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リアクション
■哨戒と採集のひと時
時は戻り、遺跡探索班が浅層部を調査している時間帯。森の中を哨戒しているメンバーに混じり、防御結界用の材料を集める契約者たちの姿がちらほらと見受けられた。
「ルナ、これでいいのか?」
「ばっちりですぅ〜。そこの草は柔軟性が抜群だから、罠に最適なんですよぉ〜」
罠を仕掛けておけば何かしらこちらの有利になるだろうという考えから、和輝はルナと共に『トラッパー』で自然物による罠を作成していた。これにかかった時、相手に気付かれずに襲撃を知らせるタイプのものだ。
他の場所でも葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)がアルクラントが掘る分も含めた落とし穴を掘っていたり、ワイヤートラップなどを仕掛けているようだ。これらの罠がかかるかどうかは、神のみぞ知る。
「それじゃ、俺はリオンたちの所に戻る。早く戻ってやらないと、そろそろアニスも人の多さで隠れちゃってるだろうしなぁ」
「じゃあルナは賢狼さんと一緒に動物さんから話を聞いてきますよぉ〜」
罠を仕掛け終えた和輝は小屋に戻って機晶姫の護衛を、ルナは森の動物たちから話を聞くために賢狼の頭の上に乗って森の中を哨戒しにいった。
ちなみにアニスは現在、ミリアリアの近くにある棚の陰に身を潜めながら、『式神の術』で式神化させたキュゥべえのぬいぐるみを周辺警戒に当たらせているようだ。後の話になるが、和輝が戻ってきたらすぐに和輝の陰に隠れたとかなんとか。
哨戒や護衛をおこなっている契約者たちの多くが『殺気看破』などを使って周囲を警戒しているため、もし襲撃者がいるのならばすぐに気づくだろう。逆を言えば、これに引っかからない限りは襲撃の恐れはないわけである。
鉄仮面の騎士が襲ってこない今の内に、哨戒をやっている人の一部はミリアリアから依頼されている防御用結界の材料集めをおこなっていた。
「ふむ、敵の罠はなさそうだ。あるのはこちら側で仕掛けたものばかりだな」
眼鏡をくいっとかけ直しながら『イナンナの加護』で周囲警戒をしつつ、イルミンスール魔法学校から大量の魔法石を小型飛空艇に積んで移動中のモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)。『トラッパー』で敵が張った罠がないかどうかを確認しているが、どうやら敵が張った罠はないようだ。
そして、合流地点では多くのキノコや木材を麻袋に詰め、宮殿用飛行翼で森の中を移動していた清泉 北都(いずみ・ほくと)が先に待っていた。二人は合流すると、すぐに情報交換を行う。
「主、そちらはどうだった?」
「『禁猟区』や『超感覚』を使って警戒しながら採集してたけど、今はまだこれといったことは起こってないねぇ」
北都のほうでも敵の気配は察知できていないようだ。モーベットのほうも敵の罠が仕掛けられていないことを伝えると、集めた材料を納めにいくべくミリアリアの小屋を目指す。
途中、小屋の近くで『防衛計画』を立てて襲撃者への対策を施している佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と熊谷 直実(くまがや・なおざね)とすれ違いながら、小屋へと向かっていった。
「うーん、こっちが死角かねぇ。おっさん、どう思う?」
「そうだな。その死角をカバーするようにして、哨戒のほうをよろしくお願いする」
「了解だ。……シグ、行こうか」
「はい、わかりました」
『パスファインダー』で森の地形を周知済みである直実のアドバイスを元に立てた『防衛計画』。それによって明らかになった死角部分をカバーするべく、付近を哨戒していた銀星 七緒(ぎんせい・ななお)とシグルーン・メタファム(しぐるーん・めたふぁむ)の二人に死角部分の哨戒をしてもらうようお願いすると、了承してもらえたようだ。七緒はオカリナを吹きながら『殺気看破』で周囲警戒しつつ、シグルーンと共に指示された場所の哨戒をしにいった。
「――にしても、鉄仮面とは面妖な」
二人を見送った後、直実はそう呟き弥十郎のほうを見る。
「そうだねぇ。よほど危険な相手みたいだし、複数人で哨戒を行う提案が通ってよかったよ。……って、おっさんどうしたの? ワタシの顔に何かついてる?」
「……いや、なんでもない」
しかし直実、内心では(まぁ、お前の天狗という面構えよりはいいかもしれんがな)と思ってたとか。
この後、他の哨戒メンバーにも指示を出し、弥十郎たちも哨戒を兼ねた材料集めに出る。『サバイバル』や『薬学』を駆使し、次々と材料を集めていく弥十郎であったが……。
「あれぇ? パラミタテングタケにパラミタオオシメジ、パラミマイタケ、シャンバラカエンタケ……って、どうしてキノコばかりなんだろう。このキノコハンドのせいかなぁ?」
本気で不思議がる弥十郎であったが、直実は心の中で(それはないだろう……)と突っ込みを入れていたのだった。
「はい、お届け物だよ! それじゃいってきます!」
小屋に材料を届けたと思ったら、すぐ出かける。そんな風に身体を常に動かしているほど気合を入れて依頼に臨んでいるのはテテ・マリクル(てて・まりくる)だ。
小屋から出る時、ミリアリアから話を聞いていたアルクラントに「お互いにがんばろっ!」という笑みを向けてから小屋を出て、小型飛空艇で魔法学校に向かって出発――しようとしたのだが、急ブレーキをかけて止まると、急ぎ小屋に戻った。
「忘れてた! これ、森で拾った石でお守りを作ったんだ。オレからね、『目覚めますように、無事にいれますように』って願いこめておいたから!」
