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デート、デート、デート。

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リアクション


●屈折するガールズトークの上昇と下降、そして立ち尽くす給仕の物語

 夜は大人の時間、というわけで、プールサイドにはカクテルバーもオープンしている。
 その一角に席を占め、グラスに映る赤い炎を宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は眺めた。キンキンに冷やした日本酒だ。空に炎の花、杯にも炎の花、また、楽しからずや。
「そういえば、地球にいた時に造り酒屋が冷やガーデンなんてやってたわね。ビアガーデンの日本酒版。外で涼みながら冷酒飲むの」
「冷やガーデン? そのような物があるのか……今度地球へ降りたときに行ってみるか」
 応じる玉藻 前(たまもの・まえ)も日本酒のグラスを手にしていた。頬に赤みがさしている。
「で、最近どうなの? 刀真とは」
「我か?」
 玉藻は苦笑いした。
「……まあ相変わらずと言ったところだ。あのヘタレ、我らを自分の物だと言うくせに、後一歩踏み込んでこぬ………望めば我らは応えるというのに」
 苦笑いが艶然たる微笑に変わっている。なぜだかむっと、玉藻から『女』を感じさせる香りがした。
「そういう祥子はどうなんだ?」
「私? 恋人はいるけど音信不通とか行方知れずでねー」
「訊かれたくない話であったか?」
「いいえ、慣れてるし」
「にしても行方不明か……それは便りの一つも欲しくなるな」
 それでもあまり、行方踏めいの恋人について触れるのは悪かろう、と玉藻は話題を刀真のことに戻した。
「あれの堅物ぶりにも参る。今さら誰に操を立てるでもあるまいに」
「彼ねえ、色んな意味で並の男ではないし……酒で酔い潰すとか一服盛るなんて通用しそうにないものね……。ついてまわって手を出してくれるのを待つしかないのかしら?」
「付いて回るくらいで済むなら、とうの昔に閨を共にしているよ……祥子も何か試してみるか?」
 祥子は意味ありげに笑んだ。
「いい男だと思うけどあなた達との関係を壊してまでってほどじゃない」
「別にその程度で壊れる物でもないが……気遣いは感謝しよう」
 その笑みに、玉藻もまた意味ありげな笑みで返礼するのである。
「閨だのなんだの……もしかして物騒な話?」
 ここで漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が二人のそばに着席した。月夜の手ではトールグラスが汗をかいている。氷が浮かぶモスコミュールだ。月夜はこれをほとんど一息で乾した。
「物騒? ガールズトークよ。月夜ちゃんもお入りなさいな」
 少しアルコールが回ってきたようだ。黒い水着姿の月夜は、その胸の辺りまでほんのり桜色である。
 空になった小夜子のグラスを手にし、からりと氷を回して祥子は言った。
「月夜ちゃんのほうは最近、刀真とどんな感じなの?」
「なな何ですかいきなり!?」
「あら動揺しちゃったりして、可愛い」
「祥子さんが突然すぎるのっ!」
 ところがそれは不用意な発言だったのである。
「『突然』というのは〜」
 するりと白い蛇のように、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が月夜に迫って、いきなり、
「こういうのを言うんです!」
 両手をわきわきと広げて、背後から月夜の胸を両側から鷲づかみにした。この四人中ノンアルコールなのは小夜子だけだというのに、一番大胆だったりする。
「ちょ……! やっ! 本当に突然すぎっ!」
「だって、『突然』のハプニングがお好きなんでしょう?」
「好きだなんて言ってな……あっ」
 二匹の蛸のようにくねくねと、小夜子は両手を自在に遊ばせた。蛸という表現は決して大げさではない。吸盤でもついているかのように、小夜子の指は月夜の果実に吸い付いているのだ。
「月夜さん……胸が小さいのが悩みでしたら、私がマッサージしてさしあげますよ?」
「やめてよ、気にしてなんかないんだから……んっ……いっ!」
「あれれ、痛くはしていませんよ? 優しく揉んであげてます。まあ、指先が少し、敏感なところをつまんだかもしれませんが……」
 小夜子の声に熱が籠もる。手の動きはますます巧みで、執拗なものに変化していた。
