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ゾンビ トゥ ダスト

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ゾンビ トゥ ダスト

リアクション

 荒れ果てた大地にたどり着いた一向。何もない土地に物寂しい風が駆け抜ける。
 不意に、無線機から聞こえる声がその静寂を打ち破る。
『諸君、ご苦労だったな。しかし、戦いはこれからだ』
 無線機から聞こえる声は山葉 涼司(やまは・りょうじ)のものだ。現地にはいけないため無線で参加していた。
『では、今回の作戦の目的をもう一度だけ確認するぞ。今回は襲いくるゾンビから、二つの像を守ることが最優先事項となる』
 山葉の声に皆、耳を傾ける。
『事前に決めている、ディフェンス、オフェンス、そして特殊部隊。三部隊がうまく連携しなければ防衛はほぼ不可能だ』
 特殊部隊の皆はすでに特殊兵器の製作・改造に着工している。
『事前報告ではゾンビの数は増えていくばかりで、倒しきるのは難しいだろう。だからこそ、守り抜いてくれ。二つの像の思いと共に!』
 山葉の激励が荒野に響く。その激励は皆の心を振るわせたことだろう。
『では各自、行動を開始してくれ! 健闘を祈る!』
 山葉からの無線が切れ、それを機に皆行動を開始する。
 特殊部隊がゾンビに有用な罠を作り、それをオフェンダーとディフェンダーで設置していく。
 オフェンダーとディフェンダーは罠を設置しながら、自分の戦いやすい場所を探す。
 この一連の動きを三十分ほど続けたころ、防衛隊の耳に嫌なうめき声が聞こえてくる。
 さらに風に乗って臭ってくる腐臭、目を覆いたくなる外見。

「ウグオオ、アアアアアア、アアア……」

 ゾンビだ。
 その数、数十を超えていて、一心不乱に二つの像に向かい歩いてくる。
 こうして、長い長い戦いが始まった。

「あら、私が最初かしら?」
 余裕を持ってそう言うのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。オフェンダーとして最前線に罠の設置などを行っていた。
 そこへゾンビが襲来したため、一番最初にゾンビと戦うことになってしまったのだ。
「でも残念ね、こっちの準備はとっくに……」
 そう言いながら自身の剣に炎を纏わせて、ゾンビの群れに突貫、斬り込む祥子。
 さらにゾンビ群れの真ん中まできて、【アナイアレーション】を発動。
「できてるのよ!」
 その言葉と共にゾンビを斬り倒していく。断末魔を上げ、倒れていくゾンビ。たった数秒のうちでその場に立つのは祥子だけだった。
「これで完全決着、だったら楽なのだけれどね」
 祥子が顔を上げた先にはまた別のゾンビが見えていた。その数は先ほどよりも増えている。
「とりあえず、やることはやっておきましょうか。ニャンルー!」
 そう呼ばれたニャンルーが予めまいておいた油に火をつける。瞬く間に火が立ち上り、炎の壁となりゾンビたちの進路を狭めていった。
「ごめんなさいね。少しでも時間を稼がないといけないもので、しばらくは私と炎のステージでダンスでも踊ってくれないかしら?」
 炎の壁の真ん中で、炎を纏わせた剣を片手に立つ祥子。その姿にすら怯むことなく、ただ前へ前へと進むゾンビたち。
「これから長い間顔を見合わせるのだから、そんなに焦ることはないのに」
 祥子の言葉で止まることはなく、一体のゾンビが祥子に襲い掛かる。
 が次の瞬間、ゾンビは炎に包まれていた。祥子の反撃に為すすべなくやられ、荒れた大地にひれ伏したのだった。
「さて、どうしたものかしらね。……あなたちにも同情はするけど、ここは通せないわ。せめて炎に焼かれて成仏して」
 祥子の声がゾンビたちに届くことはい。祥子はまだまだ炎のステージで舞うのだった。

