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リアクション
●決断
「ミヤさん、あなたは俺たちが来た意味分かっていますよね?」
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)が言った。
「えっ、分かってるけど!」
「俺はあなたの弟に取り憑かれた女の子は勿論のこと、あなたの弟も助けたいと想っている」
「うん」
短いミヤの相槌。
「人を恨みながら行き続けるのは……悲しすぎる」
視線を地面に落として、ヴィナは小さく呟いた。
「あはは、確かにそうだねー」
「あなたはそんな気の抜けた佇まいでも、弟のことに心を痛めてると俺は思うんだ」
「へぇ?」
「違うかな?」
その問いに、ミヤは少しだけ考える。
多分そうなのではないかと、ヴィナは思っていたのだが違うのだろうか。
「どうなんだろうねー」
「あなたの弟が狂うに値するくらいに優しい人だと、俺は思ってます。もう言い伝えやメモ程度の話しかあなたのことは残っていませんが……」
「ちょ、ちょっと、買いかぶりすぎじゃないかな!」
ミヤが困惑していた。
きっと彼女は当たり前のことを当たり前のようにやっていたのだろう。
だから、面と向かってこういうことを言われると困るのだろう。
「今、俺の大切な友人が、あなたとの大切な時間、彼が幸せだろうと思っていた時を思い起こせるように力を尽くしています」
だから――、と
「あなたの力を貸していただけませんか?」
ヴィナは真っ直ぐにミヤを見て言った。
「時間を稼いでもらってます。もう少し考えてみてください」
「うん、まだ、ダメなんだ」
ミヤはそう言った。
答えを聞いたヴィナは、ふむと一つ頷きまた考え込む。
「あの、お姉さん。俺とも少し、お話しませんか?」
新風燕馬(にいかぜ・えんま)がおもむろに口を開いた。
「あ、いや、俺の話を聞いてもらえますか?」
言い直した。考えがまとまらないから、もしかしたら一方的にこっちが話すだけかもしれないから。
「うん? いいけど、何々。おねーさんに恋バナですかあ?」
「そういうのじゃないですよ!」
わざとらしく振舞うミヤの態度に、幾分か燕馬の緊張も解れた。
「俺には何が正解か、わからないんです」
蒼玉石を壊すということは、ミヤに犠牲になれということじゃないのか。
剣を壊すということも、同じことでミヤの家族を奪うことになるのではないのか。
二人とも同様に死者だが、今、家族として確かにここに存在している。
それを壊していいのかと、燕馬は吐き出すように言った。
「なんだ、そんなこと」
「そんなことって……!」
簡単なまでに言うミヤに、燕馬は狼狽する。
「いい? よく覚えておいて。私は死者で、あの子も死者。そして君たちは生きている。死者は生者からしたら現世に留まる理由は基本的に無い。あの子が生きているときなら、私はあの子を守るために傍にいたかもしれない。むしろそのためだと思って呼ばれた。
でも、ね。私もあの子も今は死んで、現世に縛られてる。これはダメなんだよ。死んだんなら潔く現世から離れるべきなの」
子供に言い含めるように、ミヤ言う。その場にいる誰しもがミヤの言葉を聞いていた。
「うん、ごめんね。引き止めて。結界の破壊をするには、順序必要だったの。もう二つ目の玉石が破壊されたよ。だから後はこの蒼玉石だけ。
これさえ壊せば、結界は壊せるよ」
にへらっと笑って、ミヤは言う。
自身が消えてもいいと簡単にいった。
「……貴女は、まだ、守り手、ですか?」
「うん。戦えない人の味方」
そう言って笑うミヤを見て、燕馬は確信した。
生前からずっとこういう人で、甘いくらいに優しいお姉ちゃんのままなんだろう、と。
「……弟さんを止めます。彼の思いを踏みにじる手伝いを、してくれませんか?」
取り繕った言葉はいらない気がした。正直に、やることを伝える。
これは今この事件にかかわってる皆が一丸となって達成しようとしている目的だ。
嘘はつけないし、つかない。この人につきたくはなかった。
「何も知らない、村の子供たちを守るため、お人よしの少女を救うため、
――何より縛られたあなたたち姉弟の魂を開放するために、その魂、貸してください」
言った。毅然と言い放った。
「うん、いいよ」
ミヤはさっきから何度も浮かべる気の抜けた笑みでもって返す。
最初からこうしてやろうと思っていたように。
きっと戦いになってもわざと負ける算段だったのだろう。
「ま、まって!」
フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が呼び止めた。
言うなら今しかタイミングは無いだろうと思って。
「一緒に行って、あなたの弟さんに会いませんか!」
話の流れ的に、今この場で蒼玉石を壊す流れになりそうだった。
いろんな人の話をきいてフレデリカの話を忘れられそうになっていたのもある。
「あ、そうだった。うん。会おうか。私も決別しないとねー」
また、簡単にミヤは言う。
「結界はこの台座からどかせば、効果を失うし。別に壊す必要ないんだよねー」
あははーと笑って、こともなげに言ったのだった。