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デート、デート、デート。

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デート、デート、デート。
デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。 デート、デート、デート。

リアクション


●Now and Forever

 スプラッシュヘブンは昼間と夜とでは、ぐっとその表情を変える。
 昼間のこの場所は太陽が地上に降りたような都で、はしゃぎ声や水飛沫が飛び交い、隅々まで笑顔があるかのような明るさだ。
 しかし夜のこの場所は、壮麗という言葉すら似合う神秘的な場所となる。まず照明は薄いブルーのものへと変化する。コールタールのように見える冷たい水、静寂のなか耳をなでる流水の音も心地良い。そんな中、今夜は花火が明滅してさらに幻想的な彩りを与えるのだ。
 渋井 誠治(しぶい・せいじ)シャーロット・マウザー(しゃーろっと・まうざー)と手を握りあって座っていた。
 昼間、二人で遊べるだけ遊んで、心地良い疲れを感じている身にこの静けさは心地良かった。
 今日、誠治はある覚悟を定めてこの場所に来ていた。陽が高いうちこそ、遊ぶことに集中することもできたが、夜ともなればもうだめだ。『覚悟』にばかり心奪われて、花火にまるで気持ちを向けられない。
「花火、綺麗ですねー」
 といった風にシャーロットが話しかけてきても、
「えっ」
「ああ」
「うん……」
 といった気のない返答しかできない。
 おかしいな、とシャーロットは思わないでもなかった。なにせつきあい始めたのが2019年の8月、この8月で丸三年となるわけだ。もう誠治のことなら大抵わかっている。だからシャーロットは理由を彼に問い糾さずとも、彼がなんとなく上の空である理由はいくつか想像できた。
 極端なくらい疲れているのか、なにかに緊張しているのか、すごく悩んでいるのか……。
 悩みがあれば教えてくれる仲だし、緊張しているといっても今日はバカンスだ。だとすればやはり疲れているのだろうか。
 だからシャーロットは誠治が気まずくならないで済むよう、一生懸命話しかけることにした。話していれば疲れも忘れるかもしれない。
「千輪に菊に牡丹……花火っていろんな種類があって、ずっと見てても飽きないですよねー」
 ちゃぷちゃぷと足で水を蹴立てたりして、明るく言った。
「しかも今回はプールで見れるんですもの。何だかいつもと違って新鮮でステキ……かもしれません」
 やはり誠治の反応はいま一つだが負けるまい。
「まぁ、私的には誠治と一緒にいられるだけで幸せなんですけどねっ!」
 何気なく口にしただけの言葉なのに、誠治は弾かれたように、
「うん、そうだな!」
 声を上げたのである。なんだろう……?
『誠治と一緒にいられるだけで幸せ』
 この言葉がまるでキーワードであるかのように誠治の頭に響いた。
 ――そうなんだ。
 自分が言いたいことも結局はそれに尽きるかもしれない。シャロと一緒にいるだけで彼は幸せだった。だから言おうと決めたのだ、一生一緒にいてほしい、と……結婚したいのだと。
 よし、いよいよ『覚悟』を実行に移すときが来た。
 最後の花火が開き、黄色緑赤に青……無数の光が星の雨のように降り注いだ。
「シャロ。聞いてくれ」
 誠治は立ち上がっていた。つられてシャーロットも立つ。
「オレ……台詞は用意してきてない。だから思いつくままに言うけど、聞いてくれ!」
「あ……はい。聞きます」
「ずっとシャロと一緒にいたい、シャロのことをこれからも守る、ヘタレなオレを支えてほしい、ああ、まとまらなくてごめん! これらの気持ちをシンプルに一言で言おう。オレと結婚して下さい!
 シャーロットは、絶句した。
 誇張ではなく、本当に頭の中がまっ白になった。
 まさかのプロポーズ。花火のクライマックスにプロポーズ。
 一秒して急激に、大量の感情が湧き起こった。
 驚愕。戸惑い……でもそんなものはごくわずかだ。
 喜び。……いや、それじゃたりない。
 歓喜! これだ!
 シャーロット・マウザーは突然、自分と彼とが宇宙の中心にいると感じた。
「う……ひっく……」
 溢れかえるものが涙となり目からこぼれた。
「ええっ! シャロ、ごめん、びっくりさせちまったか!? まさか嫌だった……?」
「違うんです、そうじゃないんです」
 シャロは涙をぬぐいながら笑顔を浮かべた。
「嬉しかったんですけど、何故か涙が出てしまうんです。何ででしょう……?」
 それでも後から後から、温かい涙が出てくる。拭っても拭っても収まらない。けれど泣くのは心地良かった。幸せの涙なのだから。
「ええと、泣いてばかりじゃダメですよね、ちゃんとお返事しないと……」
 シャロは涙を拭いて、にっこりと笑顔になった。
「喜んで!」
 二人に祝福あれ。
 二人の前途に光あれ。
 今ここに、『恋人同士』は『婚約者』の間柄となったのだった。