「おーおー、派手にやってるねえ。愉快愉快っ」
 楽しそうに笑っているのは東條 カガチ(とうじょう・かがち)。彼もまた前衛としてこの作戦に参加していた。
「お祭りみたいですね!」
「そうだねえ、ある意味お祭りみたいなもんかもねえ」
 カガチの隣にいたのは柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)だ。しかし、会話をする二人の前にもゾンビたちが現れる。
「おうおう、ようやくお出ましかね。待ちくたびれたぜ?」
「すごい仮装ですね! なぎさんびっくりです!」
 楽しそうにする二人とは打って変わり、殺気を纏わせたゾンビたちが一斉に襲い掛かる。しかし、カガチは何もしない。何故なら、
「カガチをいじめないでー!」
 カガチの代わりになぎこが光条兵器、宵凪でゾンビを倒したからだ。三体のゾンビは一瞬で塵になり、土へと還った。
「へぇ、お前ら塵になるのかい。面白い体の構造してんなあ。あ、なぎさん、あんがとさん」
「どういたしましてー!」
「しっかし、何もしないのもつまらんしなあ。俺も遊ばせてもらうぜい?」
 カガチの手が鈍く光る。次の瞬間にカガチが動き、ゾンビを一閃。断末魔をあげることもできず、ゾンビはそのまま塵へと。
 その光景はまるで一つの芸術のようだった。
「反応もできないだろうねえ。何せほら、俺はあれだ。食材とお前らみたいなアンデット以外は斬らねえことになってる専門家だから、さ」
 口の端を上げて笑いながらそう言うカガチ。
「さてと、椎名くーん。武器のほうはどうなったかねえ?」
「丁度今できた! 使ってくれ! 俺は一旦下がるからな、死ぬなよ!」
「へえへえ、ならここは俺となぎさんとゾンビしかいないわけだ。それがどういうことか、わかるかあ?」
 カガチにゾンビの群れが殺到する。だが、改造された武器を受け取ったカガチの前には数など取るに足らないものだった。
「そりゃあな、俺が好き勝手暴れまわれるってことだよ。対アンデッド全自動殲滅機の前に立ったんだから、覚悟はできてるんだろう?」
「なぎさんもみんなが眠れるようにがんばります!」
 相手が人間であれば恐れをなして逃げていくのだろうが、残念ながらゾンビたちには恐怖を理解する心はなく、飽きもせずカガチたちに殺到する。
「椎名君に改造してもらった武器も調子いいし、あとは飛んでくる流れ弾にさえ当たらなきゃ万々歳だなあ」
「大丈夫、カガチにあたりそうな流れ弾はなぎさんが叩き落します!」
「そいつは僥倖だねえ。なら、何の不満なく暴れられるって、ことかねえ?」
 カガチの瞳が不敵に笑う。その瞳に映るゾンビには、まるで塵になることが確約されたようだった。
「まあ、それはそうと。そこ、危ないよ」
 カガチの言葉通り、ゾンビが落とし穴に落ちる。中で聖水入り風船が弾けてゾンビにかかる仕組みだ。抵抗することもなく、ゾンビはそのまま消えていく。
「ゾンビにとっちゃえげつないねえ。まあ、まだまだあるから適当に置いて使っていこうか、じゃあ半分はなぎさんどうぞ」
「なぎさん! がんばります!」
 流れてくる銃弾を交わしながら器用に戦いつつ、落とし穴を設置していく二人だった。

「序盤からこうも数が多いとは、これは予想していたよりも厳しい戦いとなりそうですね」
 そう言うのは御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。その傍らにはセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)もいる。
「気持ち悪い、なんていって入られないわね」
「そのようですね。こちらも、バテないように戦うことを考えなければあっという間に押し込まれてしまいます。気をつけましょう」
「の割には、あっちのほうは派手にやってるみたいだけど」
「あの人たちは、よほどスタミナがあるのでしょう。仮に、動きが鈍くなるのであれば俺たちがバックアップしなければ」
「それもそうね」
 既に二人の周りにもゾンビがわんさかと見える。数体は目と鼻の先まで来ている。
「温存、とはいいますが何もしないわけにもいかないですしね。あなたたちゾンビに罪はありませんが、全力でいかせてもらいますよ!」
「私たち二人の連携、とくと味あわせてあげるわ!」
 その台詞を機に、セルファが前へ躍り出る。その後ろでは真人が呪文詠唱を開始。セルファのすばやい動きに翻弄されるゾンビたち。
 攻撃をかわしながらも、隙あらば攻撃をするセルファの立ち回りは理想的だ。何よりも理想的なのは彼女が一人ではなく、強力な後方支援が期待できるということ。
「セルファ!」
「わかってる!」
 真人の言葉も待たず、後ろに飛ぶセルファ。それを見た真人が派手に魔法をぶちまける。
「せめて安らかに眠ってください! サンダーブラスト!」
 真人が放った【サンダーブラスト】が複数のゾンビたちを一気に貫いていく。この範囲魔法のためにセルファもゾンビたちを一箇所に誘導していたのだ。
 【禁じられた言葉】の使用でよりいっそうの雷となりゾンビたちを焼き焦がしていった。
「いい感じね」
「いい気分ではないですが、仕方ないですね。このペースで行きましょう」
「了解……サンダーバードまで追い込まれなければいいけど」
「そうですね。ですがいざとなれば迷わず使いますので、巻き込まれないようセルファも気をつけてください」
「そんなお間抜けなことしないわよ。でもまあ、バックアップ、任せたわよ」
「勿論です。セルファの後ろは必ず守ります」
「っ!? い、いくわよ!」
 途端に走り出したセルファ。真人もそれに続いて魔法の詠唱を開始。迫りくるゾンビたちの数も目に見えて増してきている。
「例え俺たちが抜かれたとしても、後ろにはディフェンダーの人がいる。それを信じて戦うまでです。さあ、行きますよ!」
 遠くのほうで戦うセルファの顔が少しだけ赤い理由だけがわからないまま、真人は魔法詠唱を続けるのだった。