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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:弓と剣

 ギリギリと弓が悲鳴をあげる。
 風里の目は標的を捕えていた。指を離そうとするが――
「だらっしゃあああああああっ!!」
 叫び、剣を振り下ろしてくる青年の邪魔が入る。
 風里は撃つのを諦めると横っ飛びに攻撃を回避した。
 そこへ優里が剣を携えてやってくる。
「ごめん。遅れた」
「早いわよ……っ!?」
 休む暇を与えてくれる気はないのだろう。
 青年の背後、弓を構えている男性の姿があった。
「東雲はまだ装填が遅いな」
 指を離す。限界まで引かれた弦が自然な形に戻ろうと勢いよく矢を押し出した。ビュン、という風切り音が優里の耳に届く。
「きゃあっ!」
 続いたのは風里の悲鳴だ。
 優里がそちらを見やると弓を落として腕を押さえている風里の姿があった。
 それが油断であった。
「や、やばっ!?」
 気付いた時には遅い。目の前で青年、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)が剣を振り下ろそうとしていた。彼は笑顔で口を開いた。
「訓練の前に言ったろ? 怪我じゃすまなくなるぜってな」
「くっ――」
 剣で相殺できる、そう思ったのかはわからない。
 だが優里は手にした剣で猪川の攻撃を防ごうとした。しかしそれは彼の笑みと、叫びと、遠慮のない一撃によって崩された。
「甘いぜえええええええっ!!」
 ガキンッ、という金属がぶつかり合う音。
 ビリビリと腕に伝わる衝撃。
 耐えられず優里は剣を手放してしまった。
「いってぇ……」
「情けねえなあ。型も出来てないじゃんか。練習の時みたいに扱ってみろよ」
「実際に戦うのと練習とじゃ違いすぎますよ」
「そりゃそうだけどな。けど相手が敵だったら待ってくれないんだぜ」
「全力でやったのに手も足も出ませんでした」
「これでもそこそこ経験積んでるからな。簡単にはやらせねえよ。ってか真正面から合わせようとするのは力量差ある相手にするもんじゃねえな」
「そういうときはどうしたら?」
「そうだなあ。こう……剣を少し斜めに構えて逸らすようにすれば無理に受け止めずにはすむな。それでも達人相手だと手元で払われて隙だらけになるだろうが、まあそういう相手と戦うことなんて滅多にないから安心しろ」
 猪川が優里と話している間、風里ももう一人の男性、藍華 信(あいか・しん)と言葉を交わしていた。藍華は風里の腕を気遣うように近づく。
「急所は外したが、大丈夫か?」
「……余裕よ」
「なら大丈夫だな」
 むう、と風里は痛みをこらえながら藍華を睨む。
 結構辛いと伝えたいようなのだが、それとは真逆に伝わっているのが嫌なのだろう。だが藍華はそんな彼女の様子を『負けたことを悔しがっている』と汲み取ったようで――
「まだ弓の使い方は教えたばかりだから太刀打ちできないのもしかたない」
「私の腕ではすぐに戦えないわ」
「そんなことはねえさ。東雲は狙いすぎる癖があるだけだからな。もちろん当てるのは大事だが、威嚇するためにある程度は外してでも撃つこともある。そうすりゃ同じ弓使い同士なら仕切り直しにできるかもしれねーし、剣士相手なら距離を取る時間が稼げるかもしれねー」
 最悪、近づかれても振り回して打撃を与えられるしな、と彼は笑った。
「なんにせよ――」
 藍華と猪川は二人に向き直ると続けた。
「基本は教えた。あとは使い込んで慣らすだけだな」
 使い始めてから二時間は過ぎているというのに、手にしている剣と弓に優里と風里は違和感を覚えていた。地球にいた頃はナイフや包丁しか使ったことのない二人には慣れるまでまだ時間が必要なようだ。