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水着と海と触手もの。

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水着と海と触手もの。

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プロローグ

相も変わらずパラミタ内海を占拠しているタコは女の子に囲まれてご満悦の表情を浮かべていた。
「リア充は海に来るなー!」
「「来るなー!」」
 もてない男たちも相変わらずだった。
 海の家の店主達はそれを見ながらため息をつく。
「もう……今年の夏はお終いかもしれねえべ……」
「ば、馬鹿言ってんでねえ! 今に俺たちのことを助けに人がまた来てくれるだ! それまでの辛抱だべ!」
「おい! あれ見てみろ!」
 どこか遠くを見ていた店主の一人が遠くを指差し、他の店主達もその方角をジッと見据える。
 そこには、騒ぎを聞きつけてやってきた冒険者達の姿があった。



一話 大乱闘と触手もの

 人が人を呼び、タコの周りにいた男たちも数十人に上り、タコはおろか洗脳された女性冒険者を囲むほどの人数に達していた。
 芦原 郁乃(あはら・いくの)は水着姿で、そんな男たちの前に立った。
「んっふっふっふ……さあ、みんな、そんなにもててる人を毛嫌いしてないで、私と一緒に遊ぼうよ!」
 郁乃は水着の特製を最大に活かそうと前屈みになって、胸の谷間を必死に作ろうと試みるが、その中で男の一人が郁乃の姿を見て鼻で笑った。
「俺たちは十八歳以上の大人の女性がストライクゾーンだぞ! 胸の谷間が出来るようになってから出直してこい!」
「「幼女は帰れー!」」
「私は十八歳だよ!」
「嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」
「嘘じゃないよ! ……くっそ〜! 桃花〜!」
 郁乃は悔しさから目に涙を溜めながら秋月 桃花(あきづき・とうか)を呼んだ。
「は〜い」
 桃花も同じく水着で浜辺を走りながら郁乃に駆け寄っていく。
 男たちはそんな桃花の姿──主に胸───を見て。
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
 思わず歓声を上げた。
 桃花が走るたびに胸に実った大きな実が揺れ、そのたびに男たちのテンションは上がっていく。
「うわ……ここまで反応が違うとすっごい腹立つ……」
「大丈夫ですよ、郁乃は桃花にとって一番魅力的で可愛いですから」
「うう……ありがとう……」
 郁乃は泣くフリをしながら桃花に抱きつき、思う存分ふかふかして見せた。
「おい! 幼女、今すぐ俺たちと場所を代われ!」
 郁乃は男のこのセリフに目をキラリと光らせた。
「……代わって欲しい? それなら桃花のお願いを聞いてあげてよ」
 そう言って、郁乃は桃花から離れる。
 桃花は男たちの前に立って、祈るように手を合わせた。
「あの……わたし、強い男性が好きなんです。だから、この中で一番強い男性には……郁乃と同じ……ううん、それ以上のことをしてあげますよ……?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「あと、紳士な方も好きですよ? ですからあそこの墨まみれの女性達を水で綺麗にしてあげてくださいね?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
 そのセリフとともに、男たちは皆一斉に周囲にいた元仲間に拳を振るい始め、女性冒険者に向かって海水をぶっかけ始める。
 怒号が響き、海の飛沫が舞い、肉がぶつかり骨に到達する音が木霊する。
「郁乃、こんな感じのお願いで良かったですか?」
