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リアクション
◆その12 結局最後はわけわからんやつが勝つ
「この俺としたことが、なんてザマだ。パイ拓がほとんど取れていないではないか」
森の中で非リアのパイ拓ハンターを励ました謎の人物、『ジェラシード仮面』はほんの少々いらだっていた。ピンチにかっこよく出現したのはいいが、時期を間違えたため、獲物がほとんど残っていなかったのである。
自在は何の為にあるか、教えてやろう……と意気込んだものの、パイ拓収集以外の用途に使ってしまった。なんともったいない。
「……」
そんな彼は最後のムカつくカップルをすぐさま見つける。
キャピキャピ、イチャイチャしながら森の中をさまよう二人組み。『妬み隊』隊長たる彼のどす黒い心に火をつけるに十分だった。今日は隊長じゃないが、まあ見せてやろう。
「リア充爆発しろ!」
今夜は大安売りだった。
「いきなり、【神速】+【自在】!」
『ジェラシード仮面』の秘奥義が炸裂し、カップルは吹っ飛ぶ。
「くくく……、いい形の胸ではないか」
女の方に近寄り胸元を開いた『ジェラシード仮面』は紙と墨を手にニヤリと笑う。
「ああ……」
恥ずかしそうにぽっと頬を染めたのは、実のところただのリア充娘ではなくミスノ・ウィンター・ダンセルフライ(みすのうぃんたー・だんせるふらい)であった。ちょっとヤバい臭いのする少女だ。
「綺麗に取ってね。僕、コレクションにするんだもん」
彼女は、パイ拓騒動は聞き及んでいて、自分のパイ拓を取ってもらうのが本来の目的というちゃっかりさん。きれいに取れたらコピーして大切にする予定だった。
ぷるるん、と期待に膨らませて、いい形の胸がわななく。
「もちろんだとも」
『ジェラシード仮面』は、ミスノの胸に紙を押し付けもみもみと型を取った。
「うむ。……ん」
ガチャリ、と……、不意に『ジェラシード仮面』の手首に手錠がかけられた。
「はい、お疲れさん。ちょっと一緒に来ようか。冷たい監獄がまってるぜ」
技を喰らいながらも任務最優先と何とかやってきたのは、ミスノの相方だったアストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)だった。
彼は、今夜、潜入&囮捜査で事件を探っていた捜査員だった。本来ツァンダが行動半径で空京まで出しゃばりたくはなかったが、少なからず蒼学生が噛んでるらしいと聞いて不埒なパイ拓ハンターを捕らえにやってきていたのだった。幸いミスノが放っておいてもキャピキャピしてくれるので簡単に引っかかってくれた。今日は大量。そろそろ引き上げるところだったのだ。
そもそもアストライトにとって恋人がいる≠リア充、所詮は一時しのぎのお遊びという感覚な上老若男女来るもの拒まず、パイ拓? いいぜむしろ尻拓どうよ? ぐらいの勢いでパイ拓狩りたちに見せつけ成果を挙げてきた。あとは“アイツ”さえ現れなければ今夜は上々だ。
「おまえには、弁護士を呼ぶ権利も黙秘する権利もない。まあ、人生そのものを反省しろや」
「……」
ブチリ。『ジェラシード仮面』はやすやすと手錠を引きちぎる。彼にとって戒めなど効果はないのだ。
「ほう……、ただのアンチャンじゃねえな」
アストライトは気合を入れて身構える。その彼が、何かを察知してビクリと身を震わせる。
「来た……、“アイツ”が!」
「……ん?」
思わず視線を向けたその先に。ガサガサと草を掻き分けて人影が近付いてくる。
暗闇の中から不気味な仮面が浮かび上がった。
「言っちゃったね? 言っちゃいましたねリア充爆発しろって?」
仮面の主の邪気が急速に膨れ上がる。
「や、やばい! 一旦休戦だ。仮面壊すか今すぐ選べ!」
切羽詰ったアストライトの声。
「今宵、宦官&神官を量産すべく、仮面雄狩る華麗に惨閃(参戦ではなく)!」
その正体は、仮面をかぶることによって精神に異常をきたしたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)であった。
リア充爆発しろの声あるかぎりいつでもどこでも現れる、リア充も非リア充も関係ないある意味全ての敵。その名も仮面雄狩る(おすかる)! 恐るべき狂人。
その目的は「よくぼう」を刈り取ること。男を宦官に、そう即ち。ターゲットは男の股間。だが、今夜のおすかるは更に変貌していた。
変な方向に覚醒し、女も髪の毛切れば(つまり頭を丸めれば)神に仕える神官になるしかないという発想のもと、正真正銘誰彼構わなくなっている。
もう、何人狩っただろう。この男が仕上げにふさわしい。
仮面雄狩る(おすかる)は、特殊武器、『選定鋏』を手に、『ジェラシード仮面』に向かって迫ってくる。
「ふ……」
『ジェラシード仮面』は怯まなかった。トリックスター気質でノリに生きノリに行く彼がここで帰ってはお話にならない。
変な仮面に狂った気配。だが、身体はナイスバディのリカインだ。
獲物の少なかった『ジェラシード仮面』は挽回すべくリカインのパイ拓を狙う。そもそも仮面同士な上に変態属性では負けてはいない。
無防備な胸。仮面雄狩る(おすかる)は守らなかった。
「リア充じゃないが爆発しろ!」
ジョギン!
