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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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取り憑かれしモノを救え―救済の章―

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●決戦1

 絶叫が辺りに響き渡る。
 頭を振って、何もかも忘れようとしている、剣の怨念の姿があった。
「クソ! なんて物を見せるんだっ!!」
 息遣いも荒く、悪態を吐いている。
 目の前にいる、セルマ・アリス(せるま・ありす)は回避行動こそ、簡単にできるとはいえ、徐々に鋭さを増す斬撃にその余裕すらもなくなってきた。
「は、早い……」
 脂汗が背を伝い、睡眠作用をもたらす声を出す余裕すらない。
 しかしそこへ蒼き光が走った。
 キンッと硬質な音が響くと、セルマとミルファの間にそれは挟まり地へ落ちる。
「行人、いけるね?」
「うん!」
 物陰からようやっと戦場へとついた、永井託(ながい・たく)那由他行人(なゆた・ゆきと)が現れる。増援だった。
「何だよお前は……」
 目の前に躍り出る行人をギロリとにらむ。セルマはその隙にミルファから距離を取った。
「俺は……」
 少しの躊躇。しかし、行人は[ブレイブ・ハート]をしっかりと目の前に構え、
「俺の名前はブレイブセイバー! 俺はミルファを助けて見せる!」
「……助ける、ねぇ」
 半眼でミルファは行人をにらみつけた。そこには少なからず怒りが芽生えている。
「ああ、そうだ! だから力を貸してくれ、ブレイブハート!」
 行人の持つ剣が、真紅に彩られる。それは今の行人の思い。真っ赤に燃える助けたいという気持ちの表れだった。
「真っ直ぐ打ち合っちゃダメだ!」
 セルマが行人に助言をする。
 それでも、やあと声を上げ行人はミルファへと真っ直ぐ突っ込む。今はまだ、それしかできないから。
「大丈夫。そのために、僕がいるんだからねぇ」
 託は行人をサポートするように、先ほど地に落ちた[流星・影]に意思を込める。【サイコキネシス】の力によって持ち上げられるチャクラムは、行人の攻撃が少しでも当たるようにと、ミルファの気を散らすように動く。
「すまない、暫くミルファさんを引き付けてもらってもいいかな?」
 相田なぶら(あいだ・なぶら)が物陰から顔を覗かせて、後方にいるセルマと託に言った。
「今ならあの剣を腕ごと叩ききれると思うんだ……」
 がたがたと軋んでいる結界の音を指し、なぶらは言う。
「……もしそれで、行人が君を攻撃することになったら、僕は行人の側につくよ。それでもいいなら」
「俺はその話に賛同はできない、けど……全てが終わった後ちゃんと五体満足で彼女が戻ってくるなら、やってみる価値はあると、思う」
 託とセルマ。二者二様の答えがなぶらへと返る。
 その答えに、なぶらはふっと気を緩めて、
「うん、そのときはそのときで考える。だから今は彼女の暴走を止めよう」
 言って、なぶらは自身の魔法への耐性を高める技法を用いる。
「焼け石に水程度かもしれないけど……」
 セルマがなぶらに【幻獣の加護】を授ける。
「俺も行こう。気を引く役目は多い方がいい」
「僕はこのまま、後ろから援護で、いいかな」
 前方で必死に戦っている行人。少し託が気を此方に寄せていたおかげで、完全に押されている。
「ありがとう。それじゃあ頼むよ!」
 言って、二人が駆け出す。
 自身の装備する武器を振るい、ミルファの動きを阻害しようとする。
 しかし、戦況を瞬時に不利と判断したミルファは左右に跳ねながら後ろへ下がる。
「――ノインスフィア」
 一節の詠唱。しかし何も起こらない。
「ちっ、翠玉石も破壊されていたのか……!」
 ほとんど詠唱を必要としない術式のからくりは、結界にあるということが今露呈した。
ツヴァイスフィア
 ならばと、一節の詠唱で掌大の火炎弾を二つ生成すると、なぶらとセルマに向かって打ち出した。
 それを、なぶらが前に出ることで全て受けた。着弾と同時に煙が上がるが、なぶらの傷は浅い。
 ことここに至って、自分たちが確実に優勢だということに気づいた。
 セルマが斧による一撃を見舞う。それは空を斬り、地へと落ちるが、その後ろから行人の上空からの打ち下ろす斬撃は剣で受けるしかなかった。
 刃が欠ける。行人の太刀筋が白銀の剣に二つ目の傷をつける。
「こんの――!」
 怒りに任せて振るおうとする攻撃に対して、死角から回り込んだなぶらが適当な狙いをつけて、[守護宝剣スターライトブリンガー]を振り下ろした。
 セルマが行人の前に立ち、視界からそれを隠す。
 鮮血が舞った。
 からんとも、ごとりとも、言う音が響いた。

 ――そして、謀ったかのようにがらがらと音を立てて結界が壊れていく。

 それは、ミルファの超回復がなくなったことを示す音だった。
「あ……ああああぁぁぁああああ!!!」
 初めてミルファが痛みに声を上げた。
「終わりだよ。君の負けだ」
 なぶらが言った。
「ま、まだだ!」
 飛来する託のチャクラムを掴み取り、闇雲に振るう。ぼたぼたと血が舞い衣服を更に朱に染める。
 まだ戦いを諦めていなかった。
 託にそのチャクラムを投擲し、落ちた腕を掴んで逃走を謀った。
 一瞬の出来事に虚を突かれ、逃がすことを許してしまった。
 青い顔で、セルマは言う。
「なんて闘争心なんだ……」
 腕を落とされたくらいで、戦いをやめるような人ではなかったことに驚いていた。
「剣を折るべきだったかな……」
 なぶらも選択肢を間違ったように呟いた。