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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫

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第九章 終結


「終わったみたいだな」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、役目を終えて消えていく光の柱を見上げて、ホッと胸を撫で下ろす。
 そんな時、傍にいた早見 騨(はやみ・だん)が突然震える声で呟いた。
「……そんな……タイマーが止まってる」
 騨の視線の先、≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむが眠るカプセルの治療完了を知らせる表示が止まっていた。
 進むことない数字と『ERROR』の文字が交互に表示していた。
 カプセル全体に目を向けると、取り込まれそうになった際にぶつけたのか、蓋にいくつもの亀裂が出来ていた。
 騨は悔しくて、泣きたくて、それでも必死に堪えようとしていた。
「せっかく、助けられると思ったのに!」
 カプセルの表示を叩く騨。
「なんで……なんでなんだよ……」
 どうしたらいいかわからず、誰に怒りをぶつければいいのかわらかず、騨はただ残酷な運命を非難することしかできない。
 脳裏をあゆむと過ごした約一年の思い出が蘇る。

 失った大切な人に似ていたあゆむ。
 メイドなのにドジばかりで、でも一生懸命で。

 僕のために一生懸命になって親子丼を作ってくれたあゆむ。
 今度こそ大事にしたいからと、優しくしすぎたら、ダメな時はちゃんと怒って欲しいと、キャンプファイアーの前で言われた。

 家族のことを気にしているあゆむのことを調べて、副作用ことを知った日。
 すぐに話せなくて、ショックで数日間あゆむと顔を合わせるのが辛くなった。

 事実をちゃんと伝えた時、笑って受け止めてくれたあゆむ。
 あゆむとこれからも一緒に過ごすために、絶対に、助けてみるって決めた。


「……決めたのに」
「……騨」
 周囲の生徒もかける言葉が見当たらず、ようやくダリルが手を伸ばしたその時――突然、完了の合図と共にカプセルの蓋が開いた。
 目を丸くして驚きつつ、慌ててあゆむに近づく騨。
 穏やかな表情で横になっているあゆむに呼び掛ける。
「あゆむ……あゆむ?」
 しかし、呼んでも返事がなく、身体を揺すっても、頬を叩いても返事がない。
「あゆむ! あゆむ!」
 青ざめる騨。
 やっぱり連れてくるんじゃなかったと後悔した。
 家で待たせておけば、もう少し時間が――
「むにゃぁ、それはあゆむのお菓子ですぅ……」
「…………は?」
 その時、あゆむの口から寝言が聞えてきた。
 騨は徹夜であゆむがお守りを作ったことを思います。
「…………なんだよ」
 気が抜けた騨は顔をあゆむの胸元に埋め――泣いた。


 戦闘終了の知らせが全生徒に届き、各々が勝利の喜びに浸り始める。


「二人とも私が助けなかったら、邪竜の下敷きだったわよ。わかってる?」
「わかってる、わかってる。ありがとね、芽美ちゃん♪」
 月美 芽美(つきみ・めいみ)に叱られながら、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)に傷の治療をしてもらう。

「お店の人はまだですかね?」
「あのな。戻ってきてもすぐには店は再開しないと思うぞ」
 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)グレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)と一緒にジャンクフード店の前で、残りのハンバーガーを食べながら店員の帰りを待っていた。

「おわった……」
「お疲れさま」
 飛空艇に乗った住民が戻ってくるのを眺めていた玖純 飛都(くすみ・ひさと)に、リネン・エルフト(りねん・えるふと)がミネラルウォーターを差し出す。
 すると、飛空艇で手当てをした子供が、飛都の所へ走ってきて感謝を告げ、立ち去った。
「よかったわね」
「……うん」

「これで解放です!」
 賑わってきた街のど真ん中で【ちぎのたくらみ】で少女になっている月詠 司(つくよみ・つかさ)が、元の姿に戻れることに大喜びしていた。
 すると、ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)がなんの予告もなく【ちぎのたくらみ】を解除し――成人男性の司は素っ裸になった。
「…………」
 周囲の視線が注目し、騒ぎ出す。
 そして、司は街の警備兵に追いかけられた。

 ミッツは元に戻ったジェイナスに肩を貸しながら、久しぶりに実家へと向かっていた。
 その途中で、ジェイナスが眠そうに目を覚ます。
「……ん、ここは?」
「ああ、起きたか。お前、寝過ぎだぞ。ほら……」
 ミッツは足を止めて空を指さす。
「もう夕方だ」
 そこには鮮やかな黄昏色に染まる
 タシガン空峡沿岸部――ツァンダに所属する小さな街≪ヴィ・デ・クル≫の夕焼け空があった。


(END)

担当マスターより

▼担当マスター

虎@雪

▼マスターコメント

 初めまして、またはお久しぶりです。
 『戦火に包まれし街≪ヴィ・デ・クル≫』のリアクション製作を担当しました。虎@雪(とらっとゆき)です。

 始めに、リアクション公開が大変遅れてしまい、申し訳ありません。
 皆さまに多大なご迷惑をおかけしたことを謝罪いたします。
 今後はより早くリアクションが書けるよう努力したいと思います。

 今回で≪アヴァス≫関連の話は終了となります。
 ここまで参加してくださった皆様には感謝してもしきれないほど、さらに感謝いたします。
 そして、楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

 いつものことながら素直な感想が聞ければと思っています。

 機会があれば、またよろしくお願いします。
 この度はありがとうございました。