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リアクション
〜 4th phase 〜
……こんなに大好きなのに、幸せなのに……なんでこのままじゃ駄目なの?
パパやママやみんながずっと楽しくいられるようにしてるのに……
いっぱい幸せにしても、それはしゃぼん玉みたいに消えて行こうとしちゃうんだ
帰っちゃヤダよ……ずっとここにいてよ
…………いつまでも一緒だよ?
マテリアルの自立思考プログラムに揺らぎが発生
それにより、コアの精神パルスに不安を示す波形を確認
空間維持の強度を確認中……危険で無いと判断。しかし警戒は必要
各エリアのマテリアルの状態と、各サンプルの動向のデータ採取をレベル4に変更
確認を兼ね、外部の状況を確認、映像データーを展開中……3・2・1……
封鎖網の電磁ロープを隔て、多くの野次馬が建物を囲んでいる
被害者に関係があると思われる者達が、事態の進展を聞こうと殺到し、その対応に警備が追われてる中
調査員らしき者が、現場指揮の者に解った状況を報告しているらしい
「……というわけで……アクセス不能……帰……不可能……です」
「封鎖網を抜け……侵入者あり……解……目的かと!」
その会話は喧騒の中でかき消され、はっきりとは聞き取れない
それがセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)にはもどかしく、彼女の気持ちを一層焦らせる
そんな彼女に情報を集めに奔走していた久我内 椋(くがうち・りょう)が戻ってきた
「待たせたな!やはり予想通りだった。
君のパートナーはこの中にいるらしい、俺の連れの名前もリストにあった!」
「そうですか……セレンったら、一体どういうつもりで……」
パートナーの所在がわかり、セレアナは歯噛みをし足を踏み出そうとする
それが、無理矢理封鎖を抜けて建物に入ろうとしている行為だと気づき、椋が引き止めた
「やめるんだ。君の様に勝手に人を助けようと中に進入した者が戻って来ないらしい。
貴殿までそうなったらどうなるつもりだ!?」
「……でも、このまま黙って見てるなんてっ!」
掴んだ腕を強引に振り払おうとしながらセレアナが涼に抗議する
いつもはクールで通っている彼女の、そんな彼女らしくない激しさに驚きつつ
それでも椋が、その手を離す事は無い
「それは俺も同じだ…だから俺が行く!セレアナ殿は今しばらくここにいてくれ。
あそこから何の影響も受けず戻ってこられた俺なら、恐らく再進入も問題ないだろう
そうだな……2時間に何も事態の変化がなかったら後の事は任せる」
「…………わかったわ。セレンの事、頼むわね。
しかし不思議ね、あの殆どの人を巻き込んだ強制力を何故あたなが受けずに戻ってこられたのか」
椋の的を射た提案にようやくセレアナは納得して落ち着いた
振りほどこうとした腕の力を緩め、彼女は彼にパートナーを託しながらある疑問を口にする
封鎖網を強行突破するべく【小型飛空艇ヘリファルテ】を用意しながら椋はニヤリとその疑問に答えるのだった
「当然だ。俺は商人だからな。頭の中には商いの事しかないって事だ。
ここにも商売の方向性を考えるために来ていただけだ、馬鹿なうちの相棒と違ってな」
緊急事態発生! 外部の状況確認を強制中断
コアとサンプル及びマテリアル固体が接触
サンプル及びマテリアルのデーターをサーチ
……照合完了 2個体のシステム干渉の可能性は極めて低いと判明
しかし、コアの精神波形の急激な変化は要注意
引き続きこちらの観察を続行
「……大丈夫?どこか痛いの?それとも迷子だったりする?」
不意の呼びかけに、膝を抱えて泣いていた少年は顔を上げた
場所は都市の中心、セントラルビル階下近くの小さな公園
