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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●ゆ、ゆっくりできる?

「お互い初対面だから、自己紹介をしようよ」
 そう言ったのは、師王アスカ(しおう・あすか)だ。
「あ、私は師王アスカ。よろしくね」
 それに続いて順繰りと自己紹介をしていって、最後にはにへらっと気の緩んだ笑みを浮かべているゴーストの番になった。
「あー、うん、私の名前なんだっけ?」
 そこでまた絶句。つかみどころの無いゴーストにイニシアチブを奪われっぱなしだった。
「じょ、冗談、冗談だよ! 私はミヤ。深い夜って書いてミヤ。決してシンヤではないんだからね」
 名乗ったゴースト――ミヤ――に、アスカはまるで友達に話しかけるようにして質問を投げかけた。
「ねえ、ミヤさん。ミヤさんは弟君が今していることを止めたくない〜?」
「うーん、そうだねぇ……。あのバカのやってることは確かに正解ではないよねー」
 うんうんと頷きながらミヤは言う。
 わざとらしく正解ではないという辺り頭ごなしに否定しているわけではないようだった。
「私は思うんだー。無責任かもしれないけどね、痛い目に合わないといけないんじゃないかなって」
「自分の身内が悪いことをしていたら、叱るものじゃないかなぁ?」
「どうだろ? 確かにそうなのかなー……。いや、ほらさー、私、生前は自警団で戦うことしかしてなかったからさー」
 またわざとらしくあははーと笑う。
 間の抜けた様子なのももしかしたら死後、徐々に変わっていったものかもしれない。
 でも、何か違うような、そんな気もしていた。
「ねぇ、ミヤさん。この結界を守る義務はさておき、貴方の本当の気持ちを聞きたいなぁ」
「あはは、別に私は結界を守る気はさらさらないよー。すぐ渡すつもりだけど、折角だから話を聞いてみたいんだー。でも、どうしたいかっていうのはもうちょっと考えさせて?」
 両手を合わせてお願いをするミヤにアスカはそれ以上話を続けなかった。


「私もミヤさんの弟さんと同じような境遇だから、わかるの」
 そうポツリともらしたフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)
「キミも、かー。さっきも慌てた様子で来た子もだったなー」
 さっきのやり取りを思い出してミヤは言った。
「さっき?」
「うん、キミたちより早く来て少しお話してたよ」
「そうなんだ……」
 自分と同じような境遇の人がいたことにびっくりして、フレデリカは何を話そうとしていたのか忘れかけたがそれでも思い出して、
「じゃあ、一緒に弟さんのところにいかない?」
 たぶん――と言葉を続けて、
「きっと、ミヤさんの弟さんは、どんなに代わり果てたとしても、貴女のことを待っているんです」
 そう、断言した。それは確固たる自信を持っている。
 勿論そう思う論拠もある。それは怨念が生前書いていた手記と、それ以降に書かれた結界の設計図。その二点には誰も悲しい思いはさせたくないという思いが綴られていたのだ。
「そうですよ、今まではどうしようもない部分はあったかもしれません。でも……」
 フレデリカの言を繋ぐのは、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)
「今は違うって?」
「はい」
 先にルイーザの言おうとしていることを、言い当てられはしたが一つ頷くだけで、話を続ける。
「フリッカの兄は、私の恋人でした。今ではフリッカに何も言えなくなってしまったあの人の代わりに、私がフリッカの姉代わりをしています」
 だから――と悲痛に顔を歪めながら、まるで我がことのようにルイーザは言う。
「折角の機会なんです、あなたの言いたいこと、弟さんに伝えませんか……?」
「今更いいたいことかー……」
「皆さんの話を聞いてからでもいいですから」
「そうだね」
 そう言ってミヤは何か考えるように黙り込む。
 先ほどまでの間の抜けた様子ではなく、真剣だった。眉間に皺をよせ頭の中をぐるぐると回していた。
「ミヤさんの気持ちの整理に時間がかかりそうね」
 フレデリカが少しだけおかしそう笑っていった。
 こうやって話に来ること自体考えていなかったのだろうと、なんとなくだが予想が付いていた。
 アスカもそれが分かっていたから追求はせずに場の流れに任せようと思ったのだろう。