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リアクション
第三章 新たなる大英雄
「来たか」
部屋に入った朱鷺達を見るなり、新たなる大英雄はそう語る。
静かな雰囲気と、その奥にある圧倒的な力。
それを感じて、朱鷺はゾクリとするような寒気をおぼえる。
「あなたが……今代のドニアザードでありますか?」
小銃から手を離さないようにしながら、大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)はそう問いかける。
剛太郎の前では、ヒーターシールドを構えたソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)が不測の事態に備えている。
「……如何にも。我が今代のドニアザードであり、新たなる大英雄である」
「……長!」
「次代か。だが、もうそんなものは不要かもしれん。我の元に、シボラの全ての部族は再統合されるのだからな」
ドニアに、新たなる大英雄はそう言って冷たい視線を向ける。
その視線の冷たさは、かつての長を知っている者からすればありえないものだった。
「まずは、選別から行おう。不要なものを削り、残すべきを残そう。お前達は……まあ、いらんな。シボラに従うとは思えん」
続けて、新たなる大英雄の視線はシェヘラザードとドニアを捉える。
「次代のシャフラザード、そして次代のドニアザード、か。だが、過去の伝説はもはや要らぬ。いっそ、部族ごと消すか……」
「ああもう、完璧にダメになってるじゃない、おまえ!」
シェヘラザードの言葉には答えず、新たなる大英雄はぶつぶつと呟き始める。
「いや、待てよ。世界は広いのだ。まずは一度フェイターンの雷で焼き払って、残った者を部族として統合するのはどうであろうか……うむ、それがよい」
その姿に、剛太郎はぞっとする。
狂っている。
狂っている事にすら気付かず、狂っている。
その論理が破綻している事を、論理が破綻しているが故に気付いていない。
いや、気付いたとしてもソレを更に破綻した論理で説明をつけ、際限なく狂っていくタイプの狂い方だ。
人としては、完全にその枠を飛び越えている。
「友と大義を失った英雄など、単なる怪物に過ぎん。恨みはないが、止めさせてもらおう」
白砂 司(しらすな・つかさ)の宣言に、新たなる大英雄は呟きをやめてグルリと振り返る。
「無礼な。我は大英雄である。ただの英雄と一緒にするとは無礼千万」
「私も民間伝承の語り部の端くれ。英雄のなしたことはみな尊敬していますし、語り継いでいくことを誇りにも思います」
新たなる大英雄の言葉を遮るように、サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)は叫ぶ。
「でも、英雄は一人で成り立つものじゃありませんよね。民がいて、語り部がいて、ようやく英雄があるもの」
「何の問題もない。誰もが我の事を語り継ごう。今日より、そうなる」
「いいえ、貴女は英雄ではありません」
サクラコの激情を、新たなる大英雄は感情の無い眼で受け止める。
「シャフラザードさんだって、水晶の短剣という結末があってこそ英雄であった。だからって「黙って滅びよ」なんて言うつもりはありません。全力でお相手しましょう」
恐らくは、通じていない。
言葉は通じていても、話が通じていない。
人の論理は、もはや届かない。
それでも、サクラコは叫ぶ。
「ただ、私はあなたを語っていくと約束しましょう。それが私のできる唯一の餞ですから!」
「そういうことだ。お前とて、物理法則やダメージの類を無視できるわけでもあるまい。やらせてもらうぞ」
「ええ、いきましょう司君!」
司とサクラコに続くように、契約者達は武器を構える。
もはや、話すべき事は全て話した。
鍵となるのは、水晶短剣。
朱鷺の八卦の援護を受け、ソフィアの盾と剛太郎とアリアクルスイドの弾幕に隠れるようにしながら、涼介は進んでいく。
チャンスは、一度のみ。
その一度のチャンスを、最大限に活かさなければならないのだから。
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