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愛は平穏を乱します!?

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第五章 幸せって、どういうこと?

 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)泉 美緒(いずみ・みお)と一緒にデートの最後に立ち寄ったカフェ『アリス』でスペシャルケーキを食べていた。
 小夜子は、恋仲になったばかりの美緒との仲を深めようかと思い、遊園地のデートに誘った。ばっちり化粧をし、お洒落をしてきたのだった。
「スペシャルというだけあって、普通のケーキより豪華ですね」
 小夜子の脳裏を一瞬「カロリー」という単語がよぎったが、どこか隅の方に追いやった。
「ちょうど良いサイズですわね」
 そう言って美緒は紅茶のカップを傾けた。そのゆっくりと寛いでいるような美緒の表情を見て、小夜子は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
「そういえば、美緒は18歳になったのですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 小夜子の言葉に、美緒が上品に微笑む。
「大人の色気が出てきましたわね。最初に会った頃より、胸も大きくなったような……」
「そ、そうかしら……」
 小夜子に指摘されて、恥じらう美緒。小夜子は、美緒の唇の端にケーキのクリームがついていることに気付いた。
「美緒、頬にクリームが付いてますわ」
 そう言って頬に口付けをする小夜子。美緒はかあっと頬を赤らめる。
「そ、そんな取り方ではなくても……」
「嫌だったかしら……?」
「そういう訳ではありませんけれど……恥ずかしいですわ」
 そんな美緒を見て、小夜子は愛おしさが増していくのを感じた。
「今日は一日美緒と過ごすことができて、本当に良かったですわ」
「こちらこそ、今日は本当に楽しかったです。まだまだ一緒に楽しみましょうね」
 美緒の言葉に、小夜子は頷いた。そして、紅茶が冷めないうちに、とカップを口元に運ぶ。
「また小夜子と遊びにいきたいですわ」
 そう小さく付け加えた美緒に、小夜子は微笑んだ。


 *

 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)は、仕事の都合で空京の高級ホテルに夫婦で滞在していた。陽太は、要人警護とガードラインを使って環菜の周囲を警戒しながらも、ゆっくりとくつろいでいた。二人は鉄道の沿線地域に遊園地を建設することも考えて、興味深く遊園地の様子を見ている。
「この遊園地、いろいろと面白い企画をしているのね」
「そうですね。俺だったら、恋人たちにロマンチックな場を提供する方向で突き詰める方向性で考えるかな、と思います」
「それも素敵ね……」
 二人はケーキを食べながら、微笑み合う。
「神社近くの湖は、イルミネーションが綺麗でしたね」
「本当。観覧車からの眺めも綺麗だったわね……」
 周囲の席からは、時折カップルの囁き声が聞こえる。中には、子連れの夫婦や、膨らんだお腹を撫でている夫婦の姿も見受けられる。そろそろ、自分たち夫婦も子宝に恵まれたら……と、陽太は心の中で思う。
「ねえ、このケーキセットの秘密、知ってるかしら?」
 唐突に、環菜がふふ、と笑って訊ねた。
「秘密?」
「なんでも、このケーキを恋人同士や夫婦で食べた時に同じことを願いを抱いてると、ケーキに込められた神主の祈りが届いて、遠くないうちに叶うそうよ」
「神主っていうのは、あの神社の神主ですか?」
「ちらっとそんな噂を聞いただけだけよ。でも、本当にそんなサービスをしていたなら、素敵じゃない?」
 陽太の脳裏に、子供を連れた家族として遊園地に来る自分と環菜の姿が浮かんだ。そして、ケーキセットの紅茶を口に運ぶ。そろそろ夜のパレードが始まろうとしていた。
「この時間のパレードはイルミネーションが綺麗だと聞いたけれど」
「クリスマスの時期だし、きっと綺麗だと思いますよ」
 二人は外を眺めながら、そっと手と手を重ね合わせた。