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少女に勇気と走る夢を……

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少女に勇気と走る夢を……

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第五章 勇気が引き寄せた夢


 分身騒ぎの翌日、美絵華の手術について説明がされた。

 担当医であるダリルは最初に彼女の両親にレントゲンや磁気診断機の結果画像を見せ、症状や術式、何よりリスクも含めて説明を行った。

 美絵華の病室。説明を終えた両親の見舞いが終わり、夕花と二人だけとなっていた。

「手術は、四日後だね」
 夕花は美絵華に話しかけていた。
「……うん」
 手術日が近くなって改めて不安がぶり返してくる。

「美絵華ちゃんを担当するお医者さんに会いに行こうよ!」
 応援に来ていたルカルカが医局へ行こうと美絵華を誘った。
「……うん」

 美絵華がうなずいた時、ドアが開き、担当医が現れた。

「手術を担当する事になったダリルだ。体調はどうだ?」

 現れたのはダリルだった。あの解除薬製作を手伝ってくれた人。

「あっ、嘘!?」
 まさかの人物に美絵華はあっけにとられてしまった。

「ダリル! 担当医だったなんて」
 ルカルカも驚いていた。ダリルが担当医である事は、空を散歩していて知らなかったのだ。

「ねぇ、本当に治る?」
 見知った顔に美絵華は安心し訊ねた。
「あぁ、治る。守れない約束はしない」
 自信に満ちた様子でダリルは答え、手術の説明を行った。

「手術は神経を圧迫している新生物を除去するだけで縫合もナノ縫合だからすぐに終わる」

 ダリルは簡潔に手術内容を話した。途中、ルカルカの噛み砕いた補足もあったが。両親からリスクについては本人が聞かない限り話さないでくれと言われているので抜かしている。本当は神経至近でかなり難易度が高い手術なのだが。

「うん、足の出る服も問題無いってお母さんが言ってた。可愛い服を買わなきゃって。でも本当は難しい手術でしょ」
 うなずき、はしゃいでいた母親を思い出していた。両親は仕事のため帰ってしまったが。表情はすぐに真剣なものに変わった。いくら子供と言えど何も理解できない幼児ではないので手術が難しい事は予想できる。

「大丈夫、大丈夫。どんな難しい手術でもダリルならあっという間だよ。夕花さん、言ってたよね、凄腕のお医者さんって」
 ダリルが何か言う前にルカルカが明るい声で励ました。
「うん」
 ルカルカの明るい声と笑顔に癒され、美絵華はうなずいた。

 この日から四日後、手術が行われた。

 『名声』により病院側はダリルのために最高の環境を整え、『博識』によって新生物を瞬時に見分け、除去する。『ゴッドスピード』で手術時間を短縮し、『ナーシング』や『治癒』『命のうねり』によって回復を促進させる。『両手利き』により、素早い施術に縫合。時には『光条兵器』も使う。術後も考えた完璧な手術だった。

 手術は、無事に成功した。

「体調は大丈夫か?」
「美絵華ちゃん!!」
「こんにちは」
「……元気そうで安心した」
 様子を見に来たダリルとルカルカ。ローズとカンナがお土産を片手に見舞いに来た。

「……大丈夫」
 麻酔が切れてすっかり目を覚ましていた美絵華は元気にうなずいた。病室には彼女の両親がいた。

「よく頑張った」
「来たよ、美絵華ちゃん」
「成功したんだってな」
「大丈夫ですか」
 優、零、聖夜、陰陽の書が病室に現れた。

「見舞いに来たぜ」
「大変じゃったのぅ」
 続いてウォーレンとルファンも見舞いにやって来た。

 しかし、一番重要な見舞客が顔を出さずに病室の前でうろうろ。

「ロズフェル」
「きちんと謝りに来たんじゃろう」
 病室からダリルとルファンの声。

「早く入ったらどうだ」
 優が躊躇っている二人を促す。

「……行くか、キスミ」
「……だな」

 ダリルに美絵華に謝罪するようにと呼ばれたのだ。悪気はなかったのだからきちんと謝れば許してくれるだろうと。

「……ごめん」
 意を決したロズフェル兄弟は病室に入るなり、同時に頭を下げ、謝った。

「……いいよ」
 美絵華は二人を許した。二人には悪気もなかったし自分にも原因があったから。それにほんの少しだけだが、楽しかったから。
 ロズフェル兄弟は安心して互いに顔を見合わせていた。

