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リアクション
山葉校長兼理事長の呼びかけもあって、蒼空学園からの参加者は多そうだった。生徒達を束ねるのが2人の男女。
曰わく、蒼空学園の双璧
曰わく、山葉校長の2本の懐刀
曰わく、蒼空学園生徒の男子代表と女子代表
曰わく、未来のシャンバラを背負って立つアダムとイブ
「おーい、そんなこと本当に言われているのかぁ、俺ぁ、聞いたことねぇけどなぁ」
山葉校長に依頼されて、生徒会長の東條 カガチ(とうじょう・かがち)と副会長の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)はボランティアを募っていた。
「いいじゃない! 気分よ! 気分! やるなら楽しくやるのが私のモットーなの」
「第一なぁ、アダムとイブってのは……」
「変なこと考えないでよ!」
「おーっと!」
美羽が自慢の美脚で回し蹴りを放つ。カガチはのけぞって避けたが、座っていた椅子ごとひっくり返り、後頭部をしたたかに打った。
そんな2人を尻目に見ながら、てきぱきと生徒を捌いていくのがベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)だった。こちらはまさしく美羽の懐刀。ベアトリーチェのフォローがあってこそ、美羽の活躍がある。またベアトリーチェのガードが無ければ、美羽のパンチラ写真は、今の数倍は出回っていたはずだ。
早々に申し込んだのが猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)とパートナーのフリーデン・アインヴァイサー(ふりーでん・あいんう゛ぁいさー)。
「これも修業の一環だよな」
意気込む勇平だが、フリーデンはその次の言葉に心配が強くなる。
「掃除もだけど、汚してる奴ときっと喧嘩になると思うから修行になるんじゃないかな。強そうなやつらを探し回っていこうか」
なんとなく意図が変わっているのは、フリーデンにも分かった。
「勇平、掃除じゃぞ。分かっておるのか?」
そう言いつつも、彼の言葉も危うい。
「町を壊さぬよう気をつけるのじゃぞ」
暴れる気配がプンプンとしていた。
「あら、勇刃様!」
御東 綺羅(みあずま・きら)に呼びかけられた健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は振り返った。
「綺羅も参加するのか?」
「ええ、害虫退治ですもの。張り切って頑張りますわ」
媚び媚びの態度で、綺羅は勇刃の手を握り締めた。
「綺羅がいれば、鬼に金棒だな」
「そんな、私なんて、勇刃様のお役に立てるかどうか……」
強引に2人の世界を作り上げた綺羅に、天鐘 咲夜(あまがね・さきや)が割って入る。
「健闘くん、そろそろ行きましょうか」
一瞬、綺羅は咲夜を睨みつけるものの、次の瞬間には誰もいないかのように話を続けようとする。
「健闘さん、いろいろ準備を致しませんと……」
「お兄ちゃん、行こうよ」
3人に呼びかけられて、勇刃は「それじゃあ」と綺羅にさよならを告げた。
綺羅は「チッ、小娘達が」とつぶやいたものの、表面上は「そうですわね。それでは空京で」とにこやかに応じた。
健闘勇刃の背中を見送ってウットリする一方で、“小娘達”3人に向けては中指を立てた。
仲間同士で意見の食い違うことも少なくない。
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は「力仕事は任せてもらおう」と胸を叩き、パートナーの馬 超(ば・ちょう)も「了解した。これも筋力の強化に繋がる。力を込めて行おう」と表情を変えずにうなずいた。
しかしもう1人のパートナー、ラブ・リトル(らぶ・りとる)は徹底抗戦の構えを見せた。
「イヤー! 絶対にイヤー! 掃除手伝いとかイヤー! おうちでコタツに入ってみかん食べたーい!」
そんな抵抗もむなしく3人はボランティアに参加することになった。
「うー、こうなったら絶対にサボってやるんだからぁー」
ハーフフェアリーの彼女は、小さな体に大きな決意を秘めた。
「空京の街を大掃除かぁ……うん、僕も参加しようかなぁ」
ボランティア募集に高峰 雫澄(たかみね・なすみ)は目を輝かせた。
「もちろんシェスティンも来てくれるよねぁ」
パートナーであるシェスティン・ベルン(しぇすてぃん・べるん)は「雫澄、貴様が清掃のボランティアをするのは勝手だがな……」と断ろうとしたが、害虫駆除の4文字に目を留める。
