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リアクション
■ゆりかごの守護者
――ザンスカールから南西に。ヴァイシャリーからはまっすぐ西にある遺跡、機晶姫のゆりかご。目立つ位置にあるためか盗掘被害が多い遺跡でもあり、現在では枯渇遺跡という烙印を押されている始末である。
そんな遺跡にやってきたのは、未知の領域とされている深層部にあるという中枢パーツを回収、および深層部の調査をするべく結成された遺跡探索班。まずは浅層部を調査し、情報を少しでも集めようと動いているところであった。 というのも先ほど、ミリアリアの小屋で作業をしているルカルカやダリルたちから連絡が二度ほど入り、遺跡にぐるぐる太陽のマークがないかという質問と、冒険者が機晶姫入りの箱を手に入れたという隠し部屋の存在が知らせられたこともあり、その辺りの調査を先に行おうとということになったのだ。
「……どれもこれも、風化しすぎちゃってて読めないわ」
「みたいだな……」
遺跡の崩落によってできたという隠し部屋。件の機晶姫が保管されていたとされるその部屋を調査していた樹月 刀真(きづき・とうま)と漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の二人だったが、あまり収穫はよくなさそうだ。
この部屋に保管されていたと思われる資料などの類は、よほど古い物でなおかつ手入れされていなかったからか、全て風化しており読むこともほとんどできない状態だった。しかし、逆を言えば本来この遺跡はそれほどまでに古い遺跡であることを如実に示している。
「ねぇ刀真。ゼクスが元気なかったように見えたんだけど……大丈夫かな」
ゼクス、というのは刀真のパートナーの一人であるラグナ ゼクス(らぐな・ぜくす)のことである。ゼクスは刀真たちとは別行動で、同行しているヴィゼルの護衛をしているためこの場にはいなかったが、表情から見て取れるほど元気がなさそうだった。月夜はそれに気づいてか、心配しているようだ。
「――ゼクスなりに色々考えているんだろうな。俺らにも何かできることがあればいいんだろうけど……」
刀真はそう答える。ゼクスの葛藤内容は思い当たるものの、こればかりは他人からの口出しでどうにかなる問題ではないようだ。
(姉さんたち……それに母さん……)
ゼクスは、思い出していた。暴走したからとはいえ、自身の手で殺めてしまった二人の姉と母のことを。機晶姫であるが故、姉二人は同じ機晶姫で母は開発者であるが……。
動かない機晶姫を見て、そのことを思い出すと同時に……箱の中の機晶姫は助け出してあげたい、目覚めさせてあげたいという気持ちが湧いていた。
贖罪、なのかもしれない。そうではないのかもしれない。今のゼクスには、まだその答えを見つけられずにいる……。
一方、そのゼクスを含めた一部の探索班は、謎の刻印のことを調べていた。
ぐるぐる太陽のような刻印を改めて調べてみると、遺跡の至る所に掘られていることが判明した。あの機晶姫とこの遺跡の関連性はますます強まるばかりである。
「ふむ……なかなかに興味深いなこの遺跡は。これは深層部も楽しみだ」
「しかし、資産家であるあなたが危険を冒してでも同行してくるなんて、珍しいですよ。何か理由でもあるんですか?」
興味津々に謎の刻印を確認しているヴィゼルへ、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が問いかけをする。
「いやいや、この歳になってもこういった考古学の話を聞くと体が疼いてしまってね。家の手伝いたちにも止められたが、やはり情熱は抑えきれなくてな……はっはっは」
照れ隠しのつもりだろうか、大きく笑いを返す。そのようすはまるで、趣味に情熱を注ぐ子供のようでもあった。
「枯渇遺跡とはいえ、危険なのには変わりありませんから気を付けてくださいね」
「なぁに、先ほどの……刀真、と言ったか。その若造からこいつを渡されているから安心だよ。それに、お主たちのような契約者たちが護衛ならばなお心強い」
そう言うと、ヴィゼルは事前に刀真から渡されたらしい『禁猟区』がかけられた銀の飾り鎖を見せた。確かにこれがあれば、危険をすぐに察知できる。
「ありがたきお言葉。私の命に賭けても、お守りします」
ヴィゼルの後方を守る彩里 秘色(あやさと・ひそく)も、ヴィゼルの言葉で護衛するための気合を入れ直す。
「お聞きしたいんですけどぉ、ヴィゼルさんってなんでミリアリアさんの援助をしてるんですかぁ? 無償の好意とかぁ……メリットがあるとか?」
