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リアクション
杜守 柚(ともり・ゆず)は高円寺 海(こうえんじ・かい)と観覧車に乗る列に並んでいた。
柚は、海のことをもっと知りたい、少しでも距離を縮められたら、と思い遊園地に誘った。
「この観覧車から見る夜景が本当に綺麗だって、評判なんですよ!」
柚が少し手を引っぱって、二人は観覧車に乗った。ここからは空京の街のネオンが一望できる。柚は雑誌の写真で見た時よりも遥かに鮮明な光を、心底感激したように身を乗り出して眺めた。
「本当に綺麗……」
「さすが、絶景だと噂になるだけのことはあるな」
海も、眼下に広がる目映い光の渦を眺めて呟く。
「今日は一緒に遊べて本当に良かったよ。ここのジェットコースターは楽しかったな」
そう言って笑う海。柚は、海が楽しんでくれているのが嬉しく、誘って良かったと思った。
だが、一つだけ柚には気にかかっていることが合った。
それは、以前柚が海に「好きな人はいるか」と聞いたとき「ノーコメント」と答えられたことだった。海に、他に好きな人がいたら、と思うと胸が苦しくなるのだ。
「あの……、海くん」
柚は呟くように話しかけると、一旦言葉を切った。
「海くんって恋人……いますか?」
……まさか奥さんや子供が居るとか? だから言えなかったとか……。
心の中でそう考えただけで、柚は泣きそうだった。
「……今はさ、バスケットボールに打ち込みたいんだ」
「バスケット……」
「なんていうか、今はバスケットチームを作るっていう夢に集中したいんだ。もし、応援してもらえたら嬉しいんだけど……」
そんな海の言葉に、柚は小さく頷いた。
*
ジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)とフィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、じっと黙り込んだまま大観覧車のひとつに乗っていた。
切羽詰まったような表情のフィリシアが、ジェイコブを強引に連れ出すような形で遊園地に誘ったのだった。
「この観覧車からは空京が一望できるんだな」
観覧車内の張りつめた空気にジェイコブが会話を切り出すが、フィリシアは心ここにあらずといった雰囲気だ。
ジェイコブは女の子相手に何を話したらいいものやら分からず、戸惑いに苛立つ心をどうにか抑えようと表面は穏やかにしていた。
気がつけば、フィリシアが俯いている。その目の端には、涙が溢れていた。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
「あ、あの……わ、私は……」
掻き消えそうな声のフィリシアが、絞り出すように言葉を紡ぐ。
「私はっ……ジェイコブが好きなのっ! 本当に……本当に好きなのよ……!」
ジェイコブが言葉の意味を理解する前に、その唇をフィリシアの唇が塞いだ。予想外の出来事が立て続けに起こり、ジェイコブは呆然とキスされるままになっていた。
だが、その唇の柔らかな感触に実感が湧いてくるに連れてーーようやく、フィリシアがジェイコブ自身に対して抱いている想いを理解したのだった。
「……な、何だ、いきなりすぎるぞ!」
長いキスの後。フィリシアに向けて、ジェイコブはそう告げた。
「……お前の気持ちはよく判ったよ。あー、これからもよろしく頼む」
「それって……」
フィリシアの目から、一筋の涙が零れ落ちた。ジェイコブは、急に抱きついてきて静かな嗚咽を漏らすフィリシアの背に、不器用ながらも腕を回したのだった。
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