校長室
走る小暮!
リアクション公開中!
「うーん……小暮少尉みつからないでありますな……」 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)に乗って、小暮を探していた。通りすがる人にも聞いて探しているものの、なかなか見つからない。 「はぁ。気晴らしにこの坂を下ってみよう。風が気持ちいいし」 「了解した。まぁ、そのうち見つかるであろう」 鋼鉄はダッシュローラーを使って加速した。 「ひゃっほーっ。飛ばして飛ばしてーっ」 勢いよく坂を下っていく……。そして障害物が視界に入り、急ブレーキをかけたとたん、 「ぐはぁっ!!」 と喉がつぶれるような声が聞こえた。 「前方不注意であります……お怪我はな……、小暮少尉!?」 ぶつかった相手は探していた小暮で、偶然にも本人を跳ねてしまった。倒れてる小暮に吹雪は駈け寄った。 「うう、今日はぶつかられてばっかだが……一番痛い」 「一番の衝撃ってことでありますね!? 自分も衝撃的な出会いに感激であります!」 「吹雪、それより治療を……」 「はっ! 自分としたことが!」 鋼鉄に言われて応急処置を施す。小暮はたいしたことないようで、湿布を貼ったあとは問題無いように立ち上がった。 「自分も考え事をしていたから、こちらの不注意でもある」 「すいませんであります……! 小暮少尉、なんだかいつもの覇気がないような……」 吹雪の言葉に、鋼鉄も頷く。考え事とは、なにか思いつめてでもいるのだろうか。 がががががっ 突然、何か機械で地面を掘るような音が聞こえた。小暮たちはそっちの方へ耳を澄ます。 「何やらあっちの方で大きな音が……。そこまで乗せてくれたら、葛城殿のことは許そう」 「了解でありますっ!」 鋼鉄の肩に吹雪と小暮が乗ると、再び発進した。 * 一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)とリリ マル(りり・まる)は調査結果を報告しに長曽禰を探していた。向こうも移動をしているので、なかなか見つからない。 「全く。こちらも協力しているのだから、少佐も連絡ぐらい少しは取れるようにして欲しいです……」 「それ、人のこと言えるでありますかぁ?」 リリは呆れるように言う。うるさいっとアリーセは一言返した。 「さて次はどこ行きますか……っと……わっ」 「おわっ……! おいおい、気を付けろよ?」 曲がり角でアリーセは長曽禰を発見し、ぶつかりそうになったところ足がもつれてしまった。幸いにも転びそうになったところで、長曽禰がアリーセの腕を掴んで阻止した。 「少佐! ……まさかこんな角でぶつかりそうになるなんて、生徒たちに加担してるんですか?」 「そんなわけないだろう。勘弁してくれ」 怜奈たちとの見回りを終えた後、長曽禰も別の場所を見回ろうと移動していた。すると今度はアリーセとぶつかりそうになってしまった……というわけだ。 「報告でありまーす……」 そんなやり取りを無視するかのようにリリは調査報告をがががーっと出して長曽禰に伝える。その報告をふむふむ、と長曽禰は目を通した。 「食パン制作会社の購買工作だぁ? 確かに手段として必要なら売り上げもあがるよな……。まぁいいだろう。 お前たちはぶつかる事故が無いよう、見回りに移ってくれ」 「「了解であります!」」 * 「はいここ工事中だから、下がって下がってーっ」 トマス・ファーニナルはパートナーたちと共に道路工事を行っていた。こう見通しがきかない道で、事故を無くすにはどうすればいいか。 長曽禰とも連絡を取り、ここら一帯の道路整備をしようということになった。特別な標識を付けたり、ミラーを見やすく設置してみたり、と着々と進んでいる。 「おい、ここで何をしている?」 工事の音を聞きつけて小暮がやってきた。吹雪のパートナーである鋼鉄に乗せられ、たどり着いたのだ。 「見ての通り、道路整備だ。ああ、そこのあたりは地面を平らにするから、少しどいてくれないか」 「何を勝手な! 見通しが良くなったらぶつかる確率が低くなるじゃないか! 40.22%が50%代になったのにこれでは30%代になってしまうではないか……っ!」 道路整備がそんなに嫌なのか小暮は捲し立てた。 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)はやれやれというような表情で、小暮に言う。 「小暮君、わからないでもないけど、人命がかかっている。死んだら元も子もないだろうに」 「しかしっ……!」 「そうそう。誰かと出会う前に、転んで死にたいってなら別の話だけどさ。皆そうじゃないんだろ?」 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)も子敬と同意見のようだ。 「後で資金援助と女性相手のレクチャーをしてやるからさぁ〜。大丈夫チャンスはあるって!」 トマスの浮ついたセリフに、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)はポカッとスコップで後頭部を叩いた。 「口より手を動かして欲しいものだわ。小暮少尉にも手伝ってもらいましょう」 「いててっ……。そうだなー。人は多い方がいい」 「死を防ぐためなのは納得したが……。自分はまだやることがある! さらばっ!」 工事が始まってはここに人は寄り付かない。