「うん、バッチシだよ! さ、もう危ないから海の家まで避難しよ? じゃあ、後は任せたよ?」
「ええ、任せてください」
 そう笑顔で応えたのはミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)だったが、
「いや、俺たちはたまたま海水浴に来ただけで人助けに来たわけじゃないんだって」
 ミゼのマスターである十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)はいやいやと手を横に振って見せる。
「でも、あの状態が海水浴なんて楽しめないじゃないですか。……それに、あのタコに一言もの申さないといけませんし」
 そう言ってミゼは表情を固く強張らせながらタコを指差した。
「そこのあなた! 催眠術で女の子にご主人さまって呼ばせるなんて何を考えているんですか!」
「おお、ミゼが凄くまともなこと言ってる」
「催眠術で過程や方法をすっとばしてご主人呼ばわりされるなんて言語道断です! ご主人さまと呼ばれたいなら正しいプロセスを踏んで、」
「ダメだ! いつも通りだった! おい、真珠、宇佐見、ミゼを連れ戻すぞ」
 つぐむは頭を抱えながらパートナーの竹野夜 真珠(たけのや・しんじゅ)宇真美・暁の雷を身に受けし者(うまみ・あかつきのいかずちをみにうけしもの)に声をかけてミゼの方まで歩み寄る。
「いいですか? まずは身体に抗いようのない快楽を植え付けて価値観や倫理観を徐々に書き換えて自分好みに染めてからご主人さまと呼ばれるのが正しいプロセスなんです! そんな努力もせずに女の子を人形のように扱ってはいけません!」
「落ち着けミゼ! もうお前言ってること滅茶苦茶だぞ!」
「ワタシはいつも通りです!」
「余計に問題だわ!」
 そんなやり取りをしていると、つぐむはある視線と気配に気づく。
 その名も殺気。
 気がつけば男数十人がつぐむたちを取り囲み、目から光線を放たんばかりにメンチを切っていた。
「リア充だ……リア充がいるぞ!」
「リア充は殺せ! 死刑だ!」
「「死刑だ!」」
 殺気立った男たちの視線に絶えきれなくなり、つぐむは思わず苦笑いを浮かべる。
「ち、違うって! こいつらとは別にそんな関係じゃ……」
 つぐむの声を遮って、宇佐見と真珠がつぐむを挟むように立ち、
「つぐむさんには僕を食べるまで死んでもらっちゃ困るんですぅ!」
「つぐむちゃんには指一本触れさせないんだから!」
 火に油を注いだ。
「「死ねええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」」
 怒号と共に男たちはつむぐに目がけて突っ込んで来る。
「なんで俺!?」
「いいから、つぐむちゃんは下がってて!」
 真珠は男たちの前に立つと、サイコキネシスで砂浜の砂を巻き上げて、男たちの目を潰した。
「「ぎゃああああああああああああああああ!!」」
 男たちは全員目を押さえ、その場にうずくまる。
「まったく、つむぐちゃんとせっかくイチャイチャできると思ったのに海を占領するような人たちはお仕置きです!」
 真珠はそう言うなり、、魔杖シアンアンジェロを振りかざした。
 その瞬間、晴れた空から突然雷が男たち目がけて降り注ぐ!
 雷をモロに受けた男たちはその場に倒れていく、が数人つぐむに向かってなおも突撃を仕掛ける。
「つぐむさんに、触るなぁ!」
 宇佐見はその長い尻尾を振るって、男たちの顔面をぶっ叩く。
「ぐふっ!」
「うがぁ!」
 顔面を強打した男たちは砂浜に鼻血を落とすが、それでも戦闘の意志は揺るがない。
「このラミア、かなり強いぞ!」
「くそ、ラミアまではべらせるとは……あの男の守備範囲は恐ろしいな!」
 男たちが口々にラミアという言葉を呟き、宇佐見は徐々に顔を赤く染めていき、目に涙を溜め、
「僕は! ラミアじゃなくてドラゴンニュートですぅ!」
 大声で叫びながら口からプラズマブレスを放った!
