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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2

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太古の昔に埋没した魔列車…環菜&アゾート 2
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第17章 Christmas After1

「列車はまだ出発していないようだな」
「和輝、寒いよぅう…」
 アニスは彼の袖を掴み、ぶるぶると震える。
「駅舎の外にある待合室に行こうか?」
「うんっ、そこならきっとあったかーくなるかも」
「あの端っこなら駅舎と列車、両方見えるんじゃないの?」
 飲み物を入れたカゴを抱えたスノーが、コテージのような待合室を指差す。
「誰もいないみたいだな。皆、駅舎や列車の中にいるのかもな…」
「なんだか静かね…」
 スノーはテーブルにカゴを置き、飲み物が入ったボトルと、グラスを並べる。
「―…列車は、若干見えるくらいかしら?」
「扉を開いた時に、雨が車内に入り込まないように考えたんだろう」
「まぁここなら、まったく見えないわけじゃないからいいけどね」
 リモコンで扉を閉じ、透明な扉の向こうにある景色を見る。
「飲み物を作ってあげるわ。少し冷たくても大丈夫よね?扉も閉めたんだから」
 彼のためにドリンクを作ってあげようと、クラッシュド・アイスをグラスに詰める。
 ライムジュースとシュガーシロップを加え、ジンジャーエールをたっぷりと注ぎ、軽くステアしたノンアルコールカクテルを、彼の方へ寄せる。
「爽やかな風味だな」
 スノーに作ってもらったサラトガクーラーに口をつける。
「俺も何か作ろうか?」
「ううん、私は自分でシンデレラを作るわ」
「う〜、眠いよ〜……くぅ〜……」
 頑張っていろんな人と話したアニスは疲れてしまい、スノーの膝の上で眠ってしまう。
「眠ってしまったわね」
 緩衝材的なアニスが彼女の膝を温めているため、少しずつ顔が赤くなっていく。
「いろいろ話をしてたみたいだし、疲れているんだな。寝かせておいてやろう」
「(アニスが眠ったら、この狭い空間に和輝と2人きりってことじゃないの!?)」
 酷く動揺したスノーの顔が、いっきに真っ赤に染まる。
「顔が赤いみたいだが…?」
「赤いのは、少し寒いだけよ」
 片手でマフラーを首元へ寄せ、カクテルに口をつける。



「ごめん、待った?」
「だいぶ待たされたわよ、セレン」
 恋人がパーティードレス選びに時間をかけすぎ、待ちくたびれた様子で、セレアナため息をつく。
「削がないと列車が出発しちゃうから、さくっと見るわよ」
 ドレスの裾を持ち上げ、小走りに走る。
 先に2階から見てしまおうと、雑貨屋に入る。
「2組の商品を、1つの店舗に配置しているのね。セレン、グラスとか迂闊に触らないでっ」
「どうして?商品なんだから、手に取ってみるほうがいいじゃないの。キレイなグラスね、これでシャンパンなんか飲んだらきっと最高よ!」
「私たちにそんな予算はないわ…」
「高くてもせいぜい100Gでしょ?」
「いいからこっちによこしなさいっ。よかった…無事みたいね」
 セレンフィリティの手からパッと奪い取り、傷がついていないかグラスをチェックする。
「ちょっとセレアナ!ペアで買うんだから、返して」
「そんなことしたら…私たちの口座の残高が、限りなくゼロに近くなるわよ」
「ぇ…何、それ…そんなにするの!?」
 高額な商品を買ってしまうと、日々の食い扶持も失いかねない。
 驚きのあまり、セレンフィリティは思考がフリーズしそうになる。
「そうよ。だからこの辺の領域は諦めてちょうだい」
 セレアナは元通りに、そっと棚へ戻す。
「ねぇねぇ、セレアナ。Tシャツがあるわ!」
「んー?まぁ…それくらなら買えなくもないけど」
「校長たちの写真の画像を使って、プリントしてあるみたい。他の柄もあるのかしら?」
「はい、そこまでよ。もう時間がないわ」
「えー…もっと見たいのに!!」
 駄々をこねてみせるが、恋人の表情は変わらない。
 引きずられるように腕を引っ張られ、魔列車に乗車する。