ならばせめて他の場所に移ってまた出会いを探す……。一度は落ち込んだが小暮はめげなかった。いや、懲りない男であった。 「「「ああっ、せっかく人手が来たと思ったのに!」」」 ミカエラが道路を掘っていると、そこに通りかかった非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)に泥をふっかけてしまった。 「ごめんなさい、ちょうど今工事をしていて……」 「ああ、ボクの方もふらふら歩いていたのがいけないんだし……。調査に来ていたのだけど、音がするから何かと思って寄ってみたんですよ」 「貴公、平気かっ?」 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は泥をかぶった近遠に駈け寄り、身を案じる。近遠がかぶった泥をぱたぱたと落とした。 「大丈夫です。作業員でもないのに泥をかぶるっていうのも珍しいことですし」 「しかし、見たところ工事と言っても4人、とは少なすぎるかと……」 イグナは工事現場を見渡して言った。曲がり角はたくさんあるし、まだまだ道路整備の改善は広範囲に及ぶだろうと思ったのだ。 「ではボクたちは手が空いていますし、お手伝いしますか」 「貴公がいいのであれば……」 「いいのか? 僕たちは助かるけど」 トマスはありがたい、と二人にも安全第一ヘルメットを投げて寄こす。 非不未予異無亡病 近遠たちに付いてきた【分御魂】 高御産巣日大神(わけみたま・たかみむすびのかみ)と【分御魂】 神産巣日大神(わけみたま・かみむすびのかみ)。 曲がり角で出会う迷信とやらにかられて調べる近遠たちを茶化す目的で来たのだが、何やら霊的な気配を察知し、そっちに意識が行ってしまった。 気配を感じやすい工場の屋根の上へと昇る。 「おぬし、感じるか? 少女の霊だ。見えるな」 高御産巣日大神は神産巣日大神に同意を求める。 「わらわにもよく感じる。邪悪で引っ掻きまわすものではないから……、少し面白みにかけるわ」 「二人とも、何か見えたのですか?」 近遠は作業を中断して高御産巣日大神たちを見上げて聞いた。 「知らせた方がいいのかな?」 「まぁ、でないとこの煩い工事も続くしな……。教えてやるとするか」 二人が感じ取ったのは、少女の霊だった。 彼女は病弱で、父親が働いている町工場で、寝たきりの生活を送っていた。父親の影響もあり、ベッドの上で勉強しながらも、シャンバラ教導団に入学する予定で療養を続けていた。 もう少し環境の良いところへ移ったらどうだと父親に言われていたが、この町工場が好きだからと言って放れなかった。 賢明な療養は良い方向には行かず、彼女は帰らぬ人となってしまった。 学校に行って、勉強して、友達をいっぱい作りたかった――。それが彼女の願いだった。 少女の思念だけは残り、いつしかマグネットのように人と 人をひき合わせるようになった。 私もたくさん新しい友達を作りたい。いいなぁ。 けれど、この少女の思念がだんだんと薄くなっていく事に神産巣日大神は疑問を感じた。 「ぶつかる確率が高くなるのはこの少女の思念のせい……。では何故濃くなるどころか薄くなっているの?」 「おそらく、徐々に未練が果たされていっているのだろうな……。元々何もしなくても、ここで出会いがあることによって、成仏に近づいているようだ」 小暮は、その声を聞いて、ならばデータなど集めても仕方が無かったのか……。とため息をついて工事現場の方へと戻ってきた。 「そういえば、シャンバラの教官もいたようだが……、貴公は連絡が取れるのか?」 イグナは小暮に問いかける。はやく事態を収拾した方がいいだろう。 「そうだな。原因がわかった以上はこちらにも取り締まる方にももう責任はないはずだ。しかしまだチャンスはあるはず……」 いや、次がんばれよ、諦めようよという工事現場組の視線が小暮に突き刺さる。 仕方なく長曽禰にコンタクトを取った。 「この町工場にいる者はよーく聞け!」 長曽禰は確かな情報だと確信し、少女の事を拡声器で皆に知らせた。 良い話だね。出会いの守護霊さんがいたんだね、と辺りから声が上がる。 「あれ、皆さんお揃いで」 源 鉄心(みなもと・てっしん)はティーとイコナたちを迎えにきた。これからゴンの店でカラオケパーティをする予定なのだ。ティーたちと遊んでくれているだろう鬼龍 貴仁も参加することになっている。 「どうせなら、ここにいる皆も招待しようか。それぞれ、色々な人と出会えたみたいだしね」 鉄心の元に駈け寄ってきたパートナーたちは賛成! と皆で打ち上げをすることにした。 長曽禰も誘われ、一時は断ったが、シャンバラ教導団の生徒が「少佐も参加してくれないとお代は少佐に付けます!」等と言われ、引っ張られるように同行して言った。 『仲良しになる人たちを見られて、私も楽しかったよ』 あの少女の声は誰かに届いているだろうか。少なからず、暖かい霊気がヒラニプラの町工場に漂っていたことは、誰もが感じとっていた。
▼担当マスター
かむろ 焔
▼マスターコメント
マスターを務めさせて頂きました、かむろ焔です。 皆様シナリオに参加くださりありがとうございます! 当シナリオを楽しんで頂けたら幸いです。 マスターページにも記載した通り、ご無沙汰しておりました。また改めましてよろしくお願いします。 小暮はとばっちりを受けていましたが、皆さんのおかげで良くしてもらえたようです。 また今後も良い出会いがありますように。