 辺りは雷の光りで一瞬、白に染まった。
 その光景の中で男たちの悲鳴が聞こえ、視界が戻るころには周囲の男たちはすっかり黒こげになっていた。
「つむぐさん、僕、やりましたぁ!」
「ああ……うん、お疲れさま」
 つぐむは心ない労いの言葉を吐くと、死屍累々と転がる男たちの姿を見て、
「俺、海水浴に来たんだけどなぁ……」
 深いため息をついた。


 郁乃が放った狂乱という火に油を撒くように、藤林 エリス(ふじばやし・えりす)も水着姿で男たちを誘惑していた。
「はぁい、愛に飢えたオオカミさん達☆ お姉さんと遊ばない? ヤケドしちゃうくらいアツいアバンチュール、味あわせてあ・げ・る★」
 ウインクをして、胸を強調するポーズを作り男たちはエリスに向かって突撃を開始する。
 エリスはそんな男たちの必死な形相を見て、嗜虐的な笑みを浮かべる。
「あ〜あ、そんなに女の子に餓えてたんだ。 ほらほら、あたしが欲しかったら捕まえてごら〜ん」
 エリスは男たちに背を向けると、タコから引き離すように浜辺を走った。
 巨大タコの中心で輪を作っていた部隊が、一つ突出し、墨を被っているエリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)はその渦中のど真ん中にいながらなんとか指揮を執ろうと苦心していた。
「あなたたち! 何を狼狽えているの! 大人しく私の言うことに従いなさい!」
 エリザベータは空にも届きそうな声を上げて全体を統率しようと試みるが、これが悪手となった。
 その一声で正気(?)に戻った男たちは部隊の半数ほどになったが、その男たちは狂乱状態になった男たちを止めようとして内乱状態になってしまったのだ。
「く……! さすがに二、三日鍛えただけの連中ではすぐにメッキが剥がれてしまいますね」
「そんなに難しく考えることないじゃん」
 そんなエリザベータの前にオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)が現れた。
 彼女もやはり墨を被っており、瞳は正気を失っていた。
「この混乱の元を俺がぶっ飛ばしてくれば暴走してる奴らも元に戻るだろ? じゃあ、いってくる!」
 そう言うとオルフィナは一足飛びでエリスの元まで詰め寄った。
「てめえだなあの乱痴気騒ぎの原因は!」
 オルフィナはキッとエリスを睨むが、エリスは別段気にした様子も無く、
「そんなに怒らないでよ〜、ほらあなたも私と遊びましょ?」
 色っぽく科を作るとオルフィナを誘惑した。
 オルフィナは思わず生唾を飲み込むが、ハッと我に返り煩悩を振り払おうと首を左右に振った。
「だ、騙されないぞ! そうやって俺たちを混乱させるのが目的なんだろ! だったら悪いけど潰させてもらう!」
 オルフィナはバスターソードの柄を握り込んで空高く跳躍し、エリスに向かって振り下ろした。
 エリスはそんなオルフィナの攻撃を見て、ニヤリと口角を上げた。
「そんなお粗末な攻撃してくるなんて、洗脳されてるから思考が回らないのかな?」
 言うなり、エリスは空飛ぶ魔法で突出した部隊を丸ごと宙に浮かばせて、
「いっけー!」
 そのまま海まで放り投げた。
「うんうん、あれだけ海水に浸かれば頭も冷やすでしょ。さて、もう一度さっきのを繰り返そうかな」
 エリスはそんな事を言いながら、再び男たちの前まで歩み寄ろうと波打ち際まで歩み寄っていった。


 巨大タコの洗脳を受けながら、他の洗脳されている冒険者達の陣頭指揮をとっていたセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)は焦れていた。
 自分も含め、女達の身体をタコの墨まみれにしたまではよかったが、敵味方の区別がハッキリとついてしまい謀反を起こした男たちにピンポイントで狙われるようになってしまった。
「やはり、欲望ばかりで動く輩は信用できないな……」
 セフィーがやれやれとため息をついていると、
「総長」
 オルフィナがセフィーに声をかける。
「オルフィナ……あんた、なんでそんなに濡れているの?」
 セフィーは訝しげに身体だけびしょ濡れになったオルフィナを見つめた。
 顔こそ墨で黒くなっているが、それがかえって違和感を生んでいた。
「……まあいいわ、それより早く前線に戻りなさい。あんたにはやるべきことがあるでしょう?」
「ああ、俺がやるべきことはしっかりと思い出したぜ」
