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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
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『ロノウェ、イナテミスへ』

●ザナドゥ:ロンウェル

「イナテミスで感謝祭……ね。人間と精霊、そして魔族が共存しようとしている街、話には聞いているわ」
 居城を訪れたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)から、感謝祭のことを耳にした魔神 ロノウェ(まじん・ろのうぇ)が椅子に背を預け、思案する。
「異種族の共存の可能性を直に確認する……そういうのも必要かもしれないわね。最近は仕事も落ち着いてきたことだし」
「ホント!? それじゃあ一緒に――」
 乗り出したルカルカを手で制して、ロノウェが口を開く。
「一緒には行かないわよ」
「えー! 折角ロノウェちゃんとお祭り一緒に回れると思ったのにぃ」
 駄々をこねるルカルカを、呆れたような目付きでロノウェが見る。
「あなたも私も有名人、一緒に居たら街の人達に無用な緊張を与えるでしょう?」
「そんなの、豊美ちゃんに任せておけば大丈夫よ♪」
 初めて聞く名前に、ロノウェが訝しげな視線を向ける。
「とっても偉い魔法少女なの。まずは会ってみるのが早いよ」

●イナテミス

「はじめましてー、飛鳥 豊美ですー。豊美ちゃん、でいいですよー」
「……ロノウェです」
 可愛らしくぺこり、と挨拶してきた豊美ちゃんに応えつつ、ロノウェは眼鏡の奥の瞳でじっくりと相手を観察する。
(この子……ただ幼いだけではない。どこか老成した精神を有している。過去、何か重要な役職に就いていた?)
「豊美ちゃん、ロノウェがここで注目を浴びないようにすることって出来るかな?」
「出来ますよー。えいっ」
 掲げた『ヒノ』の先端が光り、魔力がロノウェを包み込む。いとも簡単に術をかけられたことにロノウェが驚いている前で、豊美ちゃんが完了の旨を告げた。
「ありがとー豊美ちゃん。はい、これチョコバナナっ。
 それじゃロノウェ、一緒に屋台巡り――」
「だから行かないってば」
「えーー! なんでよーーー!」
 またもや駄々をこねるルカルカに何と言ったものかとロノウェが思案していると、ダリルがルカルカの肩を持って制する。
「ロノウェにはロノウェの考えがあるだろう。無理強いは良くない」
「うーん……それもそうだね。
 ロノウェ、一緒に回りたくなったらいつでも言ってね♪」
 手を振って、ダリルと共にルカルカが人混みの中へ消えていく。
「ふぅ……さて、と」
 呟いて、まずは一通り見て回ろうとロノウェが歩き出す――。


『警備よりネトゲ?』

「ねえ魔穂香、『パーフェクトガチャ』が廃止になったって話、知ってるよね」
「ええ。噂では運営が確率操作していたとか言われてるわね。まあ、私はとっくにコンプしてたから問題ないけど」
「嘘っ!? レアアイテム18つ、スーパーレア6つ、レジェンドレア2つ全部!?
 私だって2つ3つ揃えられなかったよ!? 魔穂香、恐ろしい子……!」
「色々やったわよ、『素早く5回クリックすればレアが出る』とか、『空中でジャンプして土下座しながらクリックすればレアが出る』とかね」
「……魔穂香、いくらなんでもそれ、やばくない? 私がその場見たらドン引きだよ」
「……そう、そうよね」(しゅん)

 屋台で買った食べ物を手に、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)馬口 魔穂香の会話が続く。二人は魔法少女として、感謝祭が円滑に進むよう警備を担当している……のだが、専らネトゲの話に興じていた。
「魔穂香さんも美羽さんも、本来の仕事を忘れてるんじゃないッスかねぇ」
「うーん……大丈夫だと思うよ、多分。
 それに、こうして何事も無くお祭りが進行するなら、それが一番いいと思うし。せっかくのお祭りなんだから、僕たちも楽しまないとね」
 二人の後ろを、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)馬口 六兵衛がドーナツを頬張りつつ付いて行く。確かに、警備の仕事は忙しくない方がいい。
「……! 美羽、ちょっとこれ見て」
「何、どうしたの……えっ!? 『パーフェクトガチャに代わる新しいガチャ、その名も『アブソリュートガチャ』!?」
 魔穂香の手にした携帯端末を、美羽も一緒になって覗き込む。どうやら二人がプレイしているネトゲで、新しい情報が発信されたようである。
「ちょ、これ凄い能力だよ、魔穂香っ」
「これは……揃えないわけにはいかないわね。そのためには元手が必要……!」
 顔を上げた二人、視線を合わせて力強く頷く。思惑が一致した瞬間であった。
「行くよ魔穂香、お給料をもらって、アブソリュートガチャをそろえなきゃ!」
 『風銃エアリエル』を手にした美羽に続いて、箒型の銃、『クリミエックス・ゼロ』を呼び出した魔穂香が行く。
「……何も問題が起きないといいッスね」
「ちょっと、同情しちゃうよね」
 二人の後を、コハクと六兵衛が追いかける。二人の目前で問題が起きないことを切に願いながら――。


