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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

リアクション

「結構な弾幕だぜ!」
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は≪隷属のマカフ≫の機晶石が操作する大型機晶兵器のミサイルを回避しながら、広い室内を走り回る。
 動力炉前は大量のミサイルと銃弾の嵐であちらこちらに穴やへこみができていた。
「霜月、急いだ方がいいわ」
「そうですね。早く動力炉を止めませんと……」
 クコ・赤嶺(くこ・あかみね)の言葉に、苦い表情で応える赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)
 つい先ほど、街にいるミッツから連絡が届いた。
 要塞が街に近づき、砲撃が街に直撃した。それほど時間を待たずして要塞は街に侵入してしまう。なんとしてもその前に動きを止めて欲しい。
 そのような内容だった。
「まずは奥に――」
「やらせんのじゃ!!」
 先に進もうとした霜月に向かって、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)の放った武器が飛んでくる。
 背後に飛び退いて躱した霜月は斬りかかってきた刹那を狐月で受け止める。
「わらわを無視して先へ進めると思わんことじゃ」
「それでも、進まなくてはなりません」
「だからやらせんと行っておろうがっ!」
 刹那の刀にバチッと電流が流れ、霜月が咄嗟に離れる。瞬間、刹那の刀から轟雷が放たれる。
「そこじゃ!」
 離れた霜月を追って、刹那が連続斬りを仕掛ける。
 霜月は地面に着地すると同時に、飛びかかる刹那に抜刀術『青龍』を放った。

 轟雷を纏った刀と冷気を纏った刀が激しくぶつかった。

「ちぃ」
「くっ」
 衝撃波で靴底で床を滑るように吹き飛ばされる両者。
 霜月はすぐさま居合いの構えで刹那の攻撃に備えたが、向かってくる気配はなかった。
 ――先ほどからこうなのである。
 刹那はあくまで防衛に徹しており、一定の範囲に入った相手の迎撃だけを行っている。≪隷属のマカフ≫と共に動力炉を守っているといった感じだ。
「霜月、駄目。このままじゃ突破できないわよ」
「ええ。作戦を変えましょう。バラバラに攻撃するのではなく、連携して攻撃をしかけます。エヴァルトさんを呼んできてください」
 クコは霜月の指示で≪隷属のマカフ≫と交戦していたエヴァルトを支柱の陰へと呼び寄せる。
「なんだ? もう諦めたのか?」
 ≪隷属のマカフ≫が高笑いと共に支柱に向けて銃弾を叩きこむ。支柱が大きく揺れて上から埃が大量に降り注いだ。
 三人は各々で敵と交戦するのではなく、一斉に攻撃してまずは≪隷属のマカフ≫を、そして動力炉を破壊する作戦を立てる。
「自分が暗器使いを相手します。その間に二人は――」
「マカフの動きを封じればいいんだろ?」
「はい。お願いします」
 三人は役割を確認すると、支柱の陰から飛び出す。霜月は刹那に向かって、クコとエヴァルトが≪隷属のマカフ≫へ向かっていく。
「二人同時に狙えば勝てると思っているのか!?」
 ≪隷属のマカフ≫がミサイルを放つ。
 エヴァルトはクコの前に立つと、拳に炎を宿して身体を回転させる。
 拳から伸びた炎がミサイルにふれると、派手に爆発した。
 爆風の中をエヴァルトとクコは駆け抜ける。
「エヴァルト、それダメージはないの?」
「当たる前に叩いているからな。それにある程度のダメ―ジなら防具がどうにかしてくれる……熱いがな」
「ま、そうよね」
 クコはエヴァルトを追い抜くと≪隷属のマカフ≫の足元へと入りこむ。
「獣風情がうろちょろと!」
 ≪隷属のマカフ≫の腰から機関銃が狙ってくる。だが、右目の眼帯と手足に炎を宿したクコは、【麒麟走りの術】で青白い曲線を描きながら走り抜け、機関銃を破壊していく。
「小癪な!」
 ≪隷属のマカフ≫の乗る大型機晶兵器の背後から、格納されていた巨大なドリルが現れ、クコを狙ってくる。
 すると、