勝負は……、一瞬だった。
『ジェラシード仮面』が相手の上半身を剥ぎ、形のいい胸をむき出しにするのと。
仮面雄狩る(おすかる)の『選定鋏』が交差されるのと。
「ぐっ……!?」
『ジェラシード仮面』は股間にいやな感触を覚えながらも、妬み隊隊長としての最後の力を振り絞り、リカインの胸に墨のついた紙を押し当てる。
ぷりぷりぷにっ。形のいいパイ拓が出来上がった。
「狩った……いや、勝っ……た! ……ぐはっ!?」
口と股間から血しぶきを上げながら、『ジェラシード仮面』の身体がゆっくりと倒れていく。
そこへ……。
「金! 色! バストオォォッ! ……何をやっているのだ〜、逃げるのだ〜!」
パイ拓ハンターたちを逃していた、マントの女が現れる。
「……」
一仕事を終えた仮面雄狩る(おすかる)は胸から墨をたらしつつも、新たな獲物に無言で迫る。金色バストの美しく長い黒髪……。こいつは神官になるのだ!
「バスト・サムライッ!」
金色バストが必殺技を放つ。
同時に2つの乳を放ち、左右から敵を攻撃して逃げ場を与えない必殺の一撃を与える。まあ単なるバスト強調のボディアタックなのだが。……というか、スキル【サイドワインダー】のような気がするのだが……。
金色バストの黄金率バストから放たれた衝撃波が、仮面雄狩る(おすかる)の仮面に命中する。
「……!」
ピシリ! 仮面は必殺技の威力に耐え切れず、ピシリとひびが入った。そして、崩れ落ちる。
「あ……」
リカインの美しい素顔があらわになった。
「ひゃっはぁぁぁ! ついでにもう一丁、バスト・サムライッ!」
金色バストは固唾を呑んで様子を見守っていたアストライトにも黄金率バスト攻撃を加えておき、相手が虚をつかれた隙に、捕まっていたパイ拓ハンターたちを逃す。
「ひゃっは〜! これにて終了〜」
華麗なポーズにマントを翻し、金色バストは去っていく。
それが、今夜のお祭りの合図だった。
「なんなの、これぇ!?」
戦いとは関係なく、取られたパイ拓を見つめていたミスノは不満の叫び声をあげた。
拓が少し斜めになっていたのだ。せっかく大切に取っておこうと思ったのに。コピーしておこうと思ったのに。これでは台無しではないか!
「――――!」
激怒のオーラを立ち込めて、ミスノはゆらりと立ち上がる。
【黄昏の大鎌】が軽くなる。それはもう、仮面雄狩る(おすかる)と並ぶ第三勢力になる勢いで。
ジョギン!
鈍い交差音が暗闇に響き渡り、そんなミスノのツインテイルの一旦を斬り飛ばす。
「……」
仮面はなくなったものの、しばらくは仮面雄狩る(おすかる)の気の残っていたリカインが条件反射的に動いていたのだ。
「いやあああああっ!?」
ジョギン! シャキシャキ……! 『選定鋏』の快音が鳴り響き、一瞬で正気に戻ったミスノを追い掛け回して少しずつピンクの髪を刻んでいく。
虚しい同士討ちだった……。
かくして、よくわからない連中の戦いも終わったのであった。