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リアクション
〜 3rd phase 〜
状況確認完了、調査対象を別フィールドに移行
……コアの精神はやや不安定、引き続き観察を継続
他、問題なし。サンプルの観察を再開
フィールド:個人スペース・居住区エリア A地区
複数のサンプル及び生成マテリアルを確認
マテリアルの自立意識の飛躍的な進化を確認
想定外のケースによりサンプルの影響に注意が必要…細かいデーターの採取の必要あり
「ただいま!日奈々ぁ〜?……あれ?日奈々?どこ〜?」
ショッピングモールからの買い物を終え冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は自宅ルームで家主を探す
リビングを覗くと無人の部屋でつけっぱなしのテレビが緊急ニュースを流していた
気にはなったが、外で警報は流れてないので大丈夫だろうと別の部屋に移動する
台所とバスルーム、そして寝室を見回していると、奥の方から娘の奈千が駆け寄って来た
「ただいま奈千。日奈々お母さんは?」
千百合の問いかけに娘は半分困ったように、そして半分楽しそうに答える
「おかあさんねぇ、せんたくものとあそんでる!」
「は?………まさか」
思うところがあり、千百合は急いでテラスの方に向かう
そこには最愛の人、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)が洗濯物を取り込もうと
テラスの塀ギリギリの所でシーツと格闘している姿があった
「ちょっ!何やってるのっ!無理しなくていいのに!」
慌てて千百合が駆け寄り、シーツを彼女から引き離す
日の匂いに包まれるという暖かな苦しみから解放され、日奈々がようやく口を開いた
「おかえりなさい千百合。折角だから洗濯物でも取り込もうと思って」
「そういうのは、メイドのあたしの仕事って言ってるでしょ?もう……」
「ごめんなさい。でもお日様の匂いって好きなんだもん」
「気持ちはわかるけど……布の感覚って一番難しいでしょ?料理とか洗濯とかならまだいいけど」
日奈々の言葉に、娘のあの曖昧な報告の様子を思い出し納得する
盲目の彼女にとっては、あの晴れた日のシーツの匂いと感触は青空を感じる最上の手段なのだろう
大きな布に風で全身をくるまれ、出口を失いながらも、それは自分よりもずっと心地良いものに違いない
そんな千百合の胸の奥の苦笑いに気が付かず、日奈々はすまなさそうに謝罪を続ける
「……だって傘も恋華も今は旅行中でいないでしょう?
家の事を千百合ちゃんだけに任せるわけにはいかないもの、私はあなたの支えになりたいんですぅ」
「はいはい、気持ちはわかりました。
でもそうしてくれるならもっと奈千と遊んであげていいんだよ。
よく言うでしょ?子供が小さいのはあっという間だって、すぐに大きくなっちゃうかもよ?」
千百合の言葉を受け、日奈々は膝に乗っかって抱き着いている娘の姿を見る
不思議そうに自分を見上げる奈千の頭を撫でながら、観念したように呟く
「そうですねぇ……私はあなたのお母さんだものねぇ」
母親の言葉の意味を知ってか知らずか、娘も上機嫌で日奈々にぎゅっと抱きついている
その姿を見ながら、千百合は先程の日奈々の言葉を思い出す……支えになりたいのは自分だと言う言葉
だが、あなたよりもずっとずっと、守りたい想いが自分にはあるのだと自分も思っている
あの水晶化の事件の、何もできなかったという後悔はずっと胸に傷として残り続けている
……もう悲しませる事は絶対にしない
何故か先程のテレビで流れていた緊急ニュースの音が不安とともに蘇ってきたが
左手にした将来への誓いの指輪とともに千百合は決意を新たに誰にともなく呟くのだった
「例えどんな事がこの先あったとしても、あたしは大切な人を守るんだ……」
場所は変わって、居住エリアの別の区画
外からのコール音に促され、玄関の戸が開いて疲れ果てた女家主が顔を出した
彼女〜セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)〜の様子を見て訪問主が恐る恐る口を開く