 ――ガァッ

 エヴァルトがドリルの先端を素手で止めていた。
 重量のある一撃を受けたことでエヴァルトの立つ床に亀裂が走り、周囲に衝撃波が広がる。
 ドリルが耳障りな機械音と共に回転が止まっていく。イヴォルヴァーのエヴァルトの手が傷つき、ポツポツと血液が流れる。
「痛ってえな……」
 エヴァルトはニヤリと笑ると、手に力を込める。
 すると、鋼鉄のドリルにヒビが入った。
「なっ!? 馬鹿な!」
 砕け散るドリルに驚きの声をあげる≪隷属のマカフ≫。
 エヴァルトの身体が緑色に輝く。
「お前はたくさんの人の傷つけた。そんなお前を俺は許さない。
 だから――それ相応の罰を受けてもらう」
 砕け散るドリル。≪隷属のマカフ≫の機晶兵器が驚きのあまり後ずさる。
 エヴァルトは拳を腰に溜め――
「その身で償えぇぇぇぇぇぇぇ!!」
 輝く拳を連続で叩きこむ。
 胴体部分に次々と拳の後が残り、機晶兵器が空中に浮いていく。そして――

「ちぇすとぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

 トドメとばかりに渾身の一撃を叩き込んだ。
 動力炉の入り口に吹き飛ばされた≪隷属のマカフ≫。
 外装の殆どが壊れ、まともに動けない状態だった。
「後は任せてください!」
 駆け出す霜月。
 その背後から襲いかかろうとする刹那をクコが止める。
「ここは通さないわ」
「退くのじゃ!!」
 斬りかかる刹那の攻撃を、クコは【分身の術】で回避すると蹴りをいれて吹き飛ばす。
「すまない。後は頼みます!」
 霜月はクコを信じて走る速度をあげる。
 向かってくる霜月に≪隷属のマカフ≫は迎撃しようと腕をあげるが、途中で地面に落ちる。
「隷属のマカフ……」
「!?」
 霜月は跳躍し、腰の鞘に収められた刀の柄を握りしめる。
 狐月【龍】が刀として力を覚醒させ、鞘から輝きが漏れ出す。
「皆を護る剣として、今、ここで、終わらせます!!」
 輝きと共に引き抜いた剣は、瞬間的に形状を変化させて空間を斬り裂く。光の速度をも越した一撃は、その形状を知覚させずに再び鞘へと収まる。
 そして――≪隷属のマカフ≫の機晶兵器が動力炉と共に真っ二つになった。

 要塞が大きく揺れ、予備動力でゆっくりと降下を始めた。


*****



「ん、揺れ――あ、バカっ!?」
 戦闘中に大きな揺れを感じた鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)はどうにかバランスをとろうとしたが、肩を掴まれ尻餅をついてしまった。
 掴んだ張本人であるは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は、どうにか転ばず立っていた。
「なにするんだこのバカが! 転んでしまったではないか!!」
「気にすんなや。どうせ誰もお前の子供パンツなど見とうないちゃうねん」
殺す! 後で殺す! 絶対殺す!
 顔を真っ赤にして、目を血走らせる偲。裕輝はそんな彼女を余裕な表情で無視して、視線を≪迷測のマティ≫へと向ける。
「どっかの誰かが動力炉でも破壊したんやろな。おかげであんたは絶体絶命……」
 動力炉を破壊された影響からか、≪迷測のマティ≫の動きは鈍り、室内の儀式装置の防衛機能は低下していた。
「ま、そんなことせぇへんでも楽勝やったけどな」
 裕輝は≪迷測のマティ≫が乗った機械が振り下ろすチェンソーを避ける。すると、そのチェンソーが粉々になった。
「こういうことや。避けるついでに攻撃を加えていたっちゅうわけや」
 裕輝がゆっくり≪迷測のマティ≫と近づき、振り下ろされたもう片方のチェンソーを回避すると、軽く脚を触れるだけでまたしても粉々になった。
 目の前に止まると、裕輝はカプセルの中で眠ったように目を閉じている≪迷測のマティ≫を見上げる。
「……終わりや」
 両手のチェンソーを失った≪迷測のマティ≫が裕輝を掴みにかかる。
 裕輝はただ軽く体を動かした動作の中に常人が気づかぬ攻撃を織り交ぜて、伸びてきた手を弾く。
 そして、≪迷測のマティ≫の膝から、胴を通って、肩へと登る。そして、カプセルの隣に立った。
「ゆっくり休めや」
 ≪迷測のマティ≫の機械兵器から降りる、裕輝。すると通ってきた所から、機械兵器が次々とバラバラになっていった。

