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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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【じゃじゃ馬代王】飛空艇の墓場掃除!?

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第4章 反撃の狼煙


「おおっ、派手な事が行われているようですね。」

 天井から轟く爆発音が鳴り響く中、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は気流コントロールセンター入り口に立っていた。
 彼とエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、敵の露払い役を引き受けたのである。
 進入前、高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は彼らにこう言った。

「唯斗、エッツェル……、殿(しんがり)はお願いね。」
「わかりました。」
「お仕事ですし、しょうがないですよね。露払いでもしておきますよ。」

 前述が唯斗で、後述はエッツェル。
 二人の性格はまるで違うが、理子が殿を任せるだけに二人ともかなりの腕利きのようだ。

「さて、そういう訳ですからこれより先へは入れさせません。」

 腕をポキポキと鳴らしながら、唯斗は言った。
 その目の前には、理子を捕らえようと追ってきたバンディッツの小隊がいた。
 リーダーらしき男は、無数の傷を負っている坊主頭の巨漢の男である。

「グヘヘッ、このボルティック様がラマーン(愛人)にしてやるから、さっきの女をよこせや。」

 ボルティックと名乗る醜悪な男は、レッサーワイバーンに跨り、手にした棘突きのポールウェポンを振り回していた。
 しかも、口だけではなく、その胸毛が特徴の肉体はかなり引き締まっている。

「武力に訴えても良いですが、お勧めしませんよ。どうか、大人しく見ているか、他所へ行って頂きたいのですが。」
「五月蝿ぇ!! 俺様は気が短けぇんだ!!!」

 ボルティックは、ポールウェポンで唯斗を殴りつけるが、唯斗はヒラリと避わした。
 だが、その一撃は、エッツェルに命中してしまう。

「さすがはお頭!! 一撃であの世行きだぜ!」

 バンディッツらに歓声があがった。
 エッツェルは大量の血液を撒き散らすと、そのまま床に倒れ伏したからだ。

「グヘヘッ、狙ったのよ。俺様はカッコ良いだけではなくて、頭も良いからな。」
「そ、そうですか……。それはお可哀想に……。」

 唯斗は鼻の頭をポリポリと掻くと、お悔やみの言葉を口にする。



 ☆     ☆     ☆



「何だと? …………!!!?」

 ウジュルッ――。
 その時、ボルティックの顔を、奇妙なモノが這った。
 蟲か? と思い、彼が顔をはたくと、粘液上の何かがドロリと滴り落ちる。

「痛っ!!?」

 ボルティックは鋭い痛みと恐怖を感じて、後ろに飛びのく。
 何かに触れられた瞬間、生きた心地がしなかった。
 ヒタヒタと忍び寄るような深い闇。
 不安、苦痛、恐怖が襲い掛かり、冷たい脂汗が流れ落ちた。

(何だ……、何だ……、一体何が起こったんだ……?)

 部下達は騒いでいるのに、声がまるで聞こえない。
 耳の中で水の滴る音と、キィィィンと言う不快な音だけが聞こえてくる。

「どうですか? 聴力を奪われた気分は?」

 目の前には、先ほど死んだと思われていたエッツェルが立っていた。
 両脇腹辺りから、血に塗れた6本の刃を伸ばした彼は、どこからどうみても怪物である。
 しかも、ポールウェポンで傷つけられた傷跡は、細胞が分裂するように、不気味に回復を遂げていく。
 ウジュルッ――、ジュルッ――、ジュルッ――。

「ぎゃああああぁぁぁ!!!!」

 ボルティックは絶叫しながら気を失った。
 その人間離れしたエッツェルの、能力にバンディッツの小隊は驚き、戦意を一気に失う。

「おやおや、適度に傷つけて恐怖させればと思いましたが、やりすぎてしまいましたか。フフフッ……。」

 エッツェルは、ズルズルとボルティックを引きずると脇に投げ捨てる。

「さてさて、次はどなたですか?」

 モンスターは静かに嗤う。



 ☆     ☆     ☆



「ば、化け物め……。」

 戦意は失ったものの、漢(おとこ)を売る商売の空賊は、引き下がる事は出来なかった。
 ここで引き下がるようでは、空賊生活の終わりを意味するからだ。
 だが彼らは、不気味な能力を持つエッツェルを狙わずに、唯斗に狙いを定めた。
 何だかんだ言っても、得体の知れない化け物は怖いらしい。