 その言葉を聞いた瞬間、セフィーは首筋を刺されたのを感じて、オルフィナから距離をとるが、
「オルフィナ、あんた……なに……を、」
 セフィーは視界が歪むのを感じながらゆっくりと意識を手放した。
 オルフィナは『普通の』墨をぬぐい取ると、セフィーを肩に担いだ。
「悪いな、もう俺の洗脳は解けてるんだ。セフィーもすぐに洗脳といてやるからな。いくぞエリザベータ」
 オルフィナはエリザベータを連れて、戦線を離脱した。


 日比谷 皐月(ひびや・さつき)に勧められて海に来た雨宮 七日(あめみや・なのか)
 海の景観だけ眺めて帰ろうと思っていたが、明らかに景観を損ねている巨大タコの存在に七日はご立腹だった。
「何なんですかあのタコは。折角の海の景色が台無しじゃないですか、とっとと排除しましょう」
 言うなり七日は霊鍵プラネタリアを構えてタコの前まで駈けていく。
 他の冒険者達が戦陣を乱してくれたおかげで七日は無事にタコの眼下まで辿り着き、攻撃を開始しようとするが、
「ヴウヴヴヴヴヴヴヴヴッ!」
──タコの予想以上に素早い触手の動きに囚われてしまう。
「きゃっ!?」
 タコの足は基本八本しか無いわけだが、巨大な身体で小さい物を掴む必要があるためかタコの足は八本の足から細かい触手が無数に生えており、七日一人の自由を奪うことなど造作もない所行だった。
「く……離しなさい! この化け物!」
 七日は動かない身体を動かそうと抵抗すればするほど触手が七日の身体を這いずり回る。
 最初こそ服の上を行き来していた触手たちだが、やがて服の中をまさぐっていく。
 ぬめった触手はタコの足というよりはウナギのようで、お腹や背中を粘液でまみれた触手が通るたびに七日の身体はビクッと震える。
「ふ……ん……っ!」
 七日は触手に這いずり回られるくすぐったさから思わず甘い声を漏らす。
 そして、
「ヴヴヴヴ!」
 タコは思いっきり七日に向けて墨を吐き散らす。
 身体を墨で汚された七日の目はトロンと潤み、
「ああ……ご主人さま〜! もっと触手をくださいぃ! ご主人さまの触手気持ちいいですぅ!」
 堕ちてしまった。
「やめろー! このエロタコー!」
 その光景を見て駆け寄ってきたのは青井場 なな(あおいば・なな)だった。
 が、
「ヴヴヴヴヴヴヴヴゥ!」
 触手に絡まれてあっさりと捕まってしまう。
「や、きゃあ!」
 ワンピースの可愛らしい水着の中に触手が入り込み、余すところ無くななの身体は撫で回されてしまう。
「や、やだやだやだぁっ! やめてよぉ!」
 肌を這いずってくる触手の感触に怯え、ななは大粒の涙をこぼし始める。
「ヴヴヴヴヴ」
 タコはひとしきりななの身体を弄ぶと、七日と同じように墨をかけ、
「あ……ご主人さまぁ……」
 ななもタコに堕とされてしまう。
「ななを離せー!」
 パートナーであるラズ・ベリー(らず・べりー)がななを助けるべく駆け寄ってくる。
「ヴヴ〜」
 タコはななを地面に下ろすと、触手から解放してみせた。
 ベリーははらわたが煮えるような感覚を覚えて、思わず奥歯を噛みしめる。
「よくもななを……!」
 それ以上の言葉は出さずにベリーはタコに向かって攻撃を仕掛けようとするが、
「ご主人さまに何をするんですか!」
 ななに突き飛ばされてしまう。
 予想外の攻撃に思わずベリーの思考は停止してしまう。
 ななは瞳をうっとりと潤ませながらタコを見上げる。
「ご主人さま〜! ボク。ご主人さまを守ったよ〜! 褒めて褒めて〜!」
「ヴヴヴ〜」
 タコは細い触手を出すと、猫を可愛がるようにななの顎を撫でる。
 ななも抵抗する様子も無く、ただ触手に身を任せていた。
 その光景がベリーの戦意を根こそぎ奪っていった。
 棒立ち状態のベリーにタコは触手を伸ばす。
「ヴヴヴ〜」
 触手は何かを求めるようにベリーの身体を這いずり回る。
 首やうなじ、脇の下、腰、背中、果ては足の指の間にまで触手は余すところ無く愛撫を始め、
「ふぅ……! んぅああっ!」
 抵抗する気力も失っていたベリーではあったが、執拗にあちこちを撫で回されて思わず声が漏れる。
 自分の身体を好き勝手に弄び、ななをあんな目に遭わせた張本人に嫌悪感を覚えている筈なのに、思わず甘い声が漏れてしまう。
自分の漏らした声に悔しさが募り、ベリーの目に涙が溜まる。
「ヴヴヴ〜」
 タコはその涙を見て、楽しそうに鳴き声を上げ仕上げとばかりに墨をかけてベリーは自分の意志を手放した。
