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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

リアクション



stage1 交戦開始

「も、もうだめだ……」
 ≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が眠る遺跡前で、守護兵達は必死に≪アヴァス≫の侵攻を食い止めていた。
 しかしあまりの数に次々に負傷し、戦闘不能に陥っていく。
 武器を手放し、地面に尻を打ちつける守護兵。
 
 だが、既に戦う気力を失くした彼らに対して、≪アヴァス≫の先兵≪機晶ドール≫は容赦なくナイフを振りかざす。

 青ざめた表情で、身体を震わせながら≪機晶ドール≫を見上げる守護兵。

 その時――
「やらせないわ! 退きなさい!」
 【ゴッドスピード】で移動速度をあげたセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は、一瞬のうちに守護兵の傍に移動すると、黎明槍デイブレイクの棒の部分で≪機晶ドール≫を打ち上げた。
「今よ、真人!」
「任せてください」
 空中に舞い上がった≪機晶ドール≫に向けて御凪 真人(みなぎ・まこと)が【氷術】を放つ。
 すると、周囲の湿った空気が≪機晶ドール≫に絡みつくように覆いつくし、全身を捕らえる氷の呪縛となっていった。
 厚い氷に全身を覆い尽くされた≪機晶ドール≫がぬかるんだ地面に不時着し、半分ほど身を沈めた。

 真人は周囲で生徒達が交戦を開始したのを確認して、地面に尻をつけて唖然としている守護兵に近づいた。
「怪我はありませんか?」
「……あ、はい」
「そうですか」
 真人は安心したように笑いかけると、守護兵の手を掴んで起き上がらせる。
「俺達は後輩の頼みで助けにきました。
 ここは引き受けます。皆さんは最低限の治療を受けて、早急にこの場から離脱してください」
 守護兵達は真人の言葉に戸惑いながらも首肯していた。

「よし……」
 真人は振り返り、遺跡を背に戦う生徒達を見渡した。

 数メートル先から濃い緑色の葉を茂らせた森が広がり、木々の間には隙間なく雑草が生い茂っている。
 ≪機晶ドール≫は霧に覆われた木々の隙間から向かってくる。
 森のどこからか激しい戦闘音が聞こえてきた。

 真人は眼鏡のブリッチを押し上げて、息を吐いた。
「セルファ、少しでも敵の前線を後退させますよ」
「わかったわ!」
 ≪機晶ドール≫の攻撃を受け止めていたセルファは相手の腹部に蹴りを入れて吹き飛ばすと、黎明槍デイブレイクを十字を描くように振い行動不能のダメージを与えた。
 
 セルファが≪機晶ドール≫に向かって駆け出す。
「ごめんね。少し大人しくしててね」
 黎明槍デイブレイクとヴァルキリーの脚刀で攻撃を食らわすセルファ。真人は怯んだ≪機晶ドール≫を次々と氷漬けにしていく。
 その時――
「――っ!?」
 真人の傍に≪機晶自走砲台≫による砲撃が着弾する。
 瞬時に真人は【オーバークロック】を使用して、森に隠れた≪機晶自走砲台≫の位置を探り、反撃しようとする。

 ボォゥン!

 しかし、予測した方角から爆発音が突然聞こえてきたため、真人は【天のいかづち】を放とうとした手が一端止めた。
 そして籠手型HC弐式に斎賀 昌毅(さいが・まさき)から連絡が入る。

『こちら斎賀 昌毅。砲台は確実に俺達が処理しておく。
 それでも抜けちまった分はそっちに任せるけどな。
 ……そういうことで後はよろしく!』



******


 遺跡から少し森の入った所で、昌毅は迷彩防護服や【カモフラージュ】を駆使して周囲の景色に溶け込んでいた。
 迷彩用のシートを被りながら腹ばいになった昌毅は、機晶スナイパーライフルのスコープから駆けてくる≪機晶ドール≫の足に狙いを定める。
「いい子だ……」
 昌毅は慎重に距離を把握しながらトリガーを引いた――銃声が森の中に響く。
 さらに昌毅は続けざまに反対の足と手を打ち抜いていった。
「……よし」
 ≪機晶ドール≫が行動不能なったのをスコープ越しに確認して、昌毅は次の標的を探そうする。
 その時、少し離れた場所から昌毅の物とは違う銃声が聞こえてきた。
「那由他がなぜ……こんな泥だらけになって……」
 阿頼耶 那由他(あらや・なゆた)がブツブツと不満を漏らしながら機晶姫用レールガンのトリガーを引き、電磁加速した弾丸で≪機晶ドール≫の腕を貫き吹き飛ばした。
 那由他は昌毅と同じく腹ばいになって身を隠しながら攻撃を行っていた。
 それはつまりぬかるみの上に身体を置いているということであり、否応なく全身に泥が付着してしまうということでもあった。

「ぬが〜!!」

 突如、那由他が迷彩シートを吹き飛ばして、叫びだす。
「イコン馬鹿! 那由他をドロだらけにしたからには、帰ったらなんか奢るのだよ!」
 那由他は昌毅がいる方角を見つめるが、迷彩のおかげでその姿を発見することができなかった。
「なんとかいったらどうなのだよ!」
 返事がない昌毅に対して那由他が怒っていると、返事の代わりに茂みの一角が微かに揺れていた。
「マカフって奴は気味が悪いから付き合ったけど、こんなに泥だらけになるなんて……まったく、温泉くらいは連れて行ってもらうのだよ」
 ブツブツ文句をいいながら再び迷彩シートを被り、機晶姫用レールガンを構えなおす那由他。
 こちらに気づかずゆっくりと近づいてくる≪機晶自走砲台≫に狙いを定め、引き金に指をかける。
 今にも発射しようとしたその時――突如那由他の体が、宙を舞った。

「んわぁぁぁ! なんなのだぁぁぁ!?!?」

 那由他は叫びをあげて宙を舞いながら自分の傍を通りすぎていった物に見つけた。
 それは対物ライフルから発射されたドデカい弾丸だった。
 猛烈な勢いで駆け抜けた弾丸は、≪機晶自走砲台≫を掠っただけでバラバラにしてしまう。
「まずは一体撃破です」
 対物ライフルを発射した本人であるマイア・コロチナ(まいあ・ころちな)は、ニコニコ笑いながら次の弾を装填していた。
「それでは、もう一発いきますよ♪」
 マイアは重量のある対物ライフルを構えなおすと、あまり的を絞らず素早く引き金を引いた。
 スキルで強化された弾丸は、銃口から発射されると木々を薙ぎ払いながら≪機晶自走砲台≫に直撃してバラバラの機械片へと変えていった。
「ふふん♪ ガンガンいきますよ!」

『おい、おまえらっ!』

 マイアが楽しそうにしていると、昌毅が籠手型HC弐式から話しかけてくる。
『お前らこれがカウンタースナイプだって分かってるか?
 確実に狙いを絞って撃つんだぞ?』
『いいんじゃないですか? 倒せば皆一緒ですよ』
『いたたっ……そうそう、全て全滅させればいいのだよ。
 でも那由他を巻き込むのはやめてほしいのだ!』
『……お前ら』
 籠手型HC弐式を通して楽しそうに答えるマイアと那由他に、昌毅は呆れてため息をついていた。
 二人にはスナイパーの練習に付き合ってもうらために来てもらったが、どうにも予定していたようにはいきそうにない。

 ここまで来てあれこれ言っても仕方ないと思った昌毅は、気にせず自分の仕事をすることにした。