薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

リアクション公開中!

【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調

リアクション

     ◆

 全ての事象に置いて。
その終わり方は様々である。原因も小さい事であったとしても、逆に大きすぎる事であっても、物事は案外、小さなそれで解決するのだ。
そしてこの場合、この局面、この状況で沿って言えば、収束したのは彼の存在だったのだろう。
「いやさ、俺ほら、おでん好きでしょ。でもなんての? おでんって季節限定でさ、そろそろ終わっちゃうの。んで、買い溜めてはみたんだけど、どうにももう食えないわぁ、ってなったから、お裾分けに来たって訳なんだなぁ、これが。ところで、お前ら、何してんの?」
 随分と愉快そうな顔をしている三人と、大して鬼気迫る表情で向かい合っていた大勢の、その全ての言葉や物音が、本当に一瞬だけ停滞したのは、この彼の――皐月のあまりにこの場にそぐわない発言が故なのは、言うまでもない。
「いや、ってか何々。俺まさか出るタイミング間違えた感じ?」
「ふん。面白いね。実に面白い。おでんか。まさかこの殺し合いじみた物が、おでんて君の登場だけで全て無に還るとは、流石の私も考えなかったよ。実に滑稽だ。滑稽で居て興味深い。おかしな話だよ」
 呆気に取られている彼等、彼女等とは別。顕景が笑いながら皐月に近付き、指で大根を抓んで口に頬張った。
「ふむ、なかなか良いダシだ。うんうん、確かにこれは上手いと思うよ。ふむふむ、所詮人は、最低欲求の前には全てを剥奪されるらしい。いや、この場合は、また別、なのだろうね」
 意味深な事を呟きながら、顕景は皐月が通ってきた順路を、彼とは反対に進む。即ち出口に向かって。
「随分に楽しかったよ。最後が特に、楽しめた。そして私は疲れたから休むとしよう。ウォウル君、珈琲を一杯いただいても良いかな」
 返事は聞かず、そう言い残し、去って行く。
「あ、こら顕景! 待て待て! そのような勝手な行動は――! わしはあやつの後を追うでな、後でまた」
 呆然としてしたままに武器を握っていたルファンが、慌ててその後を追い、早くもこの静寂の中から去って行った。
「ウォウル様。どうやら此処が……いえ、彼の登場が分岐点だった様ですわね。分岐点と言うよりは、終着点、の様ですわ」
「その様ですね」
 綾瀬の言葉に反応したウォウルを見て、どうやら数人が、この状況の終わりを見たらしい。成る程、という表情やら、全く、といいう呆れ顔。が、それがどうも自分たちの「もしも」と言う結論が為に、その後は決まって笑うだけだった。
「初めからそうすればいいのにね、本当。厄介事を絶対に大きくするのが貴方だって、知っててもこれだもんなぁ……困っちゃうよ」
「おいおい北都、何一人で納得してんだよ」
「北都だけが納得してる訳では、ないですよ」
 笑うしかない北都とリオンに挟まれて、ソーマはひたすらに首を傾げるだけだ。
「結局! 結局これ! もう! 結局!!」
「そんなに言わないでよ。良いじゃない、これはこれで人助け。でしょ?」
「だったらこんなに面倒事にするんじゃないって話よ……ああ、もう! また一杯喰わされた! ウォウル……!? ちょっとあんたねぇ!」
 セレンフィリティが武器を握ったままにウォウルへと詰め寄り、それを懸命に宥めるセレアナがいた。
「まあ、結構の人たちがこの結論を予測してたんだろうね」
「そうだな。まあ俺も判ってはいたが……もしかして言った方が良かったか?」
 レキが苦笑するのを見て、大吾がやや申し訳なさそうに呟く。
「ああ、いいのいいの。まあほら、考えればそうなるかな、って。今にして思えばわかったことだし」
「そうですね。もうあの二人が関わっている、という段階で、それは一種の確定事項である、くらいの意気込みの方が、良いかもしれないです」
 二人のやり取りを聞いていたカムイも、どうやら二人の結論には賛成らしく、そんな事を呟いた。
「で。だよ。ウォウルさん。彼女たちね! 別に悪い人じゃないんだ! 確かにその……今回の手段は良くなかったとは思うんだけど。それでね――」
「ほう」
 その言葉に、ウォウルが改めて三人を見やった。
「出来ればで良いんだ。良いんだけど、もし良かったらそのハープ、彼女たちに譲ってくれたり、しないかな」
「譲る、ですか」
 真剣に訴えかけるその瞳を前に、ウォウルは腕を組み、ひたすら考え込む。
「ウォウル。思ったんだけど、別にあげても良いんじゃないかな。ほら、ね? ただ欲しかったってのと、どうしてもいる! っていうんだったらさ、やっぱりどうしてもいるって人が持ってた方が、物も喜ぶと思うんだよね。あたしからもお願い、駄目かな?」
「そうだぞ。此処は一つ、譲るとか、もしもそれが嫌なら、何かと交換に渡すとか、色々あるだろう。そのくらいやってみろ。男鳴らな」
 ルカルカとダリルもウォウルに向かってそう言い、説得する。
「皆……ありがとう」
 シェリエがその行動を見て目を潤ませる中、ウォウルが何かを決したのか、ため息を漏らした。
「仕方がないですね。お譲りしますよ」
「……!? ホント!?」
 決断を聞いたパフュームが飛び上がると、ウォウルは笑ながら頷くのだ。
「ありがとうございますわ! 皆様のご協力のおかげです。今回は敵対する形を取ったにも関わらず、わたくしたちの事を――」
「それ以上は言わなくてもいいんだよ。だってほら、困ってる人がいたら、やっぱり放っておけないもの。そうでしょ? ウォウルさん」
 レキがにやにやと笑みを浮かべてウォウルに言った。
「そう……ですね。皆さんとの出会いも、こうして共にいられる事も、始まりは皆、みなさんの思いやりから始まった事ですし」
「ほらね、ちゃんと話せばわかるんだよ、この人」
 クスクスと笑いながら美羽が言うと、その場の全員が笑うのだ。結局は、自分たちを含めて皆、誰かの為に動けるだけの心を持っているのだ、という。ある種忘れかけている何かを、互いに再確認しながら。



