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リアクション
●戦いの前に、覚悟を決めて
「全く……、急な召喚に応じてきてみれば」
嘆息して、リモン・ミュラー(りもん・みゅらー)は惨状を見た。
戦場からはほど遠く、目の前にいるのは、重症を負っている佐野和輝(さの・かずき)と気を失っているアニス・パラス(あにす・ぱらす)。
そしてその二人を支えて連れて来ていたスノー・クライム(すのー・くらいむ)がいた。
「すまない。治療を頼みたいんだ」
「それは構わないが。治療をしてどうするのだ?」
「元凶のところへ行くよ」
こともなげに和輝はそう言った。
普段ならばそこでストップをかけるスノーは今回口を閉ざしている。
「医者として一応言わせて貰うが。今の君は下手をすると命を落とす可能性もあるほどの重症なのだよ」
「分かっている。でも、行かせてくれないか?」
意思は変わらない。ボロボロで、立っているのもやっとなのに、それでも眼光がぎらついている。
自分はまだやれると、そう言っていた。
きっとスノーが何も言わないのは、何度も諭そうと試みたのだろう。
「分かった。スノー、和輝をそこの木陰に」
「……分かったわ」
まずはアニスを寝かせ、次に和輝を木陰に寄りかからせる。
そして、簡単な治療。止血と傷口の消毒。そして、綺麗な布で傷口を覆う。
そんな中でリモンに現状を簡単に説明する。
「リモン、アニスを頼むよ」
和輝は痛みに顔を顰めながらも立ち上がってそう言った。
「やっぱり、無茶よ! リモンの治療を受けたとは言え、和輝は動ける体じゃないのよ!」
よろめく和輝を支えながらスノーは改めて和輝に制止をかけた。
「ああ、和輝。その元凶とやらは生かして私の元につれてきてくれよ」
「リモン!」
スノーの非難の声に、リモンは涼やかな表情で言う。
「スノー、男というものは一度心に決めたことを簡単には反故にできないんだ。好きなようにやらせるべきだよ」
そういう馬鹿な生き物なのだよ――と、嘆息して言った。
「でも……!」
「スノー、俺は大丈夫だから」
優しく言う、和輝にスノーはそれ以上何も言わなかった。いや、言えなかった。
決意に混じる優しさと、これから起こりうるであろう熾烈な戦いを覚悟していたのだ。
「……わかったわ」
あきらめたようにスノーは言って、
「私のバカ……」
誰にも聞こえないとても小さな声で続けた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「アニスは任せなさい」
リモンがそういうと、和輝はスノーの肩を借り、再度、森の中へと入っていった。
†――†
戦場跡で気を失っていた結城奈津(ゆうき・なつ)は意識を取り戻した。
「あれ……あたし……」
そうだ、と瞬時に何が起こったのか思い出す。
負けた。しかも手加減までされて、コテンパンにやられてしまった。
魔法は卑怯だとか言うつもりはない。それが戦いであるからだ。
立ち上がり、辺りを見回す。
「もう動けるようになったか」
「まだ休んでないとダメだよ!」
ミスターバロン(みすたー・ばろん)と秦野萌黄(はだの・もえぎ)が口々に言う。
「先の戦闘で十分分かっただろう」
バロンは淡々と、奈津に現状を認識させるために言葉を紡ぐ。
「どんなに強がっても、貴様はまだヒヨっ子であり、そして女であり子供だ。現時点での100%を出した所でたかがしれている」
残酷なまでに淡々と。それでいて奈津のためにとバロンは突きつけた。
そうだ。それは十分に理解した。
「うん。それは、わかったつもり」
どれだけ頑張っても力の差はあって、今はそれを埋められないほどあるということも。
「しかし、だな」
ニヤリとニヒルな笑みを浮かべて、バロンは続ける。
「その100%でできることもあることを覚えておけ」
「……ど、どういうこと?」
「ククッ、それはその無い頭を捻って考えろ。戦場までは距離がある。行くのだろう?」
「勿論だ!」
おかしそうに小さく笑うバロンに、奈津は高らかに宣言した。
「では行こうか。何、分の悪い戦いだ。何も“一人”では戦わせんさ」
「……じゃあ、道すがら僕が回ってきた連絡を伝えるね」
前を歩き始めるバロンの後ろに萌黄が付く。萌黄は今の奈津の言葉を聞いて止めても無駄だと悟ったようだった。
奈津は遅れて歩き出す。そして調査隊が調べたことの全てを聞いたのだった。
†――†
「にーちゃん、ごめん」
道すがら、那由他行人(なゆた・ゆきと)がしょんぼりと肩を落としながら、永井託(ながい・たく)に謝っていた。
「気にしなくてもいいよ。気にするくらいなら、ちゃんと僕の出した宿題の答え、考えてね」
何の為に強くなるのか。それが行人に出した託の宿題だった。
調子が戻ってからうんうんと唸っている行人を見ているのは微笑ましかったが、今はそういうわけにも行かなくなっていた。だから同じようなやり取りを続けるのはここまでにする。
託の元にも連絡が来た。そしてこの現状を知りうることとなった。
その話を行人にもしたところ、
『助けたい!』
そんな簡単な答えも返って来ていた。
でも、それ以上に、
(僕は、あの剣の結末を否定しないと)
託はそう思っていた。
大切な人を亡くして、壊れて。きっとあの剣に宿った怨念は、思想を修正してくれる仲間もいなかったのだと。
たらればの話になるけれども、支えてくれる人がいなかったら自分も同じ末路を辿っていたのかと思うとぞっとした。
「行人、あの子を助けようか」
「うん!」
頷く行人に託は微笑みかける。
行人はただ真っ直ぐに、ミルファのことを助けたくて、託は自身があり得た未来を否定する為に戦場へと向かう。
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