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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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5.『彼女と迷い』

 タシガン空峡沿岸部のツァンダに所属する街、≪ヴィ・デ・クル≫。
 この街の喫茶店に客の来店を告げる鐘の音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ!」
 ≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむは、にこやかに笑みを店に入ってきた無限 大吾(むげん・だいご)セイル・ウィルテンバーグ(せいる・うぃるてんばーぐ)に向けた。
「あゆむさん、久しぶり」
 微笑みながら話しかけてくる大吾の顔を見て、あゆむはきょとんとした表情でしばし首を傾げていた。
「……ああ、思い出しました! あゆむが起きる時に力を貸してくれた、えっと、大吾さん! でしたよね?」
「あはは、よかった。てっきり忘れられているんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ」
 あゆむは申し訳なさそうに、何度も頭を下げた。
「おっと、そうだ。今日は君に用があるんだった」
「あゆむに、ですか?」
「そうなんだ。単刀直入に言うとだな。騨くんが君の過去と本当の家族について調べていて、それを知る人を見つけたんだとさ」
 廃墟で簡単な荷物運びを済ませてから、すぐにあゆむの所へ向かった大吾達は、まだキリエが話してくれた内容を知らない。
「ただ、どんな過去なのかまだ聞き出せていなくてな。君にとって辛い過去なら、そのまま伏せる気らしい」
「騨様がそんなことを……」
 あゆむは最近騨が隠れてこそこそやっていることを知っていた。
 しかし、それが自分のためだとは思いもよらなかった。
「君の人生に関わることだ。君の我が侭を言って貰って構わない。というか、今我が侭を言わないと君も騨くんも後悔する事になると思う」
 大吾は自分の記憶なのだから自分で決めるべきだと言ってくれているのだ。
 あゆむはどうするべきか悩んだ。騨はあゆむを気遣って行動してくれている。それはとても嬉しかった。
 だからと言って、知りたいという思いが消えたわけではない。
 辛い過去は伏せておくと言った騨の優しさ。
 しかし、あゆむには伏せておきたくなるような辛い過去というのが、どんなものか想像もつかなかった。なぜなら、あゆむの記憶は騨と多くの生徒達と過ごした楽しい思い出ばかりだったからである。
「私は過去より今が一番大事だと思います……」
 答えを出せないでいるとあゆむに、セイルがそっと呟いた。
「だから、今問います。その過去がもしあなたにとって辛いものだったら、

『1.過去を知り、それを受け入れて今を生きる。』
『2.過去を忘れ、それを騨に押し付けて今を生きる。』


どちらを選びますか?」
 あゆむはどちらを選べば正解なのだろうと真剣に悩んだ。悩んでみたものの、やはり答えは出なかった。
「自分で確かめに行きたいのなら案内するよ。……それじゃ、外で待ってる」
 大吾とセイルは困惑するあゆむを置いて店を出て行った。
 
 店の外で、二人は冷たい石の外壁によりかかりながらあゆむを待った。
「果たしてあゆむさんは一緒にくるかな」
「さぁ、選ぶのはあゆむ自身ですよ、大吾」
「そうだな」
「……それにどっちを選んでも騨は受け入れてくれるはずです」
 二人は黙ってあゆむを待った。
 それから半時ほど経った頃、あゆむが店から出てきた。
 手にはハイキングに行くような大きなバスケットを持っている。
「あの、お待たせしました」
「それ、持つよ。……じゃあ、行こうか」
 あゆむからずっしり重いバスケットを受け取った大吾は、待機していた小型飛空挺の元へと案内した。