薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

CANDY☆TR@P

リアクション公開中!

CANDY☆TR@P

リアクション


第三章


「へえ、やるじゃないか山葉会長」
 次々とやってくる刺客をうまくかわしている聡の様子に、笹塚は感心していた。
「だけど、このままうまくいくかな? 次の刺客、頼むぞ」
「まかせておけ」
 笹塚の言葉を受け、企画段階からの協力者、蒼空学園校長山葉 涼司(やまは・りょうじ)は己の用意した手札を切る。
「雅羅、出番だ!」

――――

 フロアに顔を出した雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)
 長い髪をポニーテールに結び、色も黒く染めている。一見すると雅羅だとわからない。
 その隣には、雅羅とは逆に髪を下ろして帽子とメガネで変装している山葉 加夜(やまは・かや)、【桃幻水】を使って女の子になった想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が並んでいた。
「ごめんなさい、雅羅ちゃん。涼司くんが無理を言ったみたいで……」
「まったく、とんだ災難だわ」
 加夜の台詞に嘆息を一つ。でも、そこに重たいものは含まれていない。
「意外と乗り気みたいですね」
「そ、そうかしら?」
 変装していることで、少し楽しげ。それを悟られまいと、雅羅は夢悠に話を振る。
「夢悠も、そこまでして参加することじゃないと思うけど?」
「そんなことないよ! これはオレのためでもあるんだよ!」
 聡が雅羅をナンパしないため、否、雅羅が聡のナンパに付き合ってしまわないための参加。
「オレ頑張るよ!」
 そんな内心を雅羅と加夜は知る由も無く。
 男と男の娘。何も知らない聡が勘違いやら間違いを起こしてもおかしくないシチュエーション。
 女の子の姿でぐっと拳を握って意気込む夢悠に、
『が、頑張ってね』
 当たり障り無く応援しておくだけに留めた。
「そうだ。行く前にお互いの呼び方を決めないと」
「確かに、あだ名でも決めないとばれちゃうかもしれないわね」
 その提案に頷く二人。
 見た目は変装で何とかなるが、面識があるので名前も変えなければばれてしまう恐れがある。
「オレのことはユッチーって呼んでよ」
「それでは、私は何にしましょうか?」
「ひーちゃんでいいんじゃない?」
「いいですね。それでいきましょう」
 雅羅の言を了承する加夜。そして雅羅は、
「私は――」
『もちろんル○ン』
 即答だった。
「『三世』って言ったら」
「ねぇ?」
「『サード』だわ! それに私は女の子よ!?」
「それじゃ、アルセーヌにしましょう」
「それならなんとか……」
 あだ名も決まり、聡に近寄る三人。
「あの、もしかして、天御柱学院の生徒会長さんですか?」
 切り出したのは夢悠。
「そうだぜ」
「わあっ、どうしよう。写真で見るより実物の方がカッコいいよね?」
 あざとく相手に聞こえる程度で雅羅に耳打ち。「そ、そうか?」と、照れて頭をかく聡。
「暑い中お疲れ様です」加夜は冷たいジュースを渡して続ける。「学校は違いますけど、噂はたくさん聞いていますよ」
「ホント、よくあの学院の生徒会長に就任できたと思うわ」
 聡の学力などを知っていて、ついつい出てきてしまった言葉。雅羅の性格が高飛車な物言いをさせてしまった。
「もしかして俺、けなされてるのか?」
「そんなつもりは……」
「アルセーヌ、その言い方は褒めているように聞こえませんよ」
 すかさずフォローに入る加夜。
「生徒会長として頑張っている姿は素敵、と言いたかったんですよね?」
「も、もちろんよ」
 胸を張る雅羅。
「うぉ……」
「どうかした?」
「いや、なんでもないぜ……」
 なぜか口元を押さえ視線を逸らす聡。
 加夜は構わず、笑顔で誘いを掛ける。
「時間があればこれから遊びに行きませんか?」
「ひーちゃんの案に賛成だわ」
「それならオレ……ユッチーと一緒に行こうよ!」
 雅羅の前に出て、大胆に身を乗り出す夢悠。
 年齢を存分に生かし、ミニスカートから覗く艶やかな脚。
「うぅ……」
 その横には長髪を手で靡かせる仕草の美少女と揺れる豊満な胸の美女。
 流石に聡も陥落か、そう思われた矢先。
「アニマ、やれ!」
 柊 真司(ひいらぎ・しんじ)アニマ・ヴァイスハイト(あにま・う゛ぁいすはいと)に狙撃を命じた。
(了解です、マスター)
 照準を合わせ、構えていた対物ライフル。アニマの【スナイプ】で放たれたゴム弾は一直線に聡へ向かい――
「あうっ!?」
 ガラスを通過する際に軌道を変えて災厄体質の雅羅に当たった。
「どうして……こうなる、の……?」
『雅羅ちゃん(さん)!?』
 ガクッと気絶する雅羅。
「え? まさ――」
「ごめんなさい。今は彼女を運ばないと」
「しっかりして!」
 二人で雅羅を抱えて退場。
「まったく意味がわからないぜ……やっぱ今日の西地区は何かおかしい? にしても、これは……」
 一人残された聡は、穴の開いたガラスを見つめて呟いた。