── 暴れられる……のか? ──
軽く咳払いをすると、言い訳がましく口上を述べる。
「雫澄、真の美しさとは何だと思う? それは平穏の中にこそあると思わんか?」
いきなりの長広舌に雫澄は戸惑う。
「確かに外見の美しさも重要かも知れん。だが、心の安定からくる内面的な美しさこそ真の美しさではないか? その美しさを求めるためには、いかなる犠牲を払おうとも惜しくはないのでは、と我は思う。で、あるからにして美しさを求めるためには、妨げになる輩は徹底的に排除するべきではないだろうか。そう! そのためになら我は持てる力を最大限に振り絞って……」
ポカンとしていた雫澄が話を遮る。
「えーと、よく分からないけど、暴力はダメだよ」
「暴力などとはとんでもない! 最小の努力で最大限の効果を求めに効率よく行動を行おうと言うのだ! まぁ、雫澄が納得しようとしまいと関係ない! 害虫駆除とやら、我に任せてもらおうか!」
言うだけ言って、シェスティンは雫澄を受け付けへと引っ張った。「参加できるなら」と雫澄も付き従った。
「本当か? ほんっとうにグラキエスも参加するんだな」
ロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ)はレヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が「ええ、間違いなく」と答えると、「やっほう!」と飛び跳ねて参加を決めた。
単位の危ないロアの評価を上げるべく、ボランティアに引っ張り出そうとしたレヴィシュタール。
『お前が留年したらパートナーである私も一蓮托生なのだぞ』
大声でそう言いたくなったが、どんなに叫んだところでカエルの面になんとやらで、ロアには効き目が無いのはレヴィシュタールも知っている。
『馬の鼻先にニンジンを、と思ったが、こうもウマく行くとはな』
柄にもない駄洒落をレヴィシュタールが思い浮かぶほど、グラキエスの名を聞いたロアは浮かれていた。
男女かまわず手当たり次第に抱きついては、気の弱い女生徒には悲鳴をあげられ、気の強い女生徒や男子生徒からは痛恨の一撃を次々に食らっていた。それでもロアの浮かれようは収まらない。
「仕方ない、グラキエスに口裏を合わせてもらうように頼むか」
レヴィシュタールは携帯電話を取り出した。
天御柱学院のグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は携帯電話をポケットにしまった。
「誰からでした?」
エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の問いかけに、レヴィシュタールの名と用件をかいつまんで話した。
「参加……するのですか?」
「ああ、ちょうど空いてるしな」
エルデネストは金色の眉をひそめると、緑の瞳が曇る。
「グラキエス様、お気をつけください。ロアはもちろん、レヴィシュタールも危険です」
「そうかもね」
「もっと危険なのは、危険と知って飛び込んでいくグラキエス様です」
幾分強い口調にグラキエスも「わかった」と真面目にうなずいた。
ボランティアを違った形で支えようとする者もいる。
佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と佐々木 八雲(ささき・やくも)は屋台の出店を目指していた。しかもクレープである。出す予定の看板にはクレープ ノーブルファントムとペイントされている。
「ボランティアも腹が減るだろうからな」
椎名 真(しいな・まこと)は考えた末に温かい飲み物や食べ物を提供することに決めた。
「お茶にハチミツレモン、…………トン汁も良いな」
材料費は小さくなかったが、まとめ買いすることで、出費を極力抑えることができた。ただし容器に問題があった。
「なるべくゴミは減らした方が良いんだが……」
山葉校長に連絡する。
「……と参加者に伝えておいてくれませんか? お願いします。えっ、駄菓子屋でも何か提供する予定。ああ、火村さんが……」
火村 加夜(ひむら・かや)は駄菓子屋を訪れていた。もんじゃ焼きを食べながら、村木お婆ちゃんと話をしている。
「ありがとうございます。お茶やコーヒーなどを飲んでもらおうと思って」
「こちらこそ、なんだかたくさんの生徒さん達に手伝ってもらえるのはありがたいよ」
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