「フハハハハハハハ! 素晴らしいぞ怪人タコキングよ! この砂浜は我らオリュンポスが征服したことを思い知らせてやるのだ!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は白衣をたなびかせてタコに命令を飛ばしている。
 もちろん巨大タコに名前などは存在しない。ハデスが勝手に名前をつけて、勝手に秘密結社オリュンポスの配下に置いただけなのだ。
 巨大タコにそんな自覚はまったく存在しないが、冒険者達を次々と洗脳していくその様はまるでハデスの命令で動く生物兵器のようであった。
「さて、女冒険者はいいが謀反を起こした男どもが邪魔になってきたな……。ならば、我が配下に排除してもらうとしよう。改造人間サクヤ! 暗黒騎士アルテミスよ! 眼前の敵を蹴散らしてこい!」
「はい……了解しました、兄様」
「了解しました……ハデス様」
 名前を呼ばれた高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は墨で真っ黒になりながらハデスの言うことを全うしようと武器を取り、戦陣に乗りだした。
 咲耶は黒いビキニにアルテミスは黒いワンピース水着を着ているように見えるが、彼女たちが身につけているのはタコの墨によるボディペイントなのだが、タコの墨の濃さに救われて水着を着ているようにしか見えなかった。
「アルテミスさん、まずはあの赤い車を壊しましょうか」
 咲耶が指をさした方向にはポンプ車があった。
「いいですね、そうしましょう」
 アルテミスは頷くと、二人はポンプ車に駆け寄った。
 そのポンプ車で放水準備を行っていたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)はこちらに向かってくる二人を見て思わず嘆息する。
「やれやれ、真っ先にこれを狙ってくるとは目ざとい話だ。さっさと準備しないとな」
 ジェイコブはポンプ車からホースを出してレバーに手をかけると、
「死ねぃ!」
 ジェイコブのパートナーであるフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)が攻撃を仕掛けてきた。
「くぅ!?」
 ジェイコブは放水を行うレバーを手放してフィリシアと距離を取る。
 よく見ると、フィリシアの顔にはタコの墨が掛かっていた。
「タコ様の邪魔をするのは許しません!」
 敵意剥き出しの視線をジェイコブに投げかけて、フィリシアはファイアストームを仕掛ける。
「くっ!」
 巨大な炎の渦が襲いかかり、ジェイコブはポンプ車の影に隠れて難を逃れ、巨獣狩り用のライフルを手にしてため息をつく。
「弁償金はタコに請求……なんて、できないよな」
 そんな愚痴をこぼしながらジェイコブはポンプ車から身体を出すと、レバーをライフルで撃ち倒した。
 その途端ホースは放水を始めて生き物の様に暴れ回り、
「うぶっ!」
 フィリシアの顔面に水が直撃した。
 その隙をついて、ジェイコブはホースを手に取りフィリシアとポンプ車を狙っていた咲耶たちに水を浴びせまくった。
「よし、これだけ浴びせれば墨も落ち……!」
 ジェイコブは先程まで黒い水着を着ていたアルテミス達が何も着ていないことに気づいて思わず絶句する。
「あれ……私……? へっ!? な、なんですかこの格好っ!?」
「えっ……きゃああああああああああ!」
 咲耶とアルテミスは手で身体を隠すとその場にへたり込んでしまう。
「な、何だかよく分からないがまずはこれを着てくれ、目のやり場に困る……」
 咲耶とアルテミスはジェイコブから防火服をもらうと大急ぎで身に纏った。
「これ……兄様の仕業ですよね、止めに行かないと! あの服ありがとうございました!」
 咲耶はアルテミスと共に顔を真っ赤にしてハデスのいる場所まで戻っていく。
「うう……わたくしは一体何を……」
「おお、フィリシア気づいた……!?」
 ジェイコブ、再び絶句。
 フィリシアはさっきの放水を浴びて水着がずれたせいで、形の良い胸がトップレスになってしまっていた。
「え……? き、きゃああああああああああああああああああああ!」
 フィリシアは片手で両胸を隠すと空いた片腕でジェイコブを思いっきりビンタする。
 乾いた快音が青い空に響いて消えていった。
 報われない。
 そんなことを思いながらジェイコブは白い砂浜に倒れた。