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リアクション
第一章 ここからが本当の地獄
――試合会場観客席。
観客席はびっしりと観客で埋まっており、これから始まる惨げk(ごふんげふん)料理バトルを今か今かと待ち構えている。
そのヤバさは既に告知されているというのに、誰も彼も興味津々という表情だ。被害を受けない第三者の立場であるが故の表情である。
「……美緒、本当に大丈夫かしら」
そんな中、一人不安げな表情を浮かべるラナ・リゼット(らな・りぜっと)。
あの後参加申し込みをした泉 美緒(いずみ・みお)は、何事もなく調理側として参加することが決まった。
まだ出番は先であるが、ラナはどうも落ち着かない。
「……不安だわ……本当に参加させて良かったのかしら……」
ラナが一人呟く。その姿は我が子に初めてのおつかいをさせる親の様であった。
「……美緒の料理で死人が出たらどうしたらいいのかしら……」
心配している方向が思いっきり違うので、そんな微笑ましい物ではなかった。
『全国数千万人の好奇心が強い皆様、お待たせしましたぁー! メイン進行はこの私、卜部 泪(うらべ・るい)が行わせていただきまーす!』
テンションの高い泪の掛け声に、観客席がわっと沸く。
『メイン進行はこの私、卜部泪が行わせていただきまーす!』
『あ、アシスタントを務めさせていただきます、天野翼です』
『さて、今回行われる料理バトルはただの料理バトルではありません! テーマは『倒す料理』! 料理で人を殺――倒せるか! その答えが今日明らかにされるかもしれません!』
『今現在裏では参加者の調理が進められています……ええ、凄いことになっていました』
『調理場では調理が行われておりますが、ここでデモンストレーションとしてルール説明を兼ねた実演を行わせていただきます』
『さて、デモンストレーションでは審査員役として今回は天城 一輝(あまぎ・いっき)さんにお願いしています』
そうして用意されるテーブル。そこに紹介された一輝が座る。
『簡単に流れを説明させて頂きます。調理側が作った料理を、審査員の方々に食べて頂きます。審査員が食べきれずギブアップ、KOとなるような高得点! しかし審査員も黙ってやられるような方々ではありません! 自慢の胃腸を持つ方々に参加して頂きました! ちなみに公平を喫する為に審査員の方々は某所で有名なマイナスアイテム『腹ペコの指輪』という特殊な指輪を装備していただいており、毎食後空腹にリセットされるようになっています』
『それでは天城さんにいくつか質問を。好き嫌いはありますか?』
「食べ物の好き嫌いは無いが、丼物は好物だ……ただ、麺類はちょっと苦手でね」
『このルール、食材以外の物も出てきますが?』
「火薬の知識はある程度ある。そっち関係が出てくれれば対処できるな」
『おっと、そろそろデモ調理の方が終わったみたいですね。調理人は一体誰でしょうか!?』
泪の言葉と同時に、調理側入場口の幕が開かれる。
「じゃーん♪ デモ調理担当なななだよー♪」
現れたのは金元 ななな(かねもと・ななな)。やけに大きな皿にあのよくあるドーム状になってる銀の蓋のようなアレ(正式名称は『クロッシュ』とか言うそうな)を被せ、持っている。
『さあデモンストレーションで披露される料理は一体!?』
「いっくよー!」
なななはあのアレを勢いよく取り払った。
そこに現れたのは、モザイクがかかったうにょうにょ動く何かであった。
「ちょっと待て! 映像通してないのにモザイクかかってるぞこれ!?」
「え? そりゃかけるよ。発狂しちゃうもん」
然も当然、とばかりになななが言い放つ。
「……聞きたいんだが……食べられる物なのか、これ?」
「さあ?」
「さあ? じゃねぇよ! てかこれ何だよこれ!?」
「それは食べてからのお楽しみー」
「……これ、食べなきゃ駄目か?」
『ええ、勿論』
わずかに期待を籠めて一輝が実況席に問いかけるが、返ってきたのは泪の笑顔の肯定。
「……わかったよ、食えばいいんだろ食えば……ちまちま食うよりは勢いよく食ってやるさ!」
そう言って用意されている食器からフォークを取り出すと、一輝はモザイク越しのそれに一気にぶっ刺した。
『何か食材悲鳴あげているんですけど』
翼の言う通り、食材からは聞くに堪えないような悍ましい悲鳴が上がっている。
『生きがいいんですかね』
そう言う問題じゃねぇ。
「こうなりゃ自棄だ! えぇい!」
一輝は悲鳴を聞かないように、苦痛に身をよじらせる姿を見ないように口に入れた。
口の中で咀嚼する。『ぐにょり』というか、『ぐちゃり』というか、嫌な食感に一輝が顔を顰めた。
――そして、理解した。今自分が口にしている『それ』が何なのかを。
脳に刻まれる『それ』の情報。そして突きつけられる『口にしている』という現実。
床に落ちたフォークが、大きな金属音を立てる。
そして一歩遅れ、一輝が倒れた。その情報に精神が耐え切れなくなり、意識を手放すことを脳が選択したのだ。己の自我を保つために。
『一輝選手ダウーン! このまま続行可能か!?』
救護係が駆け寄るが、すぐに黙って首を横に振った。
『続行不可能、ということでこの場合ななな選手が高ポイントを得ます』
『……デモンストレーションの『デモン』って『悪魔』とかそういう意味じゃなかったはずなんですが……』
『この状況を見るとそう思ってしまうのも無理はありませんけどね』
『……あの、泪さん、天城さん動かないんですが……やっぱり私が作った鍋の方がよかったんじゃ』
『その場合肉体的ダメージにより泡吹いて動かなくなるだけですよ、彼が』
『……え? 何で?』
『深く考えてはいけませんよ。ところでななな選手、今の食材ってなんだったんですか?』
「えーっとね、くねくn『あーっと、それ以上いけない!』
都市伝説っぽい名称を口走ろうとしたなななを、泪が遮る。
『デモンストレーションも終わり、調理者の方も準備の真っただ中! それではその様子を見てみましょう!』
それだけ言うと、泪がマイクの電源を切った。
「……だ、大丈夫なんですか?」
同じように電源を切ると、翼が泪にこそっと耳打ちする。
「何がです?」
「いえ、私バトルと聞いていましたが……これ軽く死人出そうなくらいヤバいですよね?」
「その辺りは大丈夫です。それよりもっと大変な事がありますよ」
「な、何ですか?」
泪は辺りを見回し、誰も注目していないことを確認すると翼の耳元に口を寄せた。
「……これ考えた人、ぶっちゃけそこまで参加人数集まらないと思って優勝した場合とかの事全く考えてなかったらしいです」
「……そ、それって駄目なんじゃ」
「ええ、駄目駄目ですよ……さて、本当にどうしたものやら……」
そう言うと、泪は大きく溜息を吐いた。
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