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リアクション
濡れないように傘と雨具を弁用する者、完全防水のため乗り物に乗って屋根のあるところまで登下校する者が目立つ。
だがそれとは反するように、雨を楽しんでる者もいた。
『雨ですよ雨!』
ネヴィメール・メルタファルト(ねう゛ぃめーる・めるたふぁると)は雨乞いが成功したかのように、小雨の中両手を広げて走りまわっていた。
もちろん雨乞いなんてしていないけれど、恵の雨と思えば嬉しいものだ。
「マッテクダサイヨ!」
アドハム・バスィーム(あどはむ・ばすぃーむ)もネヴィメールを負うように駆けている。
「こら、濡れるだろう二人とも! 全く……言うことを聞きゃしない」
龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)は無防備に飛び出したネヴィメールとアドハムを追って来た。
「傘を持ってくればよかったな……」
周りに人の気配はあまりなく、今のところ3人だけでそれ以外と入れ替わる可能性はないだろうが、仲間内だけでもやっかいだ。
「あー、ダメだってば。雨具なしじゃ」
仁科 耀助(にしな・ようすけ)ははしゃぐ二人の傍にいた龍滅鬼の下に駆けつけた。
雅羅のサポートとして見回っている。
「女、一人じゃ危ないぜ。特にその豊かな胸が冷え」
「やかましいっ! それに一人ではない!」
耀助が龍滅鬼の胸に飛び込みかねない勢いだったので、すかさず手でシャットアウトした。「ガード硬いなー。あれ、ツレか。間に合うかわかんないけど」
ちぇっと残念そうな顔をしながらも、雨具らしきものを持っていない龍滅鬼に耀助から三人分の雨具を渡された。
龍滅鬼が雨具を着用した時には、小雨になりすぐにもう雨は上がった。
「モウアメアガッテシマッタ……」
せっかくの雨を楽しんでいた、ネヴィメール(アドハム)はしょんぼりとした表情をする。
『ええ、残念です! ああでも、地面がぬかるんでて面白い!』
同じような表情を浮かべたアドハム(ネヴィメール)は、左右交互に足で地面をべちょべちょと踏んでみせた。
「ナント! マサニメグミノアメ。? ナゼ貴公ハワタシノスガタヲ?」
『それを言うならアドハムさんも! これが噂の入れ替わりと言うやつですよ!』
おおっ! と入れ替わったことに驚きを隠せず、面白がってお互い自分の顔に触れてみたりする。
龍滅鬼が二人の傍に駆けつけるが、もう遅い。
「メール、アドハム。何が起こって」
雨を降らしてくれてありがとうと言いながら、入れ替わった二人はさっきよりも軽快に走りだした。
『入れ替わった記念にお礼の舞を!』
「ソシテドロノシロヲツクルンデスカ?」
『素晴らしいっ! そうしましょう!』
「えっちょ……! 待て!」
汚れるから戻って来い、と龍滅鬼は二人を再び追いかける。
「トラブルっていうより、なんか楽しんでるみたいだぜ」
他に困ってる人がいるだろう……。と耀助は静かにその場を後にした。
《な……なんか変な奴もいるな。もっと面白い奴もいるかもしれない……》
くくくっと青い光は喉を鳴らすように笑う。
雨が上がったかと思えば、雨雲がまた厚くなり雨が降り始めた。
*
「えっ、また雨ぇっ?」
先ほど雨が止んだのを良いところに、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はシャンバラ教導団の使いで蒼空学園に向かっているところだった。
だいぶ降った後だったし、しばらくは降らないだろうと思って雨具無しに出てきた結果がこれだ。
「雨が止んだから今すぐ行こうなんて調子いい事あんたが言うから、こんな目にあったんじゃないの」
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はお使いを受けた言いだしっぺのセレンフィリティにじとっとした視線を送る。
「一応雨が止むまで待ったよ。けど蒸し暑くなっちゃったから、涼しくなるじゃない!」
「……まぁ、濡れても薄着で助かったわ」
《む、そこまで雨を嫌がってない……?》
