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花換えましょう

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花換えましょう
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 ■ 桜咲く境内にて ■
 
 
 
 社内で桜の小枝作りが行われている間、福神社の境内でも花換えまつりの準備がされていた。
「ボクも布紅ちゃんと小枝作ろうと思ってたのになー」
 残念そうに言うカレンに、ジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は無理だろうと呆れ顔で答える。
「カレンに任せておいたら材料がすべて無駄になる」
 細かな作業に向いているとは言えないカレンが試しに作った小枝はすべて、とても参拝客には渡せない出来のものばかり。
 これでは手伝いに来ているのか邪魔しに来ているのか分からない、ということでカレンは境内の準備に回ることにしたのだ。
「それで、カレンは何を作るつもりなのだ?」
「参拝客がここでも花換えまつりをやってるって分かるようなものが欲しいって言ってたから……ちょっと派手めなアーチ状の看板なんてどうかな?」
 この辺りに、とカレンは福神社の境内の手前上部を手で示した。
「それだけで客を呼べるものであろうか?」
 考え込むジュレールにレキが言う。
「ここまでの間には、ボクたちが案内看板を立てるよ。凝った看板じゃないけどね」
 レキもカレン同様、小枝作りには不向きだからと設営を引き受けている。こんな感じの、と見せたところには書きかけの看板があった。白く塗った板に黒い文字を大きく書いただけのシンプルな看板は、遠くからでもはっきりと読み取れる。
「分かり易くて良いんじゃない? ボクたちもがんばるぞ〜」
「カレン、がんばるのは良いが色々と必要な物を揃えるのが先だろう。何が必要なのか言ってくれれば、我が空京の街に買い出しに行ってこよう」
「あ、そっかー」
 ジュレールに注意され、カレンは必要なものを紙に書き出しはじめた。
「もし足りないものがあれば一緒に買ってくるが」
「だったらもう少し針金が欲しいかな。看板を固定するのに使いたいから。それから……」
 レキからも必要なものを聞くと、ジュレールは社にも顔を出し、必要なものを聞き出した。
 やりはじめてはじめて判明する必要なものも多い。皆から聞いた買い出し物品はかなりな量になった。
「一度では無理そうだから何度かに分けて往復せねばならぬな」
 メモを片手にジュレールは、どれが急ぎのものなのか、後回しにしても良いものかを考える。
「手伝おうか?」
 カレンの申し出にジュレールは首を振った。
「いや、裏方の買い出しは我に任せて、皆は花換えまつりの準備に専念するが良い」
「じゃあよろしく〜」
 小型飛空艇で飛び立ってゆくジュレールを、カレンは手を振って見送った。
 
 
「なんか祭りの手伝いが欲しいって聞いたんやけど……」
 そんな噂を小耳に挟み、ちょうど暇だったからと瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は福神社に来てみたものの何をして良いのかさっぱり分からない。そもそも花換えまつりがどんな祭りなのかも知らないのだ。
 では何故手伝いに来たかと言えば……祭りといえば幸せそうな人の集う場所。そこでなら良い感じに嫉妬をしている輩を見付けられそうだった、というのが1つ。普通に祭りを楽しみたいのも1つ。
 割合でいえば前者が6、後者が5といったところだろうか。
(アレ? 計算ちゃうような……)
 まあいいかと、裕輝は気にするのをやめた。
 小枝作りよりも力仕事の方が性に合っているからと、境内の準備の手伝いを申し出る。
「じゃあこの辺りに花換え用の小枝売り場を設置してくれるかな? 小枝を置いておく場所を作るのも忘れないでね」
「売り場か。どんな感じにすればいいんだ?」
「えっとね、テントを張って台を作って……」
 レキの説明をふんふんと頷きながら聞いた後、裕輝は言われた通りに設営を開始した。
「ここは任せてボクたちは看板の設置に行こうか」
 小枝授与所の設営は裕輝に任せ、レキはパートナーのカムイ・マギ(かむい・まぎ)を連れて、看板の設置に向かった。
「このへんでいいかなぁ?」
 レキが看板を仮の位置に掲げ、それをカムイが参拝客代わりに歩いてきて確かめる。
 花換えの由来は男女の枝の交わしあいだから、カムイは看板の位置を思春期以上の年代にあわせるようにした。まずは大人の目に留まりやすいように、そして子供からも見える位置に。
「もう少し上、です」
 場所を決めると、しっかりと留め付ける。
 順に設置しながら福神社の境内まで戻ってくると、今度は境内の飾り付けにかかった。
「……レキ、何をやっているんです?」
 ピンク、白、緑。丸い色とりどりの玉を紐に通してぶらさげているレキに、カムイが首を傾げる。
「桜といえば、花見。花見といえば団子! 花見団子の飾りだよ」
「……その発想はどこから来るんでしょう」
 まったくもう、とカムイは呆れる。
「でも気分が楽しくなりそうで良くない?」
 楽しそうに玉を飾り付けているレキに、カムイは苦笑混じりの微笑を浮かべた。
「あとで布紅さんに見てもらって、判断してもらいましょうね」
「そうだね。布紅ちゃんが気に入ってくれないと意味無いから」
 気に入ってくれるといいなと、レキは紐に通した三色団子のような玉を掲げてみせた。
 
 
「カレン、まだ終わらぬのか?」
 追加の買い出しをする合間に、ジュレールはカレンのアーチ看板作りの様子を見た。小枝の出来からみてどうなることかと思っていたが、大きいものを作るのは大丈夫なようで、カレンは案外上手に看板を作った。
 それを桜咲く春をイメージしたピンク色に塗り、よく乾かしたら最終仕上げ。アーチ看板に『福神社花換えまつり』の文字を書き入れる。
 1文字1文字丁寧に。
(皆の下に福が来ますように)
 花換えに託す願いをこめながら――。