「シュウったら、勝手にいなくなっちゃうなんて!」
 クリスマスは手料理を、魔列車と駅舎の完成祝いパーティーに供出したティアンは、いつの間にか食堂車からいなくなってしまった玄秀を探す。
 通常車両に行ってみるが、そこには彼の姿はない。
 たくさん部屋があるわけじゃないんだから見つかるはず!と、今度は寝台車の中を探してみる。
「シュウ、いたら返事してー。―…いないみたいね」
 3等車を探しつくし、2等車の部屋も見てみるが、やっぱりいないようだ。
「ねぇ、どこにいるの!?―…残るは一番奥ねっ」
 諮問認証され、ドアが開く。
「やっと見つけたわ」
「なんだティアか」
 周りと適当に話を合わせていたが、途中で面倒になって離脱していた。
「ちょ…なんだとは何よっ。人が一生懸命探していたのに」
「こっちにきて一緒に見ない?」
「ぇ…シュウがそう言うなら…」
 ムスッとさせていた顔を一変させ、嬉しそうに口元をほころばせる。
 玄秀のすぐ隣に寄り添い、ティアンも静かに雪景色を眺める。
「他のスィートルームよりも、こっちのほうが眺めがいいんだ」
「そうみたいね。ホワイトクリスマスかー…」
 サウンドでもかかれば、ロマンチックさがもっと出そう…。
 彼に騒がしいからイヤだと言われそうだから我慢し、粉雪が緑を覆い隠していく光景を見つめる。
「(僕の本当の顔って…この雪よりも冷たいヤツなんでしょうね…)」
 ほんの一瞬、彼の本性を思わせる凄く冷たい光が、黒色の双眸に宿る。
 ―……だが、それはすぐに消え、傍にいるティアンに微笑みかけ、2人きりで雪を眺めて静かな時を過す。



「これが本来の列車の姿なのか」
 普段は飛空艇やワイバーンなどといった、空の移動ばかりなのだが、初めて列車というものに乗ったグラキエスが無邪気に喜ぶ。
「内装はまるごと変わっていますけどね」
「ロア、座席がいっぱいあるぞ!」
 空だと数人乗りか1人の場合が多いため、グラキエスにとっては目新しく感じるのだろう。
「列車の椅子って、こういう仕組みになっているのか…」
 背もたれを倒してみたり、椅子のストッパーを解除して、くるくる回して遊ぶ。
「新幹線なども椅子を回転させて、4人席にしたりすることも出来ますからね」
 椅子の上に転がる彼を、ロアが抱きかかえる。
「下ろしてくれ、ロア」
「私もなぜ、エングを抱きかかえたのか…分からないんです」
 彼を突然抱きかかえたロアにしても、なぜそんなマネをしたのか理由が分からない。
 だが、クリスマスに何かを感じ、そうしなければいけなような気がした。
「主、何か料理をいただいてきましょうか?」
 席を元に戻しつつ、アウレウスは主の所望するを聞く。
「ケーキが食べたいな。魚や肉料理があれば、それもほしい」
「飲物は何をお持ちしましょう?」
「美味しいジュースが飲みたい」
「主のために必ずここへお運びします!」
 我が主のためならばと、料理☆Sasakiへ料理をもらいにいく。
「いらっしゃい。ご注文をどうぞ♪」
「ケーキの他に、魚や肉料理といったものがあればほしいのだが。それとジュースも頼む」
「北都くんが食べたいっていってたから、イチゴのケーキならすぐに出せるよ。カットとホール、どっちがいい?」
「他のデザートももらうかもしれん。カットにしてこう」
「先生、盛り付けよろしく」
「任せてー」
 西園寺は大皿をトレイに乗せ、皿にカツオのカルパッチョや、ローストビーフなどを盛りつける。
「ジュースは何にする?」
 ハードカバーのメニュー表を渡し、アウレウスに選んでもらう。
「パイナップル・クーラーなんてよさそうだな」
「お待ちどうさま!」
 ソーダー以外をシェイクし、氷の入ったゴブレットに注ぐ。
「ではいただいていく」
 アウレウスはトレイを抱え、落とさないようにゆっくりと進む。
 通常車両に戻るとロアに抱えられたまま、グラキエスはぺたぺたと窓に触れ、景色を楽しんでいる。
「景色がどんどん移り変わっていくな…。テレビの映像を、少し早回ししているような感じだ」
「主、お持ちしました!」
「ありがとう、アウレウス」
 箸でカルパッチョを摘み、口へ運ぶ。
 ケーキが食べたくなるとアウレウスに箸を預け、フォークをもらって食べる。
 甘酸っぱいノンアルコールのカクテルが入ったゴブレットは、アウレウスが持っているトレイの上にあるから、すぐ手が届く。
 まるで至れり尽くせりような状態で、道を白く染めていく雪景色を眺めつつ、料理をつまむ。