『出店の賑わい』

「アオイー、持ってきたわよ。頭痛が痛くなるくらいキンキンに冷えてるアイス!」
 カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)が、秋月 葵(あきづき・あおい)魔装書 アル・アジフ(まそうしょ・あるあじふ)の企画したスイーツ屋台へ、四角い箱のようなものを滑らせる。箱は屋台の目の前で止まり、中には二種類の大きさの球の形をしたアイスが入っていた。
「サンキューカヤノちゃん。それじゃ、とびっきりの必殺スイーツでみんなを笑顔にしちゃうよ♪
 そう、魔法少女の名にかけて!」
「が、がんばるですぅ」
「なんだか面白そうだから、あたいも手伝ってあげるわ!」
 そして三人、大きな方のアイスを下、その上に小さな方のアイスを載せて、雪だるまを形作る。
「は、はわわ、倒れたですぅ……」
「む、難しいわね……そうよ、こうすれば倒れないわ!」
「カヤノちゃん、凍らせちゃったら食べられないよ〜」
 苦戦するアルとカヤノを葵がサポートしながら、小さなアイスの上にバケツを模したクッキーを載せる。お皿の周りには五精霊をイメージしたという五色のマカロンを飾り付けていく。
「カラフルでキレイですぅ〜♪ これ、何味なんですかぁ?」
「闇黒はコーヒー、炎熱はイチゴ、雷電は抹茶、光輝はレモン、氷結は……ちょうどいいのがなくて、ブルーベリーで許してっ」
「なんか、青っていうより紫よね。まぁ、いいわ」
 最後はチョコペンで模様や文字を書いて、完成である。『雪だるま王国』の『バケツ要塞』をイメージしたアイスは、買い求めた客の口の中で初めて溶け、見た目もさることながら味の面でも皆を幸せな気持ちにさせていた。
「美味しいものには国境なし、って聞いたしね。これなら種族問わず誰でもいけちゃうよねっ」
 笑顔の客に満足感を覚えながら、葵が調理場に戻るとアルが何やら魔導書のページを検索していた。
「えーと、たしかこのあたりにニャルラトホテプが好んだスイーツのレシピが……はわ!」
「はいはい、脱線しないでちゃんとレシピ通りに作ろうね♪」
 にっこり笑ってアルを連行していく葵。売り場の方ではカヤノに連れてこられた氷結の精霊たちが、笑顔を振りまきながら接客を行なっていた。
「カヤノ様の濃厚……アイスいかがですか〜」
「なんか引っかかる言い方しないでよっ!」
 周りから笑いの声が溢れる――。


「皆様、心から笑顔になれる魔法少女印の、美味しいケバブサンドはいかがですか?」
 屋台の一つから、可愛らしいエプロン姿のミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)の声が響く。興味を惹かれてやって来た客を、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)の調理するケバブサンドの食欲をそそる香りが出迎える。臭みを取り除かれ、スパイスで下味をつけられた牛肉、『イナテミスファーム』産の新鮮な野菜がたっぷり使われたサンドはミリィの言うように、口にした者を瞬く間に笑顔にしてしまう。
「はい、チリソース2つ、お待たせいたしました。お次のお客様、どうぞ」
 出来上がった品を手渡し、微笑んで見送るミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)の所へ、デート中のケイオースとティティナがやって来て注文する。
「チリソースとヨーグルトソースを1つずつ、お願いしたい」
「おや、これはこれは。ケイオースさんにも春が来たようだ」
 涼介の軽口に、ケイオースとティティナが互いを見やって、照れくさそうに微笑む。
「お父様が、ここでの活動に積極的になるのも納得ですわね。これだけ笑顔が素晴らしく穏やかな場所なら、これからもここの方たちと協力していきたくなりますわ」
「ふふ、そうね。私もまた機会があったら、この街を訪れたいと思うわ」
 ミリィとミリアが頷いて、ケバブサンドを手に楽しく話をする二人の背中を見送る。