「い、痛くなんかなかったから……声が出ちゃっただけ……」
 月夜はいつの間にか抵抗をやめていた。小夜子の指がビキニの内側、日焼けしていない部分にするりと潜り込もうともこれを受け入れている。
 最初、驚いた月夜は躰を強張らせていた。ところがたちまち小夜子の技術が、彼女の芯を骨抜きにしていたのである。背もたれから離され、月夜の背中は小夜子の胸に受け止められていた。
「月夜さん……気持ちいいなら、もっとお願い、って言ってご覧なさい」
「そんなこと言えるわけが……」
「言えるでしょう? ここには私たちしかいませんよ。さあ、おねだりして下さいな。そうでないとやめちゃいますよ?」
 魂がゆらぐような快感と恥じらい、その両者に責められながらも月夜は小声で、
「もっと……もっと、お願い……」
 と声を洩らした。
「あら、いい眺めだこと」
 祥子は赤い唇に、グラスの氷を含んだ。
「うぬ、花火もいいが、月夜を眺めながらの酒も美味いな。これは洒落であるぞ」
 玉藻は言いながら顔を上気させ、左右の太股をすりあわせている。
 舌を月夜の首筋に這わせ、その微かな塩味に小夜子は恍惚となって呟いた。
「月夜さん、本当に可愛いですね……こんなに可愛いのに手を出さないなんて、刀真さんの気がしれませんね」
 と、いう言葉が呼び声になったとでもいうのだろうか。
「えーと……」
 この場の誰よりも真っ赤な顔をして、樹月 刀真(きづき・とうま)が立ちつくしていた。
 刀真はこの夜、彼女らの求めるままに給仕の真似事をして、今だって飲み物と軽食を取りに行ってきたところなのである。手にはその証拠である大きな盆があった。
 さてこういう状況で男は、どういう言葉をかけるべきなのだろうか。
 ――小夜子と月夜が絡み合っている。じろじろ見るつもりはなくても、目が吸い寄せられてしまうような乱れ方で。
「ふにゃあ〜…………あ? にゃー!!」
 まさしく天国から地獄へ。夢見心地だった月夜はようやくここで刀真に気づき、全身の毛という毛が逆立つような感覚に襲われた。
「にゃー! にゃあああーー!!」
 テーブルの下に置いていたハンドガンを取り出すや月夜はこれを乱射したのである。照れ隠しというのはバイオレンス過ぎないか。
「おい、落ち着け」言いながら玉藻は落ち着き払った様子で、刀真の盆から銚子を取ってテーブルの下に潜り込んだ。
「うーん。あの照れ方も可愛いですねえ」同様に小夜子もテーブルの下だ。
「刀真ったら愛されてるわね」
 言うなり祥子も、さっとプールに飛び込んで姿を消していた。
 ……一分後。落ち着きを取り戻したとはいえ、ぺたりと座り込んだ月夜の手から銃を奪い、刀真はひたすら肩で息をしていた。
「ふう……色々と危なかった。というか銃の乱射はマジでヤバイから落ち着け、な?」
 月夜が小夜子のなすがままになる様子を思い出してモヤモヤした気分になりそうになるが、常識的な発言して月夜をたしなめるだけの冷静さは刀真にもあった。
「ところで刀真さん」
 騒ぎが終わったと知って、ひょいと小夜子が顔をのぞかせる。
「元はと言えば刀真さんがはっきりしないから悪いのですよ」
「なに? 俺のせい!?」
「ありていに言えばそうです。この際、はっきりさせてください。今から質問に答えてもらいますよ。逃げずに即答しましょうね……いいですか?」
 その勢いに飲まれたか、刀真は真剣な表情で深く首肯した。
 小夜子も決意に満ちた顔で問いを投げつけた。
「刀真さんは大きいのと小さいのどっちが好きなんです? 女性の胸の話です」
「え!? なんか思ってた質問と違うぞ!?」
「いいから答えて下さい!」
「ん〜と……」
 刀真は逡巡した。小夜子。小夜子同様に出てきた玉藻。プールから上がってきた祥子。それに月夜。……四人の胸を注視しないよう気をつけたものの、どうしても目が行ってしまうのは仕方ないところだ。
「即答の約束ですよ!」
「わ、わかった。どちらかと言うと大きい方が良いかな……?」
 月夜が立ち上がって、千切るようにして刀真の手から拳銃を取り戻した。
 月夜の目は涙ぐんでいた。しかも吊り上がっている。
「え、いや、どちらかと言うと、という話でだな……おい」
 刀真は弁解しようとするも月夜はそのまま、肩を怒らせてプールに飛び込んでしまったのである。後はもう、呼べどなだめれど戻ってこない。
「なあ……俺が悪いのか……これも?」
 刀真は問うも、他の三人の答は問う前から予想がついていた。