続いて、師王 アスカ(しおう・あすか)がヴィゼルに質問する。その質問にも、ヴィゼルは気が良さそうに答えていく。
「うむ、あの防御結界は実に素晴らしい。わしがミリアリアに投資を始めたのは数年前からだが、投資のおかげで研究がはかどっているようでな。……わしの見立てでは、シャンバラにおいて大きなメリットを生むのは確実だろうな」
だから援助をしているのだ、と締める。ヴィゼルはメリットがあるからこそ援助をおこなっているようである。
「なるほどぉ〜、ミリアリアさんはすごい人なんですね〜」
「うむ、しかも機晶技術にも多少とはいえ心得があるとは思わなかったな。ミリアリアから機晶姫のことを聞いた時は本当、驚いた!」
剛毅な笑いをするヴィゼルへ、今度はメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が声をかけた。
「ヴィゼル氏、その機晶姫をどう見立てます? どうも聞いた話では普通の機晶姫とは違うようですが」
「そうだな……戦闘用に造られたわけでないのなら、なにか大きな目的でもあって造られたのだろう。その目的はよくわからぬが、この遺跡に何か秘密があるのには違いあるまい」
「ふむ……でしょうね。特殊兵装を運用するためのタイプかもしれないですし、この遺跡を調べることで何か得られるといいのですが。それにしても、この遺跡は素晴らしいと――」
「ほお、お主もそう思うか! この古さからして――」
よほど話が合うのか、メシエとヴィゼルは遺跡談義に華を咲かせ始めた。しばらくは続きそうだな、とヴィゼルの護衛をする契約者たちは思っていたとかなんとか。
「周囲警戒――排除対象、皆無。マスター、周囲は問題ありません」
その中で、ハーモ二クス・グランド(はーもにくす・ぐらんど)は無言のままであるゼクスと共にヴィゼルをしっかりと護衛していた。
……浅層部をあらかた調べきった探索班であったが、やはりめぼしい物は見つからなかった。構造から見ると、どうやら浅層部にもいくつか機晶姫の保管部屋があるものの、すべて盗掘されてしまった感じであるようだ。あの箱の中の機晶姫が隠し部屋に残っていたのは、本当にラッキーだったのかもしれない。
さて、そうなると……残るのは深層部。しかし、そこへ到達するためには深層部の入り口を守護する巨大なゴーレムを何とかしなくてはいけない。そのため、探索班は深層部の出入り口がある大広間へやってきていた。
「深層部があるにも関わらず、この遺跡が枯渇遺跡とされる理由。それがあのゴーレムらしいな」
ゴーレムの足元には、あれに挑んだであろう盗掘者たちの骨がごろごろ転がっている。攻撃されない範囲から、ヴィゼルがゴーレムとそれを眺めつつそう口にする。これから危険な戦闘になるのだろう、アスカがヴィゼルを後ろに下げさせると……いつでも戦闘に入れるよう準備している。
……だが、少し離れた所ではある別な準備が進んでいた。斎賀 昌毅(さいが・まさき)と阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)の二人である。
「ふっふっふ……みんなには悪いけど、出し抜かせてもらうのだよ」
「こっちはいつでも準備OKだ。……抜かるなよ」
どうやら、那由他が『隠れ身』を使って姿を隠し、他の人たちがゴーレムに攻撃を仕掛けて気を向かせている隙を狙って先に深層部にいこうという算段らしい。
準備が整ったのか、那由他が昌毅に合図を送る。さっそく昌毅はゴーレムをこちらへ釘付けにしようと『弾幕援護』を放とうとした、その時――!
「いこう、羽純くんっ!」
――戦場を包む、サザンクロス☆スターによる光の洗礼。突然の光にゴーレムは敵対者の認識が遅れてしまう。その隙をついて、遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)が先行していってしまう。すぐに昌毅も『弾幕援護』を放ち、ゴーレムを横切ろうとする那由他のサポートをしていく。
三人が先行していってしまうと……すぐにゴーレムは敵対者全員を認識。『弾幕援護』をおこなった昌毅に視線をロックオンさせると……。
ビュゴォォォッ!!
「うおっ!?」
ゴーレムの目から放たれる、極太のビーム。敵対者認識のラグがあったおかげか、昌毅は横っ飛びすることで何とか回避できたが……少しでも遅れていれば、ビームによって黒焦げにされていただろう。
これでもう、戦闘は回避できそうにない。――残された契約者たちは、それぞれの武器を手に握ると、ゴーレムと対峙するのであった……!
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