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水晶の花に願いをこめて……

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水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

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〜 最終日・午後 〜
 
 
 「一体何が目的なんだ、コタローの奴
  遺跡の保全のための調査をするには、夕暮れ時の方が良いとか言いおって」

夕暮れに近い、やや陽が傾いた頃、林道を歩く二つの影があった
その片方が何やら文句を言いながらざかざかと歩いている……林田 樹(はやしだ・いつき)である

 「大体、大まかな事は昨日で終わっているのだろう?
  だったら迅速に事は終わらせるべきなのに、バカ息子と共に事前準備があるだの何だの………
  おい、アキラ!聞いているのか?」

自分の不満に一向に共感しない隣人に、がぁっと噛みつく樹さん
それを愉快そうに笑いを堪えながら緒方 章(おがた・あきら)は返答した

 「いやぁ、樹ちゃんらしいな〜って、僕はコタ君のやりそうなことは何となく想像はつくんだけどね」
 「想像?……アキラ、一体それは何なんだ?」

ちょっとした事情でネタバレした事を棚に上げ、しれっと知らぬ存ぜぬの体で章が言う
すかさず質問する樹に、にやっと笑って手を握った

 「そうだね〜、それ言うと樹ちゃん逃げるから言わない」
 「は?…逃げる?!それは一体なんだっていう……ちょっと待て、引っ張っていくなっ、アキラ!」
 「ほらほら、仕事は時間厳守でしょ?遅れるよ」

そういって一気に手をつかんで走り出す章
引かれるままに誘導され、たどり着いた先に広がる光景に樹は眼を丸くした



自分の足元から、目の前の石の建造物に向けて真っ赤な絨毯が敷かれている
どうもその遠くに見える石の物体は、資料で見た噂の祭壇の遺跡だとは思うのだが……妙に花で飾られている
周りにはパーティーのように簡易的なテーブルがいくつかあり、なんか手の込んだ食べ物があったりする

どう見ても【めでたい席】である……誰かのお祝いをするのに相応しいというか
しかもなんだかそれなりにいるギャラリーが、ニコニコしながらこちらに視線を集めているのは何故だろ………


 「ほーらやっぱり逃げた♪コタ君!」
 「あいっ!」

瞬時に顔を真っ赤にした樹が踵を返し【バーストダッシュ】も顔負けのスピードで脱出を図るが
それを見越した章がすでに先回りして、ひょいと体をかつぎあげる

 「はーい確保〜、だから言ったでしょ?言うと逃げるって」
 「ばばばばばば馬鹿はなせ!おろせ皆が見てるっ!」
 「そりゃそうだよ、みんなが用意してくれたんだもん、微笑ましい光景だと思うよ〜」

ジタバタと肩の上に腹をのせてもがく樹に構わず、章はコタローから【不織布のヴェールのヴェール】を受け取った
そのまま降ろされた樹だが、未だ逃走の体制は崩さすまた移動を始めようとする

 「だだだだ駄目だっ!えっと…やっぱり私は逃げるっ!」
 「はい、アウト」
 「うわっ」

激しい樹の動きにもかかわらず、相反した優しい流れるような動きで彼女の頭にヴェールがかぶせられた
スキル【至れり尽くせり】の賜物だが、この際それをわざわざ言うのも野暮極まりない
しかしその効果はテキメンだったようで、途端に大人しくなる樹に思わず笑う章である

 「覚悟決めなよ、これ以上はみっともないですよ、中尉殿」
 「うう〜」

もはや真っ赤にうつむくしかない彼女にそっと近づく影
そこにはドレスを持った雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が立っていた

 「本当はもうちょっと簡素にって思ってたらしいんだけど、そうはいかないから
  しっかりと皆に見せてよ、【誰もが夢みる女の願望】ってやつを……ねっ?」




それから数分後

事前に許可をもらって借りた、発掘用のスタッフ控室の扉が開き、出てきた二人の姿に感嘆の声が上がる
そこには、雅羅が自分のコネクションを駆使して用意した純白のドレスを身にまとった樹と
同じく借りてきたシャンバラ教導団の式典用の白の制服に身を包んだ章の姿があった

樹のドレスはコタローが用意したヴェールに合うように、肩の出たシンプルな作りになっている
腰のラインが綺麗に出るように、最小限のスカートの広がりに螺旋上に重ねられた大柄のレース
髪もしっかり編みこまれ、本来のシルエットを伝えつつ、凛とした美しさを醸し出している
その胸には、奏輝 優奈(かなて・ゆうな)が苦心して作った無数のスイレンを象った水晶の首飾りが光っていた