 ≪迷測のマティ≫がやられたのを目にしたグレゴリー(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))が舌打ちする。
「もう潮時ですね……僕達も終わりにしましょう」
 グレゴリーが膝をついたアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)に剣を突きつける。
「さようなら!」
 喉を突き刺すように放った一撃。
 だが、その剣はグレゴリーの手から離れ、三号には届かなかった。
「っ――」
「大丈夫ですか、三号さん!?」
「結……和……?」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)が放った【マジックブラスト】が剣を弾いたのだ。
 結和はグレゴリーから守るように三号の前に立つ。
「動力炉も儀式装置も破壊しました! もうこれ以上あなた達の好きにさせません!」
 防衛装置の止まった室内の儀式装置は、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が既に破壊していた。
 儀式装置二つは破壊され、動力炉は停止し、じきに要塞は地表に墜落する。
「……やれやれ」
 グレゴリーはため息を吐くと、睨みつける結和から遠ざかるように壁際まで後退した。そして壁に隠されたスイッチを押した。
 すると、壁が上にスライドし、奥の小部屋が現れた。
 その小部屋の壁には、機晶石が埋め込まれた巨大な目と≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が埋め込まれていた。
『随分と追い込まれたものだ……』
 巨大な目が瞬きをしたかと思うと、要塞内のスピーカーから老人の声が聞えてきた。
 その声が巨大な目が話しているのものだとわかったのは、グレゴリーが質問を投げかけたからである。
「これでもう終わりですか、『先生』?」
「先生? 僕が殺した……いや、違う。≪隷属のマカフ≫か!?」
 生徒達は一斉に武器を構えなおす。
『ふふ、そうだ。……よくぞ、ここまで追い詰めた。
 だが、早々と貴様たちに勝ちを譲る気はない!』
 ≪隷属のマカフ≫の機晶石が輝きだす。
 すると、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が周囲の金属を取り込みながら、身体を構成し始めた。
 床が、壁が、支柱が、次々と取り込まれていく。
『儀式は中断させられたが、これだけのエネルギーがあれば十分だ。後は復活した身体で街を破壊つくし、その過程で完全に復活すればいい。
 邪竜の……最強の肉体は私のものだ!!』
 老人の高笑い声がスピーカーから響く。
「くっ、させるか!」
 生徒達は止めにかかろうとするが、心臓の影響で再び動き出した防衛装置によって足止めされる。
「『先生』、おめでとうございます」
『うむ、グレゴリー。お前もよくやった』
 グレゴリーが≪隷属のマカフ≫に近づく。
『その功績を称え、お前の願い通り正式な弟子にしてやろう』
「ありがとうございます……ですが『先生』、実は僕の願いは少々変わってしまったので、『先生』にはそちらを叶えていただきたいと思っているんですよ」
『ん、なんだ言ってみ――!?』
 スピーカーから流れる≪隷属のマカフ≫の声が途中でノイズ音に変わる。
 グレゴリーが≪隷属のマカフ≫の機晶石に剣を突き刺していた。
「さようなら、『先生』。これが僕の望んだ願いです……ふふ、あはは」
 引きつったような高笑いをするグレゴリー。
 その光景を呆然と見つめる生徒達。
 すると、≪三頭を持つ邪竜≫の心臓が、身体の一部となった配線コードを伸ばしてグレゴリーを取り込もうとしてきた。
「なっ!? こいつ!?」
 引きちぎって距離をとるグレゴリー。
 ≪隷属のマカフ≫という制御をなくした≪三頭を持つ邪竜≫の心臓は、取り込むスピードを速めて周囲のあらゆるものを取り込み始めた。
 それは要塞を崩壊へと導く。
「このままではまずいですね。仕方ありません。
 ……勇敢な皆さん。お先に失礼しますね」
 グレゴリーは取り込まれて吹き抜けになった壁から要塞の外へと飛び出した。
「ま、待て!」
「ダメです、三号さん! 私達も脱出しましょう!」
 結和はグレゴリーを追いかけるために心臓の方へ向かおうとした三号を止める。
 エメリヤンにも説得され、三号は苦い顔でその場を逃げ出した。

 心臓が暴走したとの連絡を受けた要塞内の生徒は、次々と脱出を始める。
 ≪三頭を持つ邪竜≫の心臓は、吸収と巨大化を繰り返しながら、金属部品で構成された三つの首を持ったドラゴンへと姿を変えていく。