「ふぅ。やっと落ち着いてきたね」
 人の流れが穏やかになったのを見計らって、品出しに従事していたクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)と涼介は休憩に入る。ミリィの接客を聞きながら、エイボンが作ったケバブサンドを頬張る二人。
「……おにいちゃん。今日のこと、どう思う?」
「どう……とは、どういうことだい?」
 促すように尋ねる涼介へ、クレアはずっと思案していたことを口にする。
「お祭りはいいことだと思うけど、なんか、急過ぎるなって。
 ルーレンが言ったことにしては、思いつきのように思う。いつものルーレンならもっと思慮深いというか、きちんと計画を練ってから発言するのに」
 立場柄、ルーレンのことを知っているであろうクレアは、今回の感謝祭のきっかけを作ったルーレンの様子がおかしいと何となく気付いているようであった。
「確かに、クレアの言う通りかもしれない。私達の知らない所で、何か良くない陰謀が仕組まれようとしているのかもしれない。
 ……だけどねクレア、あまり深刻に考え過ぎてはいけないよ。それが元で今のこの時間を楽しめないようでは、本末転倒だ」
 サンドを食べ終わり、涼介が周りに視線を向ける。威勢のいい声、そして無数の笑顔。
「もしこの、緩やかで穏やかな時間を破壊しようと目論む者がいるのなら、私は断じてその者を許すことは出来ない。その時は私が、そいつを止めてみせる。
 ……ただ、今は皆でこの幸せな時間に感謝しようじゃないか」
「うん……そう、だね。ごめんね、おにいちゃんに心配してもらっちゃった」
「構わないさ、それがパートナーというものだろう? さて、そろそろ行こうか。いつまでもミリアさん達に任せておくわけにもいかないからね」
 立ち上がり、仕事に復帰する涼介の背中へ、ありがとう、と小さく口にして、クレアも立ち上がる。
(何かあった時には、私が止めてみせる。それが私の、ルーレンの友人としての役目)


「はい、どうぞ。仲良くできるお守りだよ」
 堅い雰囲気を見せる魔族の来訪者へ、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が作ったポプリを手渡す。花びらと枝、乳香と精油を小瓶や布袋に詰めたそれは、人間も精霊も魔族も関係なく優しくなれる香りを生み出していた。
「あなたも、はい、どうぞ」
「わ、私に? ……そう、ありがとう」
 ポプリを渡された魔族の少女が、くす、と微笑みながら立ち去る。その背中をポプリ作りに駆り出されたロビン・ジジュ(ろびん・じじゅ)が訝しげに見つめていたが、「……気のせいですよね」と呟いて作業に戻る。
「久し振りにこっち来たなー。平日は学校、休日はザナドゥにぷち留学だったから。
 今日のお祭りがきっかけで、人間も精霊も魔族もみんな仲良し、になるといいな」
 誰に言うでもなく呟いたのぞみの言葉を、ロビンは未だあり得ないこと、と思っていた。誰かと誰かが仲良くなるのは分かる、自分ものぞみやパートナー達と仲良くしたいと思う。でも、『“みんな”仲良く』なんてあり得ないこと。人間も魔族も精霊も違うものである以上、みんなが仲良く出来ることなんてない、と。
(……でも、のぞみは信じている。言い続けている。……面白いですね、本当に)
 心に呟くロビンの手の内で、余った材料を用いて作っていたブーケが完成する。
「僕と一番仲良くなる気は、ないですか?」
 そのブーケをのぞみに手渡しながら、ロビンが本心からなのか偽りなのか判断しかねる言葉を口にする。
「あ、ありがとー。ロビンってホント器用だよねー」
 特に喜んだ風もなく受け取るのぞみ、その様子を傍から見た人は「この二人、仲良くないのかな」と思うかもしれないことはのぞみ自身も気付いていたし、実際仲は良くないと思うけどでもあたしとロビンは理解し合ってるんだよ多分、という気持ちだった。
(……まあ、もうちょっとは、仲良くしようかな?)
 そうは思ったものの、でものぞみから出てきた言葉は「一番の仲良しは幼馴染だから」だった。
「そうですか」
 そしてロビンも特に落胆した様子を見せず、微笑を浮かべて頷く――。