ようやく覚悟を決めつつ、それでもギャラリーの視線に顔を赤く染めた彼女を促すように章の手が差し出される

 「綺麗だよ……うん、予想通り、すっごく綺麗だ」
 「そ、その………アキラ……お前は、大丈夫なのか?」

【それ以上褒め殺されたら私は死にます】と言う字を、顔いっぱいに表現しながら話しかける樹の言葉に
眩しいものを見る様に目を細めながら章が答える

 「うん、僕は平気
  こんな綺麗な場所で誓いを立てられるのって、素敵だと思うし……さ、行こうよ樹ちゃん……」

手を引かれ、二人は赤いカーペットの上を歩きながら祭壇の前にたどり着く
そこには真剣な林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が立っていた
手元の絵本はたぶん聖書がわりなのだろう、神父役を果たさんと頑張って台詞を反芻してるのが伺える
念のため隣に立っているレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)と眼が合うも大丈夫とウィンクを返された

 「しょうらいを と、ともにあゆむ お……」
(「おふたがた」)
 「おふたがた ちかいのあかしに ともに すいしょうに てを」

レティシアにガイドされながらのコタローの言葉に従い、二人は祭壇の水晶を共に手に触れる

 「おがたあきらさま、あなたは いっしょうをかけて いつきさんを あいすると ちかいますかっ」

いつもの口調は絶対にしないと何度も練習したのだろう
ゆっくりと、しっかりと言葉を告げるコタローに笑顔で頷きながら章が答える

 「うん、コタ君、僕は誓うよ」
 「つぎに はやしだ いつきさまっ あなたも いっしょうをかけて あきらさんを あいすると ちかいますか?」
 「えーっとあーっと…コタロー、私も…だ」

聞きたかった言葉を聞けたのか、コタローの顔がぱぁっと輝く
だがすぐに元の真剣な表情に戻り、しっかりと次の言葉を述べた

 「それでは ちかいのあかしとして やくそくのしょうちょうの こうかんをっ」

言葉と共に背後からペタペタと音がする
振り向くと木の箱を持った【ペンギン・アヴァターラヘルム】が歩いてきた
何やら傍に仏頂面の緒方 太壱(おがた・たいち)もいる
ペンギンによって差し出された箱を覗き込むと、銀のモールで作られたリングが二つ納められていた

 「えっと、これは…指輪の交換…?」
 「あっはっは、コタ君に準備されてたら、僕、甲斐性無しになっちゃうよー」

稚拙さと繊細さを併せ持ったそれが、目の前のコタローの手作りだと悟りそれぞれの感想を述べる二人
もう恥ずかしさと緊張で、顔が赤くなりっぱなしの樹に、ぶっきらぼうに太壱が呟いた

 「あのさぁお袋、これは子供のやることなんだからさぁ、そんなに慌てなくても…」

そこまで言って、太壱は思わず口をつぐむ。睨んでいる章の視線を感じたからだ

 「……太壱君、これは『子供のやること』だと思ってるのかい?
  世の中には【人前式】という形態があって証人の前で誓えば『本当のこと』になるんだよ
  だからこれだって立派な式なんです……わかる?」
 「わ、わかったから、親父…に、睨まないで、くれよ、ほら」

慌てた太壱の声に合わせて、ペンギンがずいっと木箱を前に出す
それをそれぞれ相手のサイズを取ると、コタローに促されそれぞれの手の嵌める
聞かれたわけでもないのに、それぞれの指にしっくりと収まる指輪にコタローの温かさを感じ
なんだかそこで、わけもなく涙腺が緩みそうになるのを必死に樹は堪える

 「それでは、さいごに ちかいの せっぷんを」

実はコタローは実際レティシアの作った言葉を覚えてるだけなので、細かい意味はあまりわかってない
言い終わった後、わずかに顔に浮かぶ【せっぷんってなーに?】という文字が目の前の光景に一気に四散し、赤くなった

それはもう鮮やかというか何というか……躊躇をさせない隙のない動作で、章が樹のヴェールを持ち上げ
速やかにおとがいを持ち上げて言葉通りの口づけをしたのである
しかも、散々いままで強引な前科があるにも関わらず
初々しい口が軽く触れ合うだけのそれに、湯気がたつほど赤面する樹

 「な……おま……私だって、心の……」
 「そんなも待ってたらプロポーズ位待たないといけないでしょ?
  もう待たないよ、何度だって追いかけるし、何度だって手を差し伸べる」

その宣言を目ざとく聞いた面々がキャーと騒いで拍手喝さいを始める
その騒ぎは誰ともなくはじまったライスシャワーに変わり、多くの物が、祝福の声と共に天高く投げ上げる

その銃弾雨あられのような攻撃に、ようやくいつもの調子を取り戻したのか
振り返った樹が不敵に笑ってブーケを振りかぶる


天高く投げ上げられたそれに

杜守 柚(ともり・ゆず)ルカルカ・ルー(るかるか・るー)小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がキャーといい
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)リリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)が歩み寄り

奏輝 優奈(かなて・ゆうな)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)が苦笑し
レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)が眩しそうに見上げ

リネン・エルフト(りねん・えるふと)霧島 春美(きりしま・はるみ)
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)達が何気に混ざり

ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)がよーしと腕を振りまわし
雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)を中心に一斉にブーケに向けて手を伸ばす




蒼空の空に舞うそれに手を伸ばすその手は
あの携帯に残っている遠い記憶……あの空いっぱいに願う映像のようだった