「ん、今なにか聞こえた?」
白銀 昶(しろがね・あきら)は同行していたクナイ・アヤシ(くない・あやし)に、脳内に響いてくるような声がしなかったかと問う。
サー……と雨音にかき消されたのもあって、はっきりとは聞こえなかった。
鋭い超感覚を持ち合わせているため、強い何者かの気配は感じやすい。
「なんかぐぁーんって感じでですね」
「やっぱり! よし、んじゃもっかいやってみようぜ」
昶の提案に二人とも神経を尖らせる。けれど聞こえてきたのは今の頭に響く声ではなく、すぐそばから駆けてくる女性二人だった。
「ねぇ、立ち止まっていると濡れちゃうよ」
セレンフィリティが立ち止まっている二人を見つけ、話かけてきた。本降りになってきてもう既にずぶ濡れなのだが、早くどこかへ 雨宿りしないと風邪をひいてしまう。
「もしかして、ここで起こってる現象がわかったりしてない?」
ただ立ち止まっていただけではないだろうと、セレアナは見て取れたのだろう。
「まだわからないけど、変な感じがしたのは確かですよ」
クナイは超感覚を使おうとしたところだと説明する。それより、蒼空学園に行けば雨はしのげるので早足で向かった。
「到着が予定より遅れたのは雨のせいかな。その……大丈夫?」
蒼空学園に着くと、雅羅・サンダース三世が出迎えてくれた。その上、抱えている大量のタオルをすぐにくれる。
ふわふわのタオルに身をつつむと濡れた体を拭き始めた。何が大丈夫なのか、ふと四人は気になったが、寒くないか風邪ひいてないか、という意味だと受け取ったようだ。
「北都は大丈夫かな?」
昶が先に来ているはずの清泉 北都(いずみ・ほくと)を心配していると、本人が出迎えてくれた。
「雨には注意してって言ったのになぁ。けど無事に着いたし、二人ともお疲れ様」
北都は二人のかぶっているタオルの端を持ってごしごしと拭いてあげた。
「濡れちゃったってことは、そろそろね」
雅羅が窓の外を見ると、雲の切れ間が出来て雨が止みかけている。さっき降ってまた止んで、忙しい天気だなとため息を付いた。
「まだ水が滴っています、……よ?」
クナイ、いや昶(クナイ)は自分の髪を拭いていることにハッとする。
「何? 昶はクナイの真似?」
北都はおかしそうにぷっと笑う。
違う違うと入れ替わったことに反応して、耳や尻尾をぱたぱたさせているものの、説明がつかない。
「えっ、えっと……!」
「そうそう、クナイはその逆を。なっ、クナイ」
昶(クナイ)は自分の体をぽん、と叩き、ぺろっと舐める。
「(じ、自分で自分の体舐めるって変じゃないか?)」
「(毛づくろいなんてそんなもんでしょう?)」
ひそひそ声でクナイ(昶)は昶(クナイ)に耳打ちする。
「いつも以上に仲がいいね、感心感心。風邪ひかないようにはやく拭かないとな」
北都は可愛いなと二人の水気を取る手伝いを続けた。
「セレアナー、あたしもやってやって。髪長いから拭くの手伝ってよ」
「あのね、子供じゃないんだから……って、えっ嘘!?」
冗談だったらそんなに手伝わないわよ、と雅羅のツッコミなど誰も聞いていない。セレアナとセレンフィリティが入れ替わってしまった。
「あれ、あたしの前にあたしがいるーっ! 面白い!」
セレアナ(セレンフィリティ)は突然の変異に驚くが、同時に面白いと目を丸くした。
「面白いわけないでしょ冗談じゃないわよ、もう」
「むぐっ」
私の姿で何言ってんのとセレンフィリティ(セレアナ)の口を塞ぐ。
「はーい、こちらセレン! あー、じゃなくて」
セレアナ(セレンフィリティ)が鳴った通信機に出るが、セレンフィリティ(セレアナ)は通信機をひったくる。
「貸しなさい。……はい、了解しました。直ちに!」
金 鋭峰から地祇の調査と捕獲に行って欲しいと連絡が入った。
「もうセレンの体で行くしかないわね。行くわよ」
蒼空学園宛の物を雅羅に届けてもらうように預けた。
「私はあまり学園のそばからはなれないから、調査の方お願いね」
「うん、セレアナとあたしに任せといて!」
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