声をかけた少年が反応してくれた事に安堵し騎沙良 詩穂(きさら・しほ)と娘の詩音は顔を見合わせた
そのまま詩穂が会話を続ける
「ごめんね。こんな所であんまり小さく縮こまっているから。お父さんとお母さんは?」
詩穂の問いに少年は黙ってセントラルビルの屋上を指差した
「……ずいぶん素敵なところにいるのね。一緒にいて迷子になったの?だったら一緒に……」
「行きたくない」
「………なんか、ケンカしたの?嫌いなの?」
詩穂の言葉に少年はキッパリと拒否の言葉を述べる
その感情表示に今度は娘の詩音が少年を覗き込んで訪ねた
その心配そうな顔を見て、ばつが悪そうに少年がようやく話し始める
「そうじゃないよ、大好きだよ。だからずっと一緒にいたい。
でも…一緒にいられなくなるかもしれないんだ。
そんなのは嫌だって、僕は一生懸命頑張ってるんだけど……上手くいかないんだ、ダメなんだ」
「……お父さんかお母さん、何かお仕事があるの?」
詩音の問いには答えず、少年は固く口をつむぐ
……まぁ、家庭の事情は人それぞれだ、何かしら使命や環境などの変化もあるのだろう
結局のところ、自分達だっていわゆるシングル家庭だ
片親で申し訳ない気もするが、それでも元気に娘は自分を慕って元気に育ってくれている
突然黙ってしまった行為と、ずっと顔を覗き込んでいる詩音の様子に、少年は会話を再会する
「父さんも母さんもすごく一緒にいてくれる。だから一緒にいられないなんて考えられないよ
……不安なんだ。だから、きっと一緒に暮らせなくなったら僕の事なんか忘れるに決まってる」
「そんなことはないよ!詩音はずっとお母さんと二人だけでいるよ
でも、いないもう一人のお母さんの事、とっても大切に思ってるもん!」
少年の手を握り、詩音ははっきりと彼に語りかけはじめる
その真っ直ぐな目に驚いて少年は言葉を止め、彼女の言葉に耳を傾けた
「ホントはね、一緒にいた記憶は無いの。でも大好きって気持ちは覚えてる
お母さんだっていっつも大好きな人だってお話ししてくれるんだよ、だから詩音も大好き!」
見れば詩音の言葉に詩穂は真っ赤になって慌てている
でも、勢いで否定する事はしないあたり、本当に大好きなのだろう
それでも照れ隠しのように咳払いを一つして、詩穂が娘の会話に続く
「……えっと、どんな事情かはわからないけど、親って言うのは絶対に忘れないものだと思う
子供を望まない人なんていないもの。まぁ例外も世の中あるから、詩穂も半信半疑だったけどね
でも今はこの子がいて良かったって思ってる」
母の言葉を聞いて嬉しそうに抱きつく詩音の頭を撫でながら詩穂の話は続く
「だから、大好きって気持ちを誤魔化しては駄目
ちゃんとそれを大事にすれば、きっといい方に話が進むかも知れないよ?
だって親ってのはね、子供の事が一番だもん」
「そうかな……うん、わかった。僕もう一度大好きって言いたくなっちゃった」
元気に顔を上げた少年がセントラルビルに戻っていく
その後姿に大声で詩音が呼びかける
「また会ったら今度は一緒に遊ぼうよ!私は詩音!あなたは!?」
詩音の声に少年は手を振って答えながらビルの方に消えていくのだった
「僕はアダム!詩音また今度な!」
「何をそんなに仰視しているのだ?九条殿」
「あ、輪子ちゃん。いや……その」
……そんな詩穂親子と少年の様子を遠くで見ていた姿を、輪子と呼ばれた少女に呼び止められ
九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)は慌てるあまり言葉に詰まった
すぐ傍らにいる娘のロビンの心配そうな眼差しに気がつき、思わずそっぽを向いてしまう
その親子の光景は何度かあった様子らしく、輪子は大人の様な溜息をついた
「大方、あそこの泣いている男の子が心配だったのであろう?