「すみません、うちの子と連れが遊びに来たんじゃないかと思うんだけど……」
高島 恵美(たかしま・えみ)の問いに、答えるのも億劫そうにセレンフィリティが部屋の奥を指差した
廊下の向こうに見えるリビングで、絵本に囲まれながら大の字になって寝ている親子がいた
恵美のパートナー、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)とその子供である
「親子そろって泥だらけで電光石火で遊びに来てね
風呂入れてやって絵本貸してあげたら、仲よく遊んだあとこうなったってわけ……」
「ごごごごめんなさいっ!人の家でそんな好き放題を〜〜〜!」
慌てて頭を下げる恵美に、苦笑いしながらセレンフィリティはひらひらと手を振って答える
「あ、いや。別にいいのよ遊びに来てくれる分には。
ただまぁ、見ての通り廃墟の様な有様だからね。片づけないのが悪いんだけど」
「そうだよ!ママいっつも片づけろってあたしに言うけど
ママだって片づけないでちらかしてるよ〜!ちゃんとかたづけてよ〜!」
ガランガシャンという音とともに、毛布を引きずってセレンフィリティの娘のセレスが姿を見せる
何やら寝ているミーナ達にかけようとしているらしい
毛布の上に乗っていた玩具が音を立てて雪崩のように転がっていく
「あ〜はいはい、おっしゃる通りですよ。ママが悪いんですよ〜だ」
リビングに案内されながら、友達同士の様な母子のやり取りを見て恵美はクスクスと思わず笑ってしまう
「……うちの子も言っていたけど、ホント仲いいんだねぇ、お二人って」
「いやいや、恵美のとこのあの二人に比べたらまだまだよ?
ヒトん家だっていうのにず〜っとべったりでお風呂も絵本もゲームもやってたもの。
家の事もしないといけなかったりすると、どうしてもそこまでできないでしょ?
やっぱりパートナーがいるって助かるなぁ……元々向いてないのよ、あたし家事って」
「そっか……セレアナさん、仕事だったっけ……寂しくない?」
恵美の問いに、セレンフィリティは我が子を指差しながら笑って返す
「寂しくもなってみたいけどさ……誰に似たんだか、あの子が元気でね。その暇がない」
「…そうだねぇ。うちも元々小さいのが二人いてね、今旅行に行っているんだけど
やっぱり子供の事で二人の事を心配していられないものねぇ」
「そうそう!それにこうやって何故かうちに遊びに来る子が多いでしょ?かまってるので精一杯なわけ」
そうセレンフィリティが言い終わるや否や、玄関から再びコール音が鳴り響く
話し込んでいる親二人に代わって対応していたセレスが楽しそうに戻ってきた
「ママ!奈千ちゃんが遊びに来た!一緒にこころちゃんの所に遊びに行こうって!」
「こころちゃん…?ああ、いちるの所か。別にいいけど……」
言いながらセレンフィリティと恵美の視線が大の字になっているミーナ親子に向かう
しかし、コール音でやんわりと起きていたらしく、親子そろって元気に覚醒したようだ
「あ!おかーさんだ!おそとにあそびにいこー!こころちゃんとこいこー!」
「大丈夫だよ!おとーさんが行ってあげよう!まだまだ遊ぶよー!!でもその前にー!」
ミーナと子供が人目もはばからず、恵美に抱き着き、子供を挟んだサンドイッチの様な状態になる
彼女等にとっては恒例の事なのだろう。苦笑しながら恵美はミーナごとぎゅっと二人を抱きしめる
それを見たセレンフィリティも溜息とともにセレスに呼びかける
「セレス。今みんなの分のお菓子用意するからちょっと待ってて!
あと、何とか少し片づけてみるから遊び飽きたらこころちゃんも連れてきたらいいよ
みんなまとめて面倒見てあげる!こうなりゃヤケだっ!」
「わぁい!ママ大好き!」
飛びついてくる娘を抱きとめながら、彼女はぼんやりと今はいないパートナーの事を考える
そして幸せに浸りながら、何気なくふとした疑問に行き当たるのだった
(『……あれ。そういえばセレアナって何処に仕事で行ってたんだっけ?……ま、いっか?』)
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