「やれやれ、結局こうなりますか。葦原明倫館、紫月唯斗。お相手します。」

 唯斗は両手を合わせて、【印】を結ぶ。
 すると、彼の足元から、激しい風と木の葉が立ち昇り、彼の【風術】に巻き込まれた葉っぱが、その姿をかき消していく。
 そして、風が消えた時には、唯斗の姿はなかった。

「はっ……、はははっ、奴め! 逃げおったわ! 卑怯モノめ、笑ってやれ! ははははっ!」

 バンディッツらは、指を差して笑った。
 だが、その中の一人乗りのヒポグリフに乗った男の背中で、もう一人の乾いた笑いが響いた。
 唯斗である。
 驚いた男は、左の肘で唯斗を殴ろうとした。
 しかし、フワリと身体が浮き上がり、そのまま地面に叩きつけられてしまう。

「もう少し、武術を磨かれたほうが良いですね。」
「野郎!!? 串刺しにしてくれるわ!」

 バンディッツらは、矢で射ろうと弓を手にする。
 ――が弓は、鋭利な刃物で切られたような痕があった。

「真空波……。なかなかの速度ですね。」

 エッツェルはそう呟く。



 ☆     ☆     ☆



「それにしても、空賊って人たちは、どれだけ飛空艇を食い散らかせばいいのでしょうか?」

 海上に浮かぶ、幾つかの小島の一つに降り立った、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、辺りの惨状に声を漏らす。
 折れた木片、壊れた機器――が臭気とともに、小島と小島の間を埋め尽くしている。
 いつも無邪気なノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)も、雲海のゴーグルを外し、少し悲しそうに呟いた。

「だよね。これじゃあ、どれが古代の船かわかんないし、海が汚れちゃうよ。おねーちゃん、どう? 何か見えそう?」

 ノーンに声をかけられたエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は、【ホークアイ】で遠くを見渡した。

「んっー、何も見えないわね。……いや、また敵ですわ。これじゃあ、落ち着いて、お宝探しなんか出来ませんわね。」
「ですね。とりあえず、エリシア様お願いします。」
「おねーちゃん、ワタシも宜しくね。」

 サササッ、とエリシアの後ろに隠れる。舞花とノーン。
 エリシアはため息を漏らすと、ホークアイで敵の動きを捉える。
 今回、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)に頼まれたのは、二人の護衛である。
 エリシアは、空飛ぶ箒ファルケに跨ると、一気に敵との距離を詰めた。

「2人を守るのはわたくしの役目。ごめんなさいね。」

 カシャン……ヴゥゥーン。
 魔道銃に、青白い魔力が篭った。
 エリシアの動きに気づいたバンディッツらは、左右に散るが魔道銃は、エリシアの瞳は、双方の動きを逃がさない。

【バシュッ!!!】

 そして、二つの魔力の弾が飛び出すと、弾は放物線を描き、敵が騎乗する馬の翼に命中した。
 だが、もう一発は僅かに進路を外れてしまう。

「ヘヘヘッ、残念だったな!!」

 バンディッツは銃を構えると、エリシアに向けた。
 しかし、エリシアは動かない。

「いつだって、魔女はきまぐれなものですわ。」

 そう呟いた直後、後ろからバンディッツを魔力の弾が襲った。
 爆発が起こり、敵は墜落する。
 弾はブーメランのように戻ってきたのだ。
 ノーンらは喜んだが、目的は果たしていない。
 【ユビキタス】で他の生徒に連絡を取り合うが、アンバー・コフィンに関わる情報を得る事は出来なかった。

