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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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≪猫耳メイドの機晶姫≫の失われた記憶

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 庭園のガゼボ内のテーブルで、清泉 北都(いずみ・ほくと)ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)と一緒に花の配置について話し合う。
「じゃあ、こんなんでどうかなぁ?」
「そうだな、俺だったら……」
 そこへセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)がやってきた。
「北都、こういうのはどう?」
 セレンフィリティが北都に見せたのは、色鮮やかにレイアウトされた庭園の配置図だった。
 だが、その配置図には何の花を配置するかまでは記述がなく、北都はいくつも思い浮かぶ中からどの花が最適か悩んだ。
「ねぇ、どうかな?」
「え、えっと……」
「セレン、ちょっと落ち着いて。ごめんなさいね。そうね。ここにはクロッカスとかでどうかしら?」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、目を輝かせながら詰め寄るセレンフィリティの肩を掴むと、北都に具体的な提案を始めた。
「ああ、それならよさそうだねぇ」
「うん。悪くない」
 セレアナがセレンフィリティの配置図をもとに花の名前を挙げていく。
 北都とソーマは事前に運んでもらっていた荷物の中に、指定された花がリストアップされているか確認をとった。
「これなら頼んでいた花だけでどうにかなりそうだねぇ」
「ああ、きっとキリエも喜ぶぞ」
 北都とソーマはにこやかに笑いあう。
 二人はセレンフィリティ達と別れて指定された花をガゼボ周辺から植え始めた。
 セレンフィリティがムッとした様子でセレアナを見つめる。
「せっかく頑張ったのに、ひどいよ」
「あら、ごめんなさいね。でも二人ともセレンのイラストを褒めてたわよ」
「そう? そっか……じゃあいっか」
「ええ、でも今度は私もセレンと一緒に考えさせてね」
 セレンフィリティは少しだけ考える素振りを見せた後、セレアナに笑顔を向けた。


「こんな感じで大丈夫でしょうか」
 フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は数名の仲間と共にどこの誰かもわからない墓を全て綺麗にした。 
「ええ、これだけ綺麗にすれば問題ありませんわ。きっと遺族の方も喜んでくださることでしょう。まぁ、いらっしゃるかはわかりませんが……」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は墓の一つ一つに、荷物の中から拝借してきた花を、一輪ずつ添えて行った。 
「何方様のお墓か存じ上げませんが……」
 リリィが全ての墓に花を添え終わると、フレンディスは両手を合わせ、そっと目を閉じた。
 林田 コタロー(はやしだ・こたろう)からこの場所に作られた墓は、研究の実験台として捕えられてきた人達のものだと聞かされていた。
 大切な人達と引き離され、恐怖と絶望の中で命を落としていった名も知らぬ人達。
 フレンディスは想像して、胸が締め付けられるようだった。
「このような場所で長年いらっしゃったのでは満足な眠りにつけなかった事でしょう。でもご安心下さい。皆さんで綺麗に致しましたのでどうぞ安らかにお眠り下さいませ」
 冷たい風に混ざり、優しい花の香りが墓石の表面を撫でていった。