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リアクション
そんなやり取りもあったせいか、試合は序盤から激しい展開となった。
梓紗と真姫という【鬼神力】を使った者同士の戦いは、真っ向からの殴り合いだった。
ボクシング仕込みのジャブやフックといった拳を放つ真姫。本来プロレスでは拳による攻撃は反則であるが、それで試合を止められるほどではない。
「ってぇな!」
お返し、とばかりに今度は梓紗が真姫の頭を掴むと、二度三度と肘を叩きこむ。
「ああ面白いねアンタ! 気に入ったよ!」
そう言うと大ぶりのフックを顔面にたたき込む。
「いいねいいね! 最高だねこういうの!」
梓紗が嬉しそうに肘を真姫の顔面に叩きこむ。脳筋同士の殴り合いは、本人たちが楽しそうであった。
「オラァ!」
続いて真姫が放ったのはボディブロー。突然の変化に、梓紗は体をくの字に曲げる。
真姫は梓紗の身体を持ち上げ、ボディスラムでマットに叩きつける。
が、間髪入れず梓紗は立ち上がると真姫に肩からタックルをかます。思わず倒れるが、受け身を取ると真姫は即座に立ち上がるとお互い距離を測る。
「はぁッ!」
ラルクの逆水平チョップが黎明華の胸を打つ。その度に重い音が会場に響いた。
「くぅ……ッ!」
黎明華の顔が苦痛に歪む。そんな彼女をラルクはロープへと押し込み、反対側へ振る。
「悪いが女だからって手加減はしないぜ!」
戻ってきた黎明華の首元に、ラルクの太い腕が叩き込まれる。ラリアットだ。
「あぐぁッ!?」
ラルクの腕を軸にし、黎明華の身体が一回転し、うつ伏せにマットに沈む。
「どーだ!」
ラルクが片手を上げると、観客がどっと沸いた。だから、聞こえなかった。
「ラルク! 油断しなさんな!」
即座に立ち上がる黎明華を警告する、ガイの声が。
「遅いのだ!」
立ち上がった黎明華が、ラルクをロープへ押し込み反対へスルー。自身もロープの反動を利用し、駆けると勢いそのままに飛び、ヒップアタックを叩き込む。
「うぉッ!?」
勢いがついた黎明華の攻撃に、たまらずラルクがマットに倒れる。
「いっかす〜〜!」
そう吼えた黎明華に、観客の歓声が浴びせられた。
荒神とラルフの掛け合いはスピーディーな物であった。
まず荒神がラルフをロープに振り、アームホイップで転がすとラルフも即座に立ち上がり、同じムーブを返す。
立ち上がった荒神はそのままラルフの首元にぶら下がる様にコルバタで振り回すが、ルチャのムーブではラルフも負けてはいない。くるりとマットを転がり、起き上がるや否やそのまま荒神の首元に巻きつき、コルバタで振り回す。
転がされた荒神が立ち上がるとお互い距離を測るが、それも一瞬。ラルフが飛びつき、ウラカンラナの奇襲をかけた――
「甘いッ!」
所で荒神が投げっぱなしパワーボムでリングへと叩きつける。そして足を捕らえ、そのまま足首をアンクルロックで捻り上げる――
「させん!」
寸前、ラルフは両腕を使って立ち上がると前転し、荒神を振り回し背中からコーナーにぶつける。
立ち上がったラルフはそのまま荒神に向かって駆ける。そして、荒神の身体を駆け上がる様に蹴り上げるサルトモルタルが決まった。
レティシアと真一郎の絡みは、一見真一郎が押しているように見える。
「はぁッ!」
手刀、掌底、という打撃に加え、アームホイップといった投げも使用している。
「ふふん♪」
だが、それを受けて尚、レティシアにはあまりダメージは残っていない。それ以上に、真一郎の呼吸が若干乱れている。
果敢に攻めている真一郎であるが、その攻めをレティシアはダメージが残らないように受け、逆に体力を削っていた。
格闘技とプロレスの違いである。格闘技と比べ、プロレスの試合は時間が長く設定されている。その為試合構成のペース配分という物が重要となってくる。
その点を理解し、序盤である現在を体力温存に努めるレティシアに今回は分があった。
柳の枝に攻撃しているような物である。攻め疲れによる疲労が少々見えだしていた。
更に隙を見て、レティシアもエルボーやスリーパーで真一郎の体力を削る。
「くっ……はぁッ!」
スリーパーを、少々強引に背負い投げで真一郎が返す。
