|
|
リアクション
「マナミンにはどんな人が現れるかなぁ。出会えそうになったら私がサポートするから」
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と小谷 愛美はお互いにがしっと手を握って同士の契りを結んだ。
「ありがと、美羽。曲がり角って言ったって、そうそうぶつかれるわけじゃないもんね」
美羽は友達である愛美に良い相手ができてダブルデートとかできたらいいね、なんて話していたりするものだ。何より、愛美がどんな人を恋人にするんだろうと楽しみだった。
愛美は持参していたパンに、崎島 奈月のところで調達したジャムを塗り、美羽と分け合った。
パンをかじりながら、誰かいないかときょろきょろ辺りを見回し歩いていると――。
バチィッ
「きゃあっ!!」
「痛っ……っ!!」
静電気のような音を立てて美羽と誰かがぶつかった。
お互いに強い衝撃が生じて、摩擦か何かでそんな音を出してしまったようだ。
「だ、大丈夫!? ごめんね〜。はっ、ここは曲がり角! ということは貴方が運命の人ねっ!?」
「あっえっと運命の人を探しているのは愛美の方で……」
ぶつかって起き上がるなり、捲し立ててきたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。イチゴジャムたっぷりのパンはぶつかった時に上に吹っ飛びセレンフィリティの頭にぺとっと張り付いていた。
それよりぶつかった貴方が無事でよかったと、美羽の肩を軽く叩く。
「大丈夫ですかっ!? すみません、美羽が僕の目を放した隙にぶつかったみたいで……」
美羽のパートナー、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が駈け寄ってくる。美羽を探してここまで来た時には、ちょうど衝突現場を目撃したところだった。
「平気だよ。それよりこの子方が怪我してないみたいでよかった」
「そうですか……。大事無いようでよかった。……美羽も」
愛美が「そこ、パートナーの方先に心配するとこでしょー」と小声で突っ込む。コハクは先に美羽とぶつかったセレンフィリティの身を案じたが、恥ずかしいだけで一番は美羽が心配なのだ。
「……セレン、あんたまたなんかやったの?」
頭についたパンを指さしてセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、全速力で走ってきたセレンフィリティに追いついてきた。一緒に走るどころか、いつの間にかこうなっていた。
「朝食パンくわえながら遅刻! っていうシチュを想定して走ってたら案の定ぶつかっちゃったの」
「当たりの運だけはなんとなく良いわよね」
あはは〜と笑うセレンフィリティに、セレアナは呆れさえしていた。
「それより、怪我というかパンは平気なの……?」
今までぽかんとしていた美羽が張り付いたままのパンを指さす。ジャムがべっとりで気持ち悪いだろうに。
「ギリギリ落としてないから平気だよー」
まだ食べれるよ、とセレンフィリティはパンをかじる。
「……そうだ、聞いておくけど今貴方たちは”偶然ぶつかった”のよね?」
セレアナは3人に聞いた。曲がり角での衝突について、セレアナも調査中であった。
「私たちは、愛美と二人で歩いてたら突然って感じだったし」
だよね、と美羽の言葉に愛美と頷き、
「そうそう。どんな子とぶつかるかなんて予知能力かワザとじゃないとわかんないよ」
セレンフィリティもどこでぶつかるかなんて想定していなかった。誰かみつかるまで、パンをくわえて道を走っているつもりだったし。
「どんどん、ここらの曲がり角でぶつかる確率が高くなってきているみたいなのよ」
道の構造や、時間帯を考慮してもぶつかりやすくなっているとわかったのだが、ぶつかる確率がだんだんと上がってきているのは不思議だ。登下校時刻のピークはとっくに過ぎているのに。
「何かあったのかな……。僕も様子を見てみる。美羽は危ないから、なるべくじっとしてるんだぞ」
コハクは美羽に釘を刺す。
「セレンもね。相手が言い寄ってきたらどうすんのよ……」
セレアナはぼそっと言いながらも、心配しているようだった。セレンフィリティはもう何もしないから、と小暮のところへ分析報告に行くセレアナに付いていくことにした。
*
「確率は4割ってとこか。半分ってわけじゃないけど、試す価値はあるよな!」
巽 友哉(たつみ・ゆうや)はパンをかじりながら、パートナーの可変型パワードスーツ ランドバルク(かへんがたぱわーどすーつ・らんどばるく)に乗って、誰かとぶつかれる良い曲がり角はないかと探していた。
ヒラプニラには他の用事があって来ただけで通りがかりに曲がり角を噂を聞いた。パンは持っていなかったけれど、途中で売っていたので助かった。
なるべく、人の気配がする場所に行った方がいいだろう。可愛い子が飛び込んでくればいいな、なんて坂道の下を走ってみる。
「普通に可愛い子探した方がはやくないか?」
バイク状態のランドバルクは友哉に言う。
「それもそうだけど、他のところでもできるだろ? パンを食べながら曲がり角での出会いなんてそうそう無いからな」
「いや、だからそれも他の場所ででき……。いや、恥ずかしいからやめた方がいいな」
「恥ずかしいって……ランドバルクだってやってみたいんじゃないのか」
「私は普通でいいと……」
友哉の言葉に、ランドバルクはついムキになってスピードを上げた。
「うおっ! 待てもうちょい速度落と……っ!」
キキーッ
坂道から出て来た人影に驚き、急ブレーキをかける。だがそれも間に合わず、衝突してしまった。
「いたた……っ」
ぶつかったオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)は尻餅をついて転んでしまった。すぐに大丈夫か、と友哉が助け起こす。
「だ、大丈夫……、多分」
「って言ってるけど、足擦りむいてる。ほら、後ろ乗りなって」
「えっ」
ひょいっと友哉は小柄なオデットを抱きかかえて自分の後ろ、ランドバルクの上に乗せた。手当が必要だから、治療ができる場所まで乗せてあげることにした。
「いいの?」
「私に乗っていれば、安全だから」
躊躇するオデットに、ランドバルクは言った。ぶつかった原因は自分にもあるし……と。
「ありがとう……。これも食パンの神様のおかげかな?」
なにそれ、と友哉は聞き返す。
「なんだ? その食パンの神様って……」
「食パンをかじっているもの同士、引き合わせてくれる神様がここにいるんだって。知らない?」
初耳だ。食パンの力というものは、ここでは偉大な力を発揮するのか。人伝てに聞いた話らしいが、都市伝説が本当になったとか、そんなところだろうか。
「怪我させちゃったのは悪かったけど、可愛い子に合えてよかったよ。俺は友哉。君は?」
「私はオデット。私も頼もしい人に会えてよかった」
仲良さそうに会話をする二人の下で、ランドバルクが「お二人さんあっついねーリア充してますねいいですねぇー」なんてぶつぶつ言っているのは聞こえていないようだ。
途中、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)に遭遇し、バイクもといランドバルクを止めて、オデットは少し話していた。工具やヘルメットを装着しているトマスは、これから工事になるから道に気を付けて、とだけ言うと去っていった。
「オデッドの友達は工事かぁ、大変だろうな」
「ええ、時間があったら友哉さんとももうちょっと話したいようだったけど、急いでいたみたいだったから……」
*