作ってきた二段重箱の蓋を開いてみせた。
1段目には筑前煮、だし巻き卵、鶏の唐揚げ、牡蠣フライ、蕪ときゅうりの浅漬け。
2段目は定番の梅干し、おかか、そして塩のみのおにぎりだ。
「さあ、皆さん。これからヒイロドリの尾羽を採りに行くのに、腹が減っては何とやらですよ」
涼介はお弁当を小皿に分けて皆にふるまってゆく。
「凄い。形がちゃんと揃ってる。俵のおにぎりもこうやって詰まってるとかわいいねー」
灯世子はやはりおにぎりが気になるらしく、しげしげと眺めて感心する。
「女の子にも食べやすいように、一口サイズにしてあるんです」
涼介の説明に、灯世子はうっと唸って自分の大きな真っ黒おむすびに目をやった。
「大きいとダメ……?」
「ダメではありませんけれど、大きな口を開けてかぶりつきたくない人もいるでしょうからね。特に球にしてしまうと、どこから口をつけて良いのか迷うということもありますし」
なるほど、と灯世子は頷いた。
「大きさとかは考えてなかったなぁ。これからはちょっと小さめに握ってみようっと」
「他にも色々心遣いがしてあるんですよ。筑前煮は味がしみるまでよく煮てありますから、汁気を切って詰めても美味しく食べられます。それから鶏の唐揚げはお弁当用なので、下味つけにニンニクを使わず生姜を使ってあります。揚げる際には油の温度に気を付けて3度揚げしてありますから、外はサク、中はジューシーに唐揚げに仕上がっているんですよ」
涼介がした説明に、灯世子はそんなに、と驚いた。
「今話したのはほんの一部。細かいことを言えば数え切れないほどですよ」
「お弁当を作るにも、いろいろ考えるんだねー。ほんとにすごいっ」
「私もおにいちゃんに習っているところだけど、料理はやってみると面白いよ。少しずつ上達してるのが分かると、楽しくなってくるんだよね」
クレアはにこにこと言うと、小皿にたっぷり盛りつけたお弁当をアゾートに差し出した。
「あんまり食が進んでないみたいだけど、食べておかないと元気が出ないよ」
「あ、ありがとう。つい、ヒイロドリのことを考えてしまうものだから……」
お弁当に手を伸ばすことも忘れてしまっていたのだと言って、アゾートは受け取った小皿からだし巻き卵をとってぱくりと食べた。
「みんなでお弁当を食べるですぅ」
アルが呼びかけると、花を眺めて遊んでいたカレンが秋月葵の手を引っ張って戻ってくる。
「あおいママはここに座って〜」
「はいはい。お弁当楽しみだなぁ」
ピクニックのお弁当はアルとカレンが作ったものだ。何が入っているかはピクニックの時のお楽しみ、と言われていたから葵はわくわくしながらお弁当を待った。
「おにぎり作ったの〜。それからこっちは一口ハンバーグと卵焼きと焼きプチトマト〜♪」
カレンが作ったおにぎりは歪な形で海苔が巻かれている。
「こっちがあたしのですぅ」
アルが出したおにぎりは形の良い三角だ。
「どれどれ〜♪ まずカレンちゃんのからもらおっかな」
カレンのおにぎりを食べてみれば、じゅわっと果汁がごはん粒を巻き込んで広がる。
「カレンはね〜、あおいママの好きな苺いれてみたの」
「そりゃあ苺は好きだけど……えっと、アルちゃんのも食べてみようかな」
口直しにとアルのおにぎりを食べてみれば。
「む……このおにぎり、しょっぱいご飯と甘いチョコの味わいが……斬新というか……イヤ無理、合わないよ! ごめん、どっちも無理!」
「おかしいです? 本には好きな具を入れて握ると書いてあったですぅ」
だからチョコレートやグミを具にして握ったのだとアルは自分もおにぎりを食べてみて……絶句した。全然合わない。
「あおいママのためにがんばって作ったのに……」
カレンも自分のおにぎりを食べて涙目になる。
「だ、大丈夫だよ。ほらほら、こうやって中の具を取れば食べれるし〜。2人ともはじめてにしては良く出来てると思うし、そう落ち込まないの」
葵は急いでフォローしたけれど、アルもカレンもしゅんと落ち込んだままだ。
「しょうがないなぁ〜。葵ちゃんが元気が出る魔法を使っちゃうよ♪」
もしやと保険の為にリュックに入れてきたサンドイッチ。メイド向け高級ティーセットで美味しいお茶とお菓子。リンゴをするするとむいてうさぎリンゴに……と、葵はてきぱきとピクニックのご馳走を整えた。
「どこから出したですぅ?」
「あおいママ凄いなの」
元気を取り戻したアルとカレンの様子に葵はほっとする。
「さ、食べようか。あ、アゾートちゃんと灯世子ちゃんも一緒にお茶しようよ♪」
多ければ多いほどお茶は楽しいから、と葵は笑顔でティーカップにお茶を注いだ。
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