「はい、美絵華ちゃん、約束していた分身薬と解除薬」
 ローズは手術の成功祝いとして約束していた分身薬と解除薬をプレゼントした。『薬学』と『医学』を使って改良に改良を重ねた最高の品となっていた。

「私達四人からはランニングシューズ」
 零は優達と選んだ約束のランニングシューズを成功祝いにプレゼント。走る事がもっと楽しくなるようにと。

「ありがとう。あと、ごめんなさい」
 美絵華は嬉しそうにローズと零に礼と迷惑をかけた事を謝った。彼女の両親もぺこりと頭を下げていた。

「大丈夫よ」
「気にしていないから」
 零とローズは笑顔で美絵華に答えた。

「本当に走れるよね。リハビリをたくさん頑張ったら」
 美絵華は自分の両足を眺めてからダリルに訊ねた。

「あぁ。随分、足を使っていなかったからな。辛いリハビリになるだろう」
 ダリルは彼女の言葉にうなずいた。

「……走る夢まであともう少しだ」
 カンナはダリルの言葉に考え込んでいる美絵華に言葉をかけた。

「……うん、でも、検査とか薬とか注射とかはしなくていいんだよね」
 美絵華はカンナにうなずいてから今までの入院生活を思い出しながら気になる事を訊ねた。
「何回かは術後の検査は必要だが。以前のように多くはしない」
 それに対してダリルは即答した。

「だったら頑張る。走れるようになるなら」
 ダリルの返答を聞いて美絵華は安心し、力強く決心を口にした。

「その意気じゃ」
「美絵華ちゃんなら大丈夫!」
 ルファンとルカルカが励ました。

「よし、手術成功とこれからの頑張りを応援という事でどこかに連れてってやるよ。今日は手術後で無理だろうから明日とか」

 ウォーレンは、以前、美絵華がめちゃくちゃにした約束を口にした。

「……ひどいこと言ってごめんなさい」
 美絵華はウォーレンにもめちゃくちゃな事を言った事を思い出して謝った。

「んな事気にしてねぇよ」
 ウォーレンはにっと笑った。

「だったらね、また空飛びたい。走るのはこれから自分で頑張るけど空は……」
 よほど空を飛んだ事が印象的だったのか美絵華は空を飛ぶ事を希望した。

「それじゃぁ、約束だ! 俺は約束は破らねぇよ。一緒に回って一緒に楽しもうぜ!」
 そう言って美絵華と指切りをした。

 しばらくしてから見舞客達は帰って行った。

 後日、美絵華はウォーレンに抱き抱えられて空を飛び回って楽しんだという。最高の笑顔をしていたそうだ。

 足の方は、術後も良好で何の心配もなかった。リハビリも頑張り、逆に周囲が心配するほどだった。目標は貰ったランニングシューズを履いてマラソンに参加する事だ。時々、分身を見てイメージトレーニングをしているという。

 手術後、美絵華の毎日は輝いていた。


担当マスターより

▼担当マスター

夜月天音

▼マスターコメント

 シナリオを担当させて頂きました夜月天音です。
 参加者の皆様、本当にありがとうございました。

 皆様の素敵なアクションのおかげで執筆も楽しく、美絵華ちゃんの心が安まり、街に平和が戻って来ました。ありがとうございました。
 ほんの米粒ほどでも楽しんで頂ければ、嬉しいです。