「おっと」
その投げを受け身を取りつつ転がり、距離を取る。
「せぇッ!」
真一郎がその距離を詰め、掌底を放つ。だがレティシアはそれを最低限の動きで避けると、背後に回った。
「格闘技系ならそういう攻め方もいいんでしょうがねぇ」
レティシアが、真一郎の身体を捕らえた。
「こいつはプロレスなんでねぇ――よっと!」
そして、そのまま真一郎を持ち上げ、バックドロップで後頭部から叩きつけた。
パンツマシン1号こと、国頭と椎名の絡みは意外にもまともな物であった。
「ほれほれ、どうしたよ?」
国頭が軽く椎名を挑発しつつ、ローキックを当てていく。
「……ちぃ」
受けつつ、椎名が表情を顰める。足にダメージが蓄積されてきている。
ローキックだけではなく、国頭は執拗に足を攻めていた。
一方的な物ではなく、椎名にも攻めさせるとお返しにと顔面を狙った攻撃で動きを止める。そしてまた足を狙った蹴りで攻める。打撃だけではなく、ボディスラムのような投げ技も見せると即座に膝十字といった関節技で足を破壊しにかかっていた。
痛めた所を攻める、という鉄則に則ったプロレスであった。
「くっ!」
負けじと足技を椎名が放っていくが、国頭は食らいつつも嫌らしく笑みを浮かべ、効いていないそぶりを見せる。
「幼い顔立ちと一緒で、優しい蹴りだな」
ニヤニヤと笑いながら国頭が言った。実際、椎名の足はダメージが蓄積されており得意としている蹴り技の威力がそがれていた。
「顔についてはあんたに言われたくないね……それに、自分の顔を結構気にしてるんでね!」
国頭を睨み付けると、素早いスピンキックを放つ。
「おっと?」
それを両腕で受けつつ、倒れ込む国頭。だが、そのまま軸足を足で挟み椎名を倒すと、そのまま膝十字へと持ち込む。
「ぐぅッ!」
「そらそら、どうしたどうした?」
からかいつつ翻弄する国頭が、この場を支配していた。
「ほーれ行くぞー!」
セレンフィリティが相手にしていたのは、アレックスであった。
「いたっ! 痛っ! 痛い! 痛いッス!」
セレンフィリティのキックに、アレックスは悲鳴のような声を上げる。
「……あんたさー、本当に○○○ついてるの? ぶっちゃけ情けないよー?」
馬鹿にした様にセレンフィリティが言う。先ほどから攻めているのはセレンフィリティ。アレックスはというと、抵抗もせずただやられるだけなのである。
何か作戦があるのか、とも思わせられるこの行動に、最初は警戒していたセレンフィリティであったが、『戦う気が見られない』と判断し一方的に攻めだしている。
「ひ、ひぃッ!」
たまに動いたと思うと、金網に向かって走り出す始末である。
「……はー、やれやれ」
罵ろうが何をしようが向かってくるわけでもなく、ただ逃げる事だけしか考えていないアレックス。若干ブーイングが巻き起こるこの状況に、セレンフィリティが呆れた様に溜息を吐く。
金網を掴んだところで、
「うぉっ!? 眩しッス!?」
「はーい良い顔貰いましたー」
場外のセレアナを始めとしたセコンド陣に叩き落とされるだけである。
「あぐっ!」
背中から落ちるアレックス。
「んっふっふっふっふー……」
そのアレックスの顔を、楽しそうにセレンフィリティが覗き込む。
「さーて、お仕置きタイム行くぞー!」
観客に向かいセレンフィリティが叫ぶと、アレックスの足を掴む。
「ちょっとは根性見せなさいよこの(以下自主規制)!」
そして体を回転しつつ、足を絡めて四の字を作る。
「――ッ! ――ッ!」
四の字固めに、声にならない悲鳴を上げるアレックス。バンバンとリングを叩き、痛みを訴えていた。
「あーっはっはっは! いいざまよー!」
高らかに笑うセレンフィリティ。その光景に、観客が沸いた。中には『もっとやれ』なんて声も出てくる始末だ。
「それじゃ、お客さんのリクエストに応えましょう! ほーれ!」
セレンフィリティが両手を使い身体を持ち上げ、体重をかけるとアレックスが更に激しくリングを叩く。
「いや、ギブアップは無い……耐えるのだよ、ここはリングだ」
必死にアピールするが、リリィに無慈悲に告げられた。
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