「きっかけがあれば、何かが変わるかもしれないけれど……。」

 舞花は、地面に堕ちた木片を眺めながら呟いた。



 ☆     ☆     ☆



 そう……、状況と言うものは、きっかけ次第でコロリと変化する。
 戦場でも、戦場でなくとも、そうなのである。

「はっ!!!」

 この男は、それがわかっているのだろうか?
 刃のように大きな一本角のレッサーブレードドラゴン【わかばちゃん】に跨る、純白の三つ揃いのスーツを着た貴公子。
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)
 彼はレッサードラゴンを捕獲するべく、ロープの先に首輪を付けた物を投げていた。

「【野良】ということは、一度飼われて放置されてるドラゴンのはず。飼いならせないはずはありません。はぁ!!」

 当然の事ながら、敵はヒラリ、ヒラリと避わし、捕まえる事は出来ない。
 だが、その自信と威厳に満ちたエレガントなフォームに威嚇されたのか、敵は攻め寄せてはこなかった。

「にゃう……。そっちは気分が悪いにゃう。」
「ムッ? アレクス君の気分が優れないという事は……。【トレジャーセンス!!】」

 エメは両指で三角形を造ると、辺りを見渡した。
 機晶姫のアレクス・イクス(あれくす・いくす)の体調は思わしくなさそうだ。
 気流コントロールセンター跡の、動力源の機晶石が影響しているのか。
 それとも、アンバー・コフィンの影響だろうか。
 しかし、アンバー・コフィンの姿はどこにも見られない。

「おかしいですね。私の第六感とアレクス君の体調は、気流コントロールセンター内ではない場所を示しているのですが、どこにも琥珀の棺らしき物はありませんね。黒崎 天音(くろさき・あまね)君ら、からも情報伝達はないですし……。」

 頭をかしげるエメ。
 見渡す限りの海と空の狭間で、白き龍の使い手は悩む。
 悩んだ。
 悩……。

「戦場でふざけるな!」
「ブヘッ……。」

 そこへやってきた、キロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)がエメの頭を叩く。
 エメは頭を擦りながら、後ろを振り向くと不機嫌そうに言った。

「おや、キロっち? 随分と疲れているようですね。(怒ッ)」
「キロっちって呼ぶな!! キロっちって! それにオレがこの程度で、疲れるわけないだろ!」

 ――とは言うものの、キロスの身体はかなりの傷を負っていた。
 甲冑の肩当ても、額から流れる汗も、敵の返り血も、どれもこれも彼の活躍ぶりを示していた。

「ところでキロっち? どうして琥珀姫を探してらっしゃるのです?」
「……お前は、人の話を聞かないな?」
「目撃ポイントの情報があればいいのですが、これだけの人数がいるのに影すら掴めません。やはり、伝説は伝説なのでしょうか?」
「そうかもな。」

 キロスは、少し真面目な表情を見せると腕を組み、空を見上げた。

「でも、ただの伝説だとしても、五千年も前から伝わってるんだ。誰かがケリをつけなきゃな。」
「…………。」
「それが兄貴でも、他の誰でもなく、オレだって事だ。……おっと、話しすぎたな。そろそろ行くぜ。」

 キロスは手綱を握ると、翼竜の翼を広げさせた。
 そして、後ろを振り向くと、エメに尋ねる。

「ちなみにエメ。お前は、何のために琥珀姫を探してるんだ?」
「――あぁ、私ですか? もちろん、面白そうだからですよ。」

 エメは【わかばちゃん】の頭の上から、身を乗り出すようにして答えた。
 その表情は好奇心に満ちており、楽しくてしょうがないといった感じだ。

「それ以上の動機が必要ですか? 紅の龍騎士殿?」
「いや、立派な動機だ。」

 キロスはそう言うと、笑みを浮かべて、翼竜を奔らせる。



 ☆     ☆     ☆



「よし、この辺りは片付いたかな?」

 夜月 鴉(やづき・からす)は【ティ=フォン】を接続した【籠手型HC】で、身近な空域の座標を更新する。
 とても小さいが、小島を一つ奪い取ったのは鴉にとっても、アルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)にとっても幸運だった。
 特にアルティナはかなりの体力を消耗しており、フライングポニーから地面に降り立つと片膝を付いてしまう。