     ◆結びに◆

 朝――。物事が終局を迎えると、それは随分と寂しい空間となったり、虚しい気持ちになったり、将又充実感を得たりするわけではあるが、一同はそのまま解散する事無く、応接室に向かって行った。
 無論、敵味方等関係なく。

 地下にある、ハープを保管していた場所。
即ち、この物語の終幕を迎えたその部屋で、彼等はただただ笑っている。
「人が悪いな、お前」
「全くですわ」
「私達にも一言、欲しかったですけどね」
「ラナさん。それは言わないであげてよ。さっき誰かが言ってたけど、どうせそんなもんだろうって、考えればわかる事だしね」
 ドゥング、綾瀬、ラナロック、唯斗。その言葉。
「皆さんの説得で、ですよ。僕が譲ると決めたのは」
「どうだかな」
「貴方様はいつもそうやって真実をはぐらかしますわね」
 唯斗が笑うと、綾瀬も肩を揺らして言った。
「んじゃあ、俺たちも上、行くか」
「そうね。猫、お前にやるエサはないが」
「こらこら、ラナ」
 ドゥング、ラナロック、ウォウルが会話を交えて、かくして一同、満場一致の大円団で物語は締め括られる。
「あら? ウォウル様? 何かございまして?」
「ああ、いえいえ。何も」
 歩いていたウォウルが足を止め、辺りを見回したのを不思議に思った綾瀬は、しかし彼が歩き出したのを見て首を傾げながら、言及する事を避けるんだ。

 一先ずは、一旦はこの物語に終止符を打つとして。










担当マスターより

▼担当マスター

藤乃 葉名

▼マスターコメント

 この度は、『【神劇の旋律】其の音色、変ハ長調』にご参加いただき誠にありがとうございます。当シナリオを担当させていただいた藤乃です。

皆様に楽しんでいただける事! を目標としてる訳ですが、今回はかなり土下座物なのではないかと、毎度ながら心配です。すみません。
今回、このお話は運営様からお言葉いただきまして書く機会頂いたわけですが、自分としては難しい物だなぁ、と。そんな事を思います。
とっても難しく、同時に皆様のアクションを「!?」と思って見させていただきました。ありがとうございます。

 次回等々も込みで、全体的にペース配分を乱さない事を目指して行きます! 頑張らなきゃなぁ……頑張ります!
参加いただき、まことにありがとうございました。また機会がありましたら、皆様にお会いできることを楽しみとして。

▼マスター個別コメント