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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:磨かれる原石

 緋王 輝夜(ひおう・かぐや)は優里と風里の二人を前にして言った。
「あたしはこんなナリだけど、ちゃんとした大人だから甘く見ないでね」
 告げた彼女の姿は優里たちと同年代に見える。
 だがその立ち振る舞いからは今まで訓練をしてくれた人たちと同種の強さが感じられた。
 威圧感とでも言うべきだろうか、どこか人並み外れている、そんな感覚を二人は覚える。
「私、無駄なことが好きなのよ」
「フウリってば、教えてもらうっていうのに失礼だよ」
「ふんっ」
 やれやれ、というように緋王は風里の前に歩み寄ると口を開いた。
「あたしが教えられるのは、緊急時における体術・拳法とか格闘技みたいな本格的に長い修練を必要とするモノじゃなくて、咄嗟に役立つ護身術みたいなモノね」
 座って、と風里に告げると座るのを見計らってその身体に蹴りを入れた。
 咄嗟のことに風里は受け身がとれず、腕で蹴りを防ぐのが精一杯であった。
 腕に響く痛みと共に身体が横に押し出されるのを感じる。その先には優里の姿があった。
「避けてっ!」
「無理ーっ!!」
 もつれ込むように倒れる二人。
 そんな様子を見つめたまま緋王は続けた。
「敵に襲われる時って大概不利な状況なのよ。例えば、寝込み食事とか排泄中なんてのもある。基本的に襲う側っていうのは圧倒的に有利なわけよ。自分の好きなタイミングで仕掛けられるわけだからね」
 実践して見せたということだろう。
 事実、彼女たちは油断していたところを狙われたわけである。
「ま、そんなわけだから講習より実技……身体でおぼえてもらうよー」
 まだ起きあがれていない二人に近づいていく。
 そんな彼女の脳裏に浮かぶのはとある人物の姿だ。
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)、今や当時の見る影もない異形の存在となった人だ。
 彼女にとっては忘れることのできない人物である。
(自分とは比べるまでもない強者っていうのがこの世界にはありふれてるんだよ。助かるためにはあらゆるものを活用できないと、ね)
「さあ、実戦訓練だよ。ここにあるあらゆるものを使ってあたしの攻撃を防いでね。頭で考えるより身体が動くようになるまで教えてあげるよ!」
 言葉通り、優里と風里は幾度となく彼女からの攻撃を防ぐ訓練を続けた。
 言葉通り、頭で考えるよりも身体が動くようになるまで、だ。

                                   ■

 緋王が休憩と言って二人の元から離れてから、ふらりと一人の女性が近づいてきた。
「誰だろうね?」
「……きっと良い人ね」
 風里は言うと立ち上がり警戒する。
 そんな風里の様子を見て女性は笑みを浮かべた。
「気をつけてね」
 女性は言うと胸に手を当て、息を深く吸った。
 直後、二人を咆哮が襲った。音、というよりは振動に近いかもしれない。
 ビリビリと身体が内側から震えるような感覚が二人の身体を蝕む。しかもそれは止む様子がない。
 優里が女性に視線を送る。彼女は胸に手を当てたまま口を開いていた。まるで歌っているような姿だ。
 音は確かに彼女から発せられているようだが、どう考えても肺活量の限界を超えている。
 それはつまり、ただの声ではない何かしらのカラクリがあるという事実を意味していた。
「ふぅ、こんにちは。私の名前はリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。いきなりで悪いとは思ったけどテストさせてもらったの」
 悪戯が成功した子供のような笑顔を二人に向ける。
「最高ね……やっぱり良い人だったわ」
「何だったの今のは……」
「咆哮だよ。たぶん武装で強化してるんじゃないか?」
 優里の疑問に応えたのは緋王だ。
 彼女はため息を吐くと告げた。
「優里は警戒心がなさすぎるな」
「面目ありません」
「見た目に惑わされちゃだめよ。ある程度は警戒しないと、ね」
「す、すみません」
 照れているのだろうか。優里はリカインから視線を逸らす。
 まだまだ新米冒険者たちは学ぶことが多いようであった。