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葦原城下コイガタリ ~仁科燿助と町娘~

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第7章  軟派の際

 賊も半分以上を退治した頃、佐保と那由他が駆け付けた。
 引き連れてきた増援のおかげで、人数的にも燿助達が勝っている。

「燿助殿〜っと、なにやつっ!?」
「これも仕事なんでね」
(私は傭兵、前払い分は頂いているから戦うけどね……)

 先発組と合流しようとした佐保達の前に、日向 茜(ひなた・あかね)が現れた。
 だが、本心から佐保達の邪魔をしようとしていたわけではなく。

「あなた達に用はないわ。
 さっさと行ってちょうだい」
(賊が駆逐されるのは明らかだし、個人的意見を言えば連れ去ってった人は助けてほしいもの)

 茜も、燿助達と気持ちは同じだった。
 ほかの皆が通り過ぎるまで、茜と佐保は睨み合ったまま待つ。

「手出しは無用だからね」
「うむ、分かっておる」
(タイマンに横やりを入れるのは、あんまり感心しないしな)
「真田佐保、覚悟っ!」

 アレックス・ヘヴィガード(あれっくす・へう゛ぃがーど)へと一言、釘を刺して。
 茜の声を合図に、両者は地を蹴った。

「拙者、やるからには敗けないでござるよ!」
「ちっ……接近戦では私が不利だわ……」

 『スナイパーライフル』を手にする茜は本来、遠距離攻撃を得意としている。
 スキルも然りだが、佐保との距離は近付くばかり。
 一騎打ちは始終、完全に佐保のペースだった。

「これで終わりでござるよっ!」
「くっ……きゃっ!」
「そこまでなのだよ」

 短刀から繰り出される強力な技に、茜は膝をつく。
 アレックスが止めると、どちらも武器を下ろした。

「強いわね、真田佐保……」
「そなた、名はなんと申す?」
「茜、日向茜よ」
「そうでござるか……また、手合わせ願いたいものでござる」
「そうね、次は私が勝つわよ!」

 昨日の敵は今日の友、である。
 再戦を約束し、茜と佐保は握手を交わした。

「帰るわよ、アレックス」
「御意」

 目的を果たした茜とアレックスは、一足先に寺社をあとにする。
 一方の佐保は、遅ればせながら賊との戦闘へと赴いた。

「あはははー。
 悪いけど、あたし夏休みボケしてるから手加減できないのよ?」
「人質も助けられているようですし、遠慮は要らないわね」

 笑いながら、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は【その身を蝕む妄執】を発動する。
 幻覚を見せれば、賊どもがばたばたと焦り始めた。
 そこへ、【光術】を放つセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 一気にパニックへと陥れてから、『フロンティアスタッフ』で気絶させていく。

「で、どうなの、セレンフィリティ?」
「なにが〜?」
「夏休みボケよ。
 戦えば解消できるかもって言っていたでしょ」
「そうだったわね。
 緊張感のある空間に身を置けばいけるかなぁって思っていたんだけど、まだかなぁ。
 ってはい、そんなもの振り回していないで眠りなさい!」

 【女王の加護】にて固めた護りは伊達ではなく、セレアナもセレンフィリティも未だ無傷だった。
 血で血を洗うような激しさはないため、なかなか覚醒まではいかない模様。
 それでも全体の方針を変えることはせず【ヒプノシス】をかけて、ゆるゆると目が覚めるのを待つことにした。

「ようやく私の本気をお見せするときが来たようですわね。
 ハイナ様に代わって、私が成敗してくれますわっ!」

 と言い終わるより早く、東 朱鷺(あずま・とき)は賊の背後へと迫る。
 鋭い【百獣拳】で意識を落とせば、ふぅっと大きく息を吐いた。

「こやつを連れて帰れば、ハイナ様も喜んでくださるかしら」

 今回、愛用の『昂狂剣ブールダルギル』はお休み。
 万が一のため背に担いではいるが、流石に殺してしまうわけにはいかないのだ。

「っおい、危ないぜっ!」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。
 同じ【百獣拳】使い同士、仲良くやろうぜ」

 眼前の敵へ夢中になっていた朱鷺を救ったのは、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)の一撃。
 拳同士をこんっと合わせてから、次の賊を求めて走っていった。

「弱ぇ女子供を食い物にする奴は、俺が喰ってもいいよなあ……本物のナラカに行けるぜぇ?」

 音を立てて舌なめずりすれば、賊よりも悪役っぽい。
 カルキノスったら、賊の親玉へ恐怖の感情を与えたうえで【ナラカの息吹】を吹きかけた。

「おぉ〜すごいことになってるなぁ。
 あ、レオタードのお姉さ〜ん、終わったらオレとお茶しない〜?」
「燿助、女の子と見るとナンパする以外のことを知らないのかしら?
 悪いけど、私はもう売約済みなの」
「まったく見境ないんだから」
「そっかぁ残念だなぁ〜じゃあ陰陽師のお姉さんは〜?」
「とっ、朱鷺はっ……」
「やめておけ、燿助を好きになったら、泣くのはおまえだぞ?」
「なにやつっ!?」

 姿を見せた途端、その場にいた女性を次々とナンパしていく燿助。
 セレアナとセレンフィリティにふられたため朱鷺へ振り返るも、夏侯 淵(かこう・えん)に阻まれる。

「こやつはカルキ、俺は夏侯淵。
 よろしくな」
「かこうえん……って、歴史の授業で聴いたことがあるような……」
「うむ、魏国のだ。
 何の因果かこのような姿に再生してしもうたがな」
「僕っ娘じゃなく俺っ娘か」
「俺は女ではなくて男……」
「男の娘だったのか」
「何処に目を付けておる。
 俺は男だ!」
「紛らわしいなぁ」
「ええい、五月蝿いっ!」

 ボケたわけでもないのにいろいろと燿助からつっこまれ、じたじたと地団駄を踏む淵。
 行動も台詞も可愛すぎて、ついぽんぽんと頭を撫でてしまった。

「よ、よ〜う〜す〜け〜っ!」
「え?」
「なめるな〜っ!」
「あ〜あ、始まったぜ……まぁいいや」

 賊との戦闘そっちのけで、淵は燿助へと襲いかかる。
 頭を抱えながらも、カルキノスは現状を葦原明倫館で待機するパートナーへと連絡したのだった。