――――

「まさか災厄体質がここに居るとはな。まあ、当てるべき相手は違ったが、目的は達せられたか」
 本来は聡を気絶させるつもりだったが、雅羅が居たせいで軌道が逸れてしまった。なんと恐ろしい体質なのか。
「新しい学院体制に新しい生徒会。ようやく落ち着いてきたというのにこんな事で波風を立てられても困るからな」
 真司は独り言を囁くと、先程から繋ぎっぱなしにしていた携帯に連絡を入れる。
「アニマ、直にその場所から離脱。証拠も残さないように」
(了解です)
 しかし、遅かった。
「逃げられると思っているのか?」
 笹塚が現れる。
「ちっ、もう着たか」
「俺の情報網を甘く見てもらっては困るな。今回の作戦参加者のスキルなど把握済みだ」
 仕掛け人として参加している中で【スナイプ】を使える人材は限られる。それを元に、笹塚は犯人を割り出したのだ。
「だが、ここで事を起こすつもりはない。会長に気付かれてしまえば元も子もないからな。それに、おまえは何か勘違いをしているかもしれない」
「はっ、よく言う。どうせあんたはスキャンダル目的なんだろ?」
「それは最後まで見ていればわかることだ」
 踵を返し、別室へと戻ろうとする笹塚。
「裏切りに対してお咎めなしか。随分と余裕だな」
「余裕? そんなわけじゃあない。これは一種のテストなんだ」
「テスト、だと?」
「ああ、見ていればわかる」
 その台詞を残してバックヤードへと消えた。
「アニマ、聞こえているか?」
(はい、マスター)
「俺たちはこのまま待機する」
(どうしてですか?)
「新聞部の真意を見させて貰うためだ」
(わかりました)
 通信が切れる。
「さて、何のテストか見届けるか」


「スパイ工作とは、この笹塚も甘く見られたな。だが……面白い」
 笹塚は通路である人物に連絡を取っていた。
「……なるほど、こういう行動も予測済みか」一呼吸置き、「どうやら彼らは単独犯。今の所、情報を流してはいないだろう」
 数々の修羅場を潜り抜けた観察眼はそう判断した。
「軽くではあるが楔も打ち込んでおいた。彼らのことは問題にしなくて大丈夫だ。しかし、どこからか漏洩していてもおかしくはない。あなたの目的のため、その辺りはお任せする」
 笹塚は通信を切ろうとして、
「……わかった。割れたガラスの修理費は彼に請求する」
 一文を返してから別室の扉を開けた。