「はぁはぁ、はぁはぁ……。」

 初めての空中戦は、上手くいったとは言えない。
 【遠当て】も【火術】も、鴉のフォローがなければ、命中しなかった。
 【聖剣ティルヴィング・レプリカ】の戦力も、地上と空ではかなり違う。

「んっ、こっちにバンディッツの小隊が来るぞ。行くか、ティナ?」
「…………。」

 だが、アルティナは答えなかった。

「行ってください。わ、私には、飛ぶ為の……翼が無いんですから……。」

 幼き頃、翼を失ったヴァルキリー。
 飛べない事がトラウマになり、力の発揮できない自分が恨めしい。
 鴉は黙っていた。
 その間にも、敵は迫ってくる。

「主、敵が!!」
「わかっている。でも、俺はティナには、飛ぶ事を諦めてほしくないんだ。ティナの為にも。」
「えっ?」

 バシュッ!!!
 鴉は【バーストダッシュ】で一気に上昇すると、アプリの『フェンリル』を召喚する。
 携帯電話から飛び出した炎の魔獣は、周囲を火炎で包み込んだ。
 さらにその炎の膜から、稲妻が飛び出し、敵に命中する。

「主……。」

 孤軍奮闘する鴉だが、1対多数はやはりキツい。
 それを見つめるアルティナは、一人震えていた。

(主の言いたい事は、私には解りません。ですが、今は周りの敵を倒します……。)

 アルティナはフライングポニーに飛び乗ると、空に向かって駆け出した。
 【聖剣ティルヴィング・レプリカ】を構え、武器を爆炎で包み込む。
 そして、十字に大きく切りつけた――が、それを避わした一体がアルティナに迫る。

【氷術!!!】

 ザンッ!!!
 鴉がその一体を海に叩き落す。

「大丈夫か、ティナ?」

 鴉はティナを護るように前に出る。
 それを見ていたアルティナは、小声で呟いた。

(……空の戦い……私は、やはりそれが出来る人達が羨ましい……。)

 空は高く、果てしない。



 ☆     ☆     ☆



(甘い、北都は本当に……甘いですね。)

 クナイ・アヤシ(くない・あやし)は、後ろでニコニコと笑う清泉 北都(いずみ・ほくと)をそう評した。
 確かに北都の戦い方は、敵の羽根や顎を狙って、戦闘不能にさせる殺さずの戦い。
 何の為の【禁猟区】か、何の為の【超感覚】か、何の為の【行動予測】か。
 まぁ、こちらの都合で相手の領域に侵入したので、なるべく穏便に、殺さずに済ませたいと言う気持ちもわかる。

(しかし、敵がそれをわかってくれるかは別ですがね。)

 戦場では、優しさが命取りになるケースもある。
 北都らを狙っても死なないとわかれば、敵はこちらを恐れなくなる。
 バンディッツらなら、こちらの強さを推し量るかもしれないが、翼竜はどうか?
 無論、こういったケースも出てくるだろう。

「あれ、さっきのワイバーン?」

 北都が、トドメをさせなかった翼竜が戻ってきたのである。
 敵は先ほどにも増して、猛り狂っていた。
 その翼には、北都が先ほど命中させたサイドワインダーの傷跡が生々しく残っている。

「ギャアアアアッス!!!」

 敵は一気に攻め寄せてきた。
 だが、その刹那、動きを止める。
 なんと、羽根の一部が凍りついているではないか!?

「ブレスオブアイシクル……、この魔法のガムを噛むと吐息は凍てつく息吹となります。」
「クナイ!!」
「北都が殺したくないと仰るのなら、私はそれに従うまでです。」

 クナイは再度、息を吸い込むと凍てつく息吹で翼竜たちを墜落させていく。