テテの手には、機晶姫の髪の色と同じ色の石を中央にして三つのそれぞれ色の違う石が連なった首飾りが握られていた。テテはそれを目覚めを待つ機晶姫の首に付けていく。それを確認すると、テテはすぐに踵を返して小屋を出ていってしまった。
「――ちゃんと渡してきた?」
……魔法学校に向かって空を駆けるテテの小型飛空艇。それに追随するのは眠 美影(ねむり・みかげ)のエアカーだ。テテの首飾り製作を手伝ったこともあってか、きちんと渡せたのか心配そうに訪ねる。
「うん、大丈夫だよ!」
「そう、ならよかった。――想い、通じるといいわね」
テテが機晶姫に親身になる様子を、ちょっとは妬いているものの……微笑ましく見守る美影。テテが元気よく頷く様には、頬を少し赤く染めていた。
「それじゃ、あの子のためにももっと持ってこないと! この袋に入れてくればいいんだよね?」
「ええ。後であたしが確認して、種類が混ざらないように布で分けるから……材料集め、よろしくね」
テテへそうお願いすると、テテは「まっかせてー!」とばかりに、まさに弾丸の勢いで飛んでいってしまった。美影はその後ろ姿を見守っていく。
「あ、待ちなさいよ! ――もう、しかたないわね。さ、あたしもテテの分まで周辺警戒をしないと……!」
美影は気合を入れ直すと、テテの想いを叶えるべく、周辺警戒に力を入れるのであった。
「ふぅ、こっちはだいぶ集め終ったわよ」
「たくさん集めましたね、魔姫様!」
一方、森の中では材料の一つである木材集めにリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)、天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)、白雪 魔姫(しらゆき・まき)、エリスフィア・ホワイトスノウ(えりすふぃあ・ほわいとすのう)の四人が動いていた。
魔姫とエリスフィアが木材を集め、それを合流地点にて小型飛空艇アルバトロスで待機しているリカインとルナミネスの二人が材料を受け取って運ぶという手はず、なのだが……。
「お疲れ様。私たちのほうもルナのおかげでだいぶ集めれたから、二人の分を積み込んだらすぐ出発するわ」
「――承ります」
リカインと魔姫たちの間に割り込むようにして、ルナミネスは言葉少なく二人から木材を受け取ると、アルバトロスに材料を積み込んでいく。その様子を見て、エリスフィアが何か思っているようだ。
「どうしたの?」
「いえ、その……同じ機晶姫だから感じ取れるのかもしれませんが、ルナミネス様……エリスたちに対してすごい敵対心を向けているような……」
……エリスフィアの言うように、ルナミネスは魔姫たちに敵対心を剥き出しにしていた。もっとも、無表情なためそこからは察知はできないだろう。
ルナミネスは手早く材料を積み終えると、アルバトロスに搭乗してリカインと一緒に小屋に向かって飛んでいってしまった。
「――いっちゃったわね。さて、どうしましょうか? 暇つぶしできてるんだから、時間は無駄にしたくないわ」
「そうですね……動くのも大事ですけど、休憩も大事です。リカイン様たちが戻ってくるまで、お茶にしましょう」
エリスフィアの提案に、魔姫は「し、しかたないわね」と頷き、休憩をすることになった。……暇つぶしできている、と魔姫は言っているが、本当は根っからいい人であることを、エリスフィアは感じ取っていた。
そんなわけで、エリスフィアは手早くお茶の準備を進めていると……どうやら小屋へ戻る途中らしい姫宮 みこと(ひめみや・みこと)と早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)の二人が魔姫たちと合流する形となった。
「あ、魔姫さん。休憩中ですか?」
「よかったらあたしたちも少し混ぜてほしいかな。 みことと二人っきりで頑張っちゃったから、少し疲れちゃった♪」
もちろん拒む理由もなく、魔姫たちは二人を受け入れる。と、エリスフィアは簡易的なお弁当やお茶を用意していくのを蘭丸は見て……。
「――そうだ! ね、みことちょっと待っててね」
蘭丸は何か思いついたのか、材料を持って大急ぎで小屋のほうへ。――そして、待つこと数分。蘭丸が何かを持って戻ってきたようだ。
「さぁさ、みこと♪ 会心の出来だと思うからぜひ召し上がれ☆」
……どうやら、わざわざ小屋まで戻って差し入れ料理を作ってきたらしい。あまりにも手早いその動きは、確実に何かの補正がかかっている。
「これは――いつもは失敗ばかりなのに、今回はとても美味しそうに見えますよ。魔姫さん、よかったら食べてみませんか?」
いつもは失敗物ばかりを食べさせられているらしい。見た目は美味しそうではあるが万が一があると考え、みことはあからさまな回避手段を取る。
「私はエリスのお弁当があるからいいわ。エリスも給仕に集中してもらいたいし、せっかくの蘭丸の手料理なんだから食べてあげなさいよ」
「う……わ、わかりました」
……回避失敗。他の手段が思いつかなかった辺り、みことの世渡り下手な面が出てしまったようだ。
意を決して蘭丸の差し入れ料理を食べるみこと。――覚悟したその味は、いつもとは違ったとても美味しいものだった。
「うん、これ美味しいですよ。いつもは料理を失敗してばかりでしたのに、今回はうまくできましたね」
「ふふ、気に入ってもらえて何よりよ。材料のキノコや、さっき弥十郎からもらったキノコで作ったのよ♪」
「……えっ」
――材料を取りに行く前、ミリアリアが言っていたことを思い出す。
……材料用のキノコには強い幻覚作用があるから、
間違っても口にしないでね。
……この後、みことはしばらくの間強い幻覚に襲われ、戦線に参加できなくなったのであった。
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