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夢見月のアクアマリン

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夢見月のアクアマリン

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〜真実4〜


「…………え? 真人、今なんて言ったの?」
「……アクアマリンを壊せばジゼル自身が死んでしまう」
 和輝は動きを止めて居るジゼルの隣へ行くと、懐から地下室で見つけた手記を取り出した。
「これは?」
『ほう……それは随分と懐かしいものですね』
『少年、ジゼルに教えておあげなさい。
 あなた達が見つけた真実を』
 三賢者の声に、真人は苦虫を噛み潰したような表情でゆっくりと話しだす。
「彼等はは、セイレーンなんかじゃない。
 ”ただの人間”だったんですよ」
「……どういう……事なの……」
「ヴァイスが読んでいた日記に全部書かれていたんだ」
 和輝が続ける。
「かつてそいつら三人はある石の存在を発見した。
 性質的に機晶石に似ているが、更に強大な力を持つ青い石。
 そいつらはそれをアクアマリンと名付けて、人々からその存在を隠し、自分達だけがその恩恵を受ける事を考えた。
 そしてアクアマリンと共にこの海の中の城に隠れ住む事にした」
「それでも気付く人達がいたのね、だからその人達にアクアマリンを奪われない様に――」
「アクアマリンの力で作った生き物で軍隊を作る事にした。
 それが……」
「それが私……?」
 言い淀む和輝にジゼルが不安そうに尋ねると、真人が苦しげな表情で頷く。
「そう、セイレーンです。
 エッツェルの読んでいた手記ではアクアマリンによって生み出された機晶姫に近く、より生き物に近い存在だと。
 アクアマリンの力を強く受けたものは瞳が藍緑色に輝く成功体、それ以外は短命だった。
 それでもセイレーン達はアクアマリンの力で魔力を増幅させ、その歌で人々を惑わせ船を転覆させてこの城を護り続けたのだそうです」
「私達が……作られた存在……」
「けれどそれも長くは続かなかった。
 浅ましい事にそいつ等はお互いに力を奪いあうようになり、それはセイレーン達を使った内戦になった。
 その戦いでセイレーンの殆どは死に絶え……そしてここからは俺の推測だが、
 そいつら自身も致命傷を負って……」
『アクアマリンの中に精神を宿した』
『その通りですよ少年』
「だからアクアマリンの力で生きているジゼルがアクアマリンを失えば……」
『そう、ですからジゼル。あなたに我々三賢者を殺す事は出来ない』
 三賢者はアクアマリンの中から笑い声を上げている。
 だが、どうする事も出来ない。 
 真人は呆然とするジゼルにかける言葉も無く、
 和輝は拳を握り締め、フレンディスとカルキノスは虚ろな瞳のパートナーを前に成す術無く立ち尽くしていた。
「私は……どうしたら……」
 ふらふらと歩くジゼルの足に、何かがぶつかった。
 貝殻で飾られた小さな箱。
 開いてみると音楽が流れてきた。
「これ……オルゴール……」
「……ルカが持ってきたんだ。ジゼルに聞かせたいって」
 カルキノスは意思を失っていくパートナーの姿を見ながら呟くように言った。
「さっきルカが言っていた。
 ……ジゼルは一人じゃないと」
 ダリルが言う言葉に、カルキノスはジゼルの目を見て続けた。
「あいつは信じてたんだ……」



「歌……?」
 耳に響く歌声に、フレンディスは驚いて振り返る。
 ジゼルが歌を歌っていた。
「ジゼル!!」
『なにをするのです!』
『アクアマリンが無くなればお前の命もないのだぞ!!』
「ジゼル、いけません!!」
 真人はジゼルを止めようと彼女の前に立つが、彼の目に入ったジゼルの顔を驚くほどに穏やかな表情だった。
 
 ビキッ

 鈍い音にアニスがアクアマリンを見ると、ジゼルの歌でアクアマリンに亀裂が入って行くのが見える。
『ジゼルやめなさい!』
『私達が悪かった。
 そうだ、お前の家族も新しくやろう!
 その者たちの肉体が手に入れば思いのままなのだからな!』
『そうしたら世界を手に入れましょう!
 ……ジゼル? やめるのです! ジゼル!!!!!』
「もうやめてジゼル、死んじゃうよぉ」
 アニスは泣きながらジゼルの肩を掴むが、そっとその手が取られて握りしめられる。
 ジゼルはアニスに笑顔を向けて居た。
「……ジゼルさん……」
 フレンディスは懐から刀を抜き、静かにアクアマリンに近づくと、目の前に広がって行く亀裂に向かって刃を突き立てた。
 

 青い石が、粉々に砕けて行く。

 魔力を失った城は崩れて行く。



 和輝の作動させた転送装置は作動し、契約者達は崩れ落ちる城から脱出した。