心配な程、他所の子を気にかけるならもう少しロビン殿への態度を改めればいいのにのう。
まったく大人気ないというかなんと言うか」
「……7歳の子にそんな風にお説教されてもね」
「ま、ここは素直じゃない大人として話を収める事にするよ。
それに、大人気ない親というのはこちらも同じだから……のうっ!」
そう言って輪子は脱いだ片方の靴を少し離れた所でボーっとしている己が父親に投げつける
パッカーン!!……と景気のいい音を立ててひっくり返り
ようやくその標的…六鶯 鼎(ろくおう・かなめ)が我に帰った様に抗議をはじめた
「痛っっったいぢゃないですか!何をするんですかこの親不孝者!」
「他所の子の揉め事にも気づかず、しかも他所の親子との交流を娘に任せるからじゃ!
あげく道案内まで一任しおって…お主それでも私の父親か!」
「……7歳の娘にそこまで説教されるなんて、しっかりしす……へぶっ!!」
「誰のせいでしっかり育ったと思っている!この暖かな日差しに脳までやられたか!あ!?」
抗議と共に靴の弾丸の2発目を喰らい、涙目になりながら鼎は起き上がる
だがその表情には、すでにこの痴話喧嘩の後はなく思案の色……その目は再び天を仰いでいた
「そう、太陽が暖かいんですよ。穏やかで、誰もが幸せそうだ……」
「……何を突然」
「でもね、幸せすぎるって思いません?」
父の言葉に、引き続き抗議をしようとカバンを投げようとしていた輪子の手が止まる
立ち上がり、埃を払いながら鼎の話は続く
「職業柄ですかね?何か身に余ってしまってしょうがないんですよ。こういうのって
だから申し訳ないけど疑ってしまうんです。こんな事本当にあるんだろうかってね?
リアリティ無いって言うか…こんなはずじゃなくね?っていうか……」
(……それだけじゃない。「貴女」も「この世界」も。なーんか違うんですよね)
続けそうになった言葉を飲み込み、鼎の目線は目の前にそびえるセントラルビルへと向かう
「この『なんか違う』の中心が、あのビルな気がしてならないんですよ
だから行こうと思ったんです。そこのお二人には申し訳ないんですけどね」
「……すまんの、案内主が物騒な事言って。そなた達もここに用事があったのであろう?」
父の突飛な話に謝罪をしようと続いた輪子の言葉に慌てて九条は首を横に振る
「いえ、私達も特に用事があったわけじゃないんだけど……」
実は違和感は彼女にもわずかばかり残っていた
自分に子供がいる事の違和感……確かに幸せだしロビンが望まなかった子と言うわけではない
だが自分にも色々あって容易にこれを望む人間ではなかったはず……なかったはずなのだ
それでもこうやって子を儲け、共に親としてパートナーと歩もうと思った刹那、彼と死別し
それと向き合えないまま、子供に正直に接する事が出来ずにいる……その感情は本物だ
だが、その想いでを思い返すたび、何か切なく懐かしい感情も胸に湧き上がってくるのは何故だろう?
自分の中核にあり、それでいて思い出せないその葛藤は、彼女と子供の距離に拍車をかけていた
このままではいけない、そしてそのもやもやした想い出せ無い何かを思い出さなくては
……考えているうちに、何故かこのビルに行こうと思い立ったのである
そんな九条の様子に自分の違和感への感情と似たものを感じながら、空気を切り替えるように鼎は口を開く
「そんなわけでお父さんはあのビルに今から行こうと思います。
輪子は待っていて貰って構いませんよ。九条さん達もどうぞ用事の方を優先なさって下さいな」
「いや、折角なので私達もご一緒するわ。確かに中に入らないとどうしようもないし」
父と九条の言葉に、輪子は溜息と共に続く
「思い立ったら即実行、か……本当に父上らしい
ならば親に寄り添うが子の役目。私も同行するぞ、父上」
「……どこで覚えたんですかそんな堅苦しい言葉
ま、いいでしょう。でも危ないって思ったらちゃんと逃げなさいね?
あなたは私の自慢の『娘』なんですから。怪我したら一大事ですよ?」
そう言って頭をポリポリとかきながら鼎はビルに足を向け、九条とロビンもそれに続く
(「……やっぱり、父は気づいていた、か。ま、仕方のないことじゃ……何時かは来ること」)
振り返らない父の背中を眺めながら、声にならない声で輪子は呟く
そうして彼女も3度目